りか ~勝利の為~
「先日は取り乱してしまい申し訳ございませんでした。私は理科代表の者です」
やはり叱られてしまったので、かあさんは気合を入れてやって来た。
鋭く瞳を光らせて、それは怯えと決意に満ちて洗脳されているかのよう。
柔らかい視線、それは恐ろしさと優しさに満ちて洗脳するかのよう。
微かに微笑みを浮かべる口元は、可愛らしくも企みを感じられた。
「なぜ優勝したいのか、でしたよね? 単純な話でございます。勝敗を付けることが出来るから、ですね」
彼女の回答には、誰も戸惑いを隠せなかった。
もっと模範解答のようなことを言うかと思っていた。
誰でも言えるようなきれいごとを言いたくなくても言うと思っていた。
だからこそ、彼女の回答には戸惑ってしまう。
完全に嵌められたと言っていいであろう。
理科代表の少女は、想定内の行動など取らない。
だって彼女は正真正銘天才なのだから。
「勝ちと負け、どちらがいいかと言われれば当然勝ちを選ぶでしょう? そういうことなのです。勝敗を付けることが出来るものであるならば、勝利したいと思うのが当然のことです」
感情のない微笑みで、かあさんは淡々と語った。
まるで台詞を読むかのように、勝利への思いを語り続けた。
いっそのこと、沢山語ってやろう。
そう考えたので、かあさんの言葉は止まることを知らなかった。
他の人が入る隙も与えず、ただ一人で語る。
そして最後の結びのみを綺麗に固めた。
そうすることにより、美しい想いを語り続けていたことになれるのだ。
「素晴らしいと思います、天才ですね。名乗ってもいいと思いますよ、国語代表と」
美しい想いなのだから、誰も何も言えなくなってしまう。
かあさんの計算ではその筈であった。
しかしこの中に天才は一人ではない。
少し意地悪く、倒置はそう言った。
飾り付けられた言葉は、各教科を代表する天才たちを騙した。
上手く騙し切ったと思われたが、国語代表だけは騙されなかったのである。
「とんでもありません。長々と自分が思うことを語っていただけですよ? 国語力なんて欠片もありません。からかうようなことを仰らないで下さい」
その言葉も表情も行動も、全て計算されたものであった。
たとえ計算が狂っても、すぐに新しい式を作ることが出来る。
だからこそ、彼女は天才と呼ばれてしまうと言うのもあるであろう。
「あまり自信はありませんが、私も言わせて頂きます」
自信がないと言う割に、そんな表情はしていなかった。
自信がある表情ではないのだが、自信を持たせようと言う表情。
それはないのであるけれど、ないのとは異なる表情。
「私が最後の勝者となります」