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あなたはどのきょーかがすき?  作者: ひなた
倒置 えんぎ
124/189

ほけんたいく

「昨日は驚いたぜ。んなことするなんてよ」


 デリカシーの欠片もないらしく、短距離走はそんなことを言って笑う。

 その言葉にまた泣き出してしまいそうだったが、かんなを演じることにより耐える。


 かんなならば、ずっと笑っていられる強さを持っていたから。


 しかしずっと笑っているから、短距離走は気付いてくれない。

 傷付いていることに気付かず、先日の告白を演技と思い褒め称える。


 弱いのに強さを演じるせいで、彼の心はボロボロであった。


「それよりも、今日はどのような設定で? 短距離走さんの演技、楽しみです」


 涙を堪える少年を見ていられなくて、かあさんは演技を始めるよう短距離走を促す。


 短距離走も悪気がある訳ではない。

 そう言われれば、普通に演技を開始する。


 まるで、何事もなかったかのように。


 彼にとっては何事もなかったのだから、当然と言えば当然であろう。


「強がらなくてもいいのです。弱いあなたを見せて下さい、ね? 強がるあなたではなく、そのままのあなたの方がぼくは好きです。ぼくのせいで、あなたが壊れてしまうのが嫌なのです。特別にはなれませんが、友達でいては貰えないでしょうか」


 そして少年の心の穴に、再び倒置は溶け込んでいく。

 あまりにも彼は優しかったけれど、彼の言葉に嘘はなかった。


 倒置としても、隣にいたいとは思うほどに好きだった。


 それはかなり珍しいことである。

 一人を好む倒置が、そう思うほどに好かれている。


 満足。

 これ以上欲は湧かず、満足することが出来た。


「残酷過ぎます。私はフラれた相手と友達として、付き合っていかなくてはいけないのですか? ありがとうございます」


 求めていなかった、傷に沁みる辛い言葉。

 だけど少年は、それで十分満足であったのだ。


 それほどまでに、少年の胸には大きな傷が空いていたのだ。


「それでは、ぼくたちも演技に参加すると致しましょうか」


 倒置の美しい微笑みに、少年は笑顔で大きく頷いた。

 それはまるで、洗脳されたかのような笑顔。


 それでも少年は幸せに包まれていた。


「諦めるな! さあ、立ち上がるんだ!」


「危険過ぎるわ! このままでは死んでしまう。田中ぁぁぁああ!!」


 短距離走は、演技が上手いと言うよりも設定があまりにもわかり辛い。

 ある意味策略では、そう思えるくらいであろう。


 だから殆んどが着いて行けず、短距離走とかあさんが二人で叫び合っている感じになっている。


「私に任せて。今封印を解き、全てを闇に葬り去ってやろう」


 二人の暴走を止める為、技術家庭科を代表する少年は戦う。

 かなり痛々しい、中二病キャラを演じ始めた。


 だってキャラクターを演じていれば、一時的に強くなれるのだから。


「へっ? えっと」


 それは一旦暴走を止める為の言葉に過ぎなかった。

 それでも短距離走には、予想外なまでの効果を発揮する。


 自分のシナリオと異なる言葉に、短距離走は戸惑ってしまう。


 かあさんと気が合い過ぎていただけ。

 本来ならば、一瞬で終わっても可笑しくない演技であったのだ。


 中二病台詞への返しなんて知らない短距離走は、何も出来ない。

 たった一言で、キャラクターを崩して見せたのだ。


「ありがとうございました」

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