しゃかい
「もう疲れたわ。なんで、何日にも渡って遊んであげなきゃなんないの? 信じらんない。あたしは社会代表で来てるんだから、体育サボっても文句は言われない筈よ。ほんと、ほんと信じらんない」
遂に墾田ちゃんが叫び出す。
彼女は気付いてしまったのだ。
自分は文武両道を目指している訳ではない。社会代表として、社会の素晴らしさを伝えに来ているのだと言うことに。
そして彼女の言葉により、他の人も目を覚ます。
体育代表ではない。
つまり、体育が出来なくても敗北にはならないと言うことに。
「今日、不参加にするわ。あんたが一人で進めるのはいいけど、そんな横暴を繰り返しても民は着いて行かない。ふん、気が向くことがあればも一回参加したげる」
楽しそうに登場する短距離走に、冷たく墾田ちゃんは吐き捨てた。
体育祭を楽しいと、少なくともかあさんは感じていた。
しかし彼女は体育がない為、正直何日も連続で開催されるのは疲労が酷かった。
自分の限界を知っているのに、楽しさで無理をしてしまう。
そんなかあさんの体も考えると、短距離走は休みを取るべきだと思った。
さすがの彼でも、それくらいは気付けた。
さすがの彼でも、かあさんのことは大切にしたかった。
「ありがとう。こんで……なんとか、ありがとう。大切なことに気付けた。今日は休憩としようか」
感謝の言葉を述べるものの、短距離走はわざわざ墾田ちゃんを傷付ける。
無意識ではあるのだが、墾田ちゃんはバカにした仕返しだとすら思った。
だって彼女は、他人の名前を憶えないなんて失礼なことありえないから。
確かにバカにしたりはする。
それでも、素で失礼なことをしたりはしない子だから。
「……ぐっぐっくくん」
小さな両手で水筒を掴み、色彩は水分補給。
このように勝手なこともありえないから、墾田ちゃんは腹を立てる。
しかし色彩が可愛くて、それに見惚れるミスターが可愛くて。
二人の微笑ましさに、墾田ちゃんもつい微笑んでしまっていた。
「美味しい。体を動かした後だからかな」
視線に気付かず素直な気持ちで色彩は呟く。
そして全く感情のない無表情で、素直な気持ちを呟く。
「これが運動の力だね」