すーがく ~勝利の為~
「倒置くんが聞いてくれたし、僕も答えた方がいいんだよね。なぜ優勝したいのか」
パイとしては答えたくない質問でもない。
だからパイはそれを続けようと考えた。
それぞれの想いを知りたい、彼は素直にそうも思っていたから。
「け、結構です。それだと、私の醜さを晒さなければいけなくなってしまうではありませんか」
このままでは自分の番も訪れてしまう。
それを防ぐ為には、パイに続けさせてはいけない。
止める手段がわからず、それでもかあさんは必死に止めた。
その行動もしてはいけないもの。
彼女はそれにも気付いていた。
だけど、これ以上いい手段が見つからなくて。
急がないと、パイは答えてしまうので止めないといけなくて。
「素晴らしい企画を台無しにするようなこと言ってごめんなさい。でも、なんて答えればいいかわからなくて。ごめんなさい、演じ切れなくてごめんなさい。理科の名を守れなくてごめんなさい」
恐怖に駆られ、かあさんは混乱状態であった。
そして落ち着かせることなど、誰にも出来なかった。
かあさん自身が、近付くことを許さなかったから。
「あのっ! あの、う……ごめんなさい」
落ち着かせてあげられたら。
そう思い、少年は叫ぶ。
叫ぶけれど勇気が足りなくて。
謝ってしまい、自分を守る為に玉結びとなってしまう。
自分を守る為に、かあさんを守ることは諦めてしまう。
「謝らなくていいんだよ! オレがお前のことは守るっつっただろっ!? パイ、続けてくれ」
どうしていいかわからず、短距離走は怒鳴るように言ってしまう。
かあさんを怯えさせながらも、怒鳴るように言ってしまう。
落ち着かせるよう背中を摩り、パイに続けさせるよう促した。
そうしなければ、かあさんはまた乱してしまうから。
パイの話の途中では、絶対かあさんは乱さない。人の話を打ち消すようなことは、どんなに精神状態が不安定でもしない。
それがわかっていた。
彼女は怯え、その力には長けるようなってしまったから。
「数学って、子供が嫌うイメージあるでしょ? だからさ、数学の楽しさを伝えたいと思うんだ。優勝に拘るつもりはないけれど、優勝した方が。って思うのよそれだけ」
喋り辛い。そう言うように、短距離走の姿を見る。
しかし想いを無駄にしない為、パイは自然を装った。
生まれながらの天才は、幼いころからそんな気遣いをしてきたから。
その点はかあさんと似ているとも言えるパイ。
だから重ねていたのかもしれない。
二人ともお互いに……。
「最後の勝者は僕だね」