びじゅつ
「待ちに待ったお昼、友達と弁当交換」
落ちていた紙を拾い、それに描かれていた字を色彩は読み上げる。
短距離走手書きの文字。
色彩でなければ読めないような文字であった。
「文字、上手だね」
読めないほど下手な文字に対し、色彩はそう言う。
芸術家の彼女としては魅力を感じるバランスの悪さなのだろうか。不思議には思ったが、色彩が上手と言っているので否定はしなかった。
そしてその言葉には、短距離走は一番驚いていた。
「嘘だろ? その文字が上手なのかよ」
自分で字の下手さはわかっていた。
だから体育祭開催を決める報告を作ったときには、手書きの文字を諦めた。
コンピュータも苦手なので、かあさんに作成して貰っていたのだ。
その時間がなく已むを得ず手書きで描いたようなもの。
それを上手と言われるとは思っていなかった。
「まあ、んなことより弁当喰おうぜ。友達と比べて交換して、楽しいだろ」
しかし誰も弁当なんて用意していない。
まずその前に、集合の前に朝ご飯を食べて来たばかりである。
待ちに待ったお昼、などと言われても困るしかなかった。
だって毎日昼は訪れる上、今は昼でないのだから。
「弁当はどこにあるんでい? おいらは用意していないぞ」
疑問な点をかんなが問い掛けた。
「今から作るんだよ。そうすりゃ、昼にちゃんと食い始められるだろ」
体育祭要素を失った、意味のわからない言葉であった。
だってどう考えても、それは体育なんかではない。
「料理じゃあ家庭科じゃないの」
なぜか自分の教科を用意してくれた。
不思議に思いながらも玉結びは感謝。
家庭科代表として料理の腕を振るう。
弁当の交換なんかではなかった。
ただただ、全員で玉結びの料理を堪能しただけである。
「最高ね。ほんと、最高に美味しいわ」
墾田ちゃんなんて、凄い食べっぷりであった。
満足したらしく、楽しそうに叫ぶ。
「これが運動の力なのね!」