ぎじゅつかていか
「きゃぁあっ! 助けて下さい」
声の高い少年の悲鳴が響き渡る。
短距離走は組体操をしようとしていたらしい。
そして練習の相手として、近くにいた少年を捕まえた。
運悪く選ばれてしまったのが、彼と言う訳である。
技術家庭科を代表する、キャラクターを演じていない気弱な少年。
「最早虐めね」
そう呟き、墾田ちゃんは目を逸らす。
目の前で少年が苦しめられている。それでも、助けに行くだけの強さを持ち合わせていなかった。
「弱き者は、散り行くしか道などなきか。己の身は己で守るべし。それが出来ぬなら、生きる意味もなきかな。少年よ、頑張りたまえ」
救うことなど出来ないと考えたパイ。
だから、少年の応援を精一杯した。
しかし”弱き者”は、強くなどなれない。
見捨てられてしまった。
そう思い、反対に気力を失ってしまう。
自分の力では勝てない。
誰も協力者なんていない。
つまり、戦ったところで解放されることはない。
それならば、大人しくしていて解放されるときを待とう。
そう考えたのであった。
憐れな少年を、誰も救いはしなかった。
少年に闘志がないと、救おうとしなかった。
救われて欲しいと願う者はいた。
救いたいと願う者もいた。
標的にされぬように、彼に掴まっていて欲しい者もいた。
彼のことなど見てもいない者だっていた。
誰も動かない。
だから短距離走も少年の気持ちに気付かない。
このままじゃ不味いと、一人の少女が立ち上がる。
「その子、もう疲れたみたい。このあとの練習、その子の代わりになれないかしら」
普通にしていれば、彼を救うことなど不可能。
考え付くたった一つの方法を取った。
彼を救う為、自分が犠牲になる。
そんな行動を、見事彼女は取って見せたのだ。
勇気を出して、彼女は少年の為戦ったのだ。
「いいぜ。他の皆も頑張れよ」
短距離走は彼女の提案を呑む。
少女の勇気により、憐れな少年は救われた。
「ありがとう、ございます。今度はきっと、私が貴女のことをお救い致します」
そうは言うものの、何をすればいいのかなんてわからない。
どうしたら、彼女を救い出せるのかわからない。
何も出来ずにいた。
そして時間が経つと、短距離走が一旦休憩をしてくれる。
チャンスだと思い、その間に少年は彼女を救い出した。
勇敢に戦った二人の下に、優しく微笑んで倒置は向かう。
「何も出来なかったぼくを許して下さい。お二人とも、とってもカッコ良かったですよ」
サービス精神満載な彼は、そう言って二人の頭を撫でてあげた。
愛しの彼の褒め言葉、優しい微笑み、温かい温もり。
二人にとって、これ以上に嬉しいことはなかった。
「ありがとう。倒置様が助けようとしてくれたら、勿論嬉しい。それでもさ、怪我させちゃったら死ぬほど苦しいから。何もしなくて良かった、何もしないでいてくれてありがとう」
心から嬉しそうな笑顔を浮かべ、シャープは倒置にお礼を言った。
隣で気持ち良さそうにする少年も、同じような気持ちであった。
「シャープ様も倒置様も大好きですし、私にとって大切なお方です。お助け下さったのは嬉しいのですが、お怪我だけはしないようにして下さい。シャープ様、倒置様を幸せにしなければ私が貰って行ってしまいますから。倒置様も、シャープ様を守って差し上げなければ私が貰って行きますから」
自分を嫌う少年が、ここまでのことを言うのは珍しかった。
彼は、それほどまでに二人のことを大切に想っていたのである。
自分はそこに入れないから、せめて二人の恋を見守りたいと思っていたのである。
愛しの彼の隣、シャープは笑顔で言う。
「これが運動の力なのかな」