ぎじゅつかていか
「皆、大好きだよっ。あたしは皆のあたしなんだから、嫉妬はだめだめ」
何を思ったか、作りに作った笑顔でそんなことを言い出した。
「それじゃぁ、一曲歌わせて頂きます」
エアのマイクを持って、技術家庭科代表の少年は踊り出す。
昨夜、一生懸命考えた技術や家庭科のPR曲。
しかし、彼にそのような能力はない。
玉結びが作詞し、かんなが作曲したのだ。
だからこそ、恥じらいを消して歌うことが出来た。
「好き。確かに皆のことが好き。それでもね、あなたはあたしの特別」
歌い切ると、倒置に歩み寄り耳元で囁いた。
唇を徐々に近付けていき、遂には倒置の耳を甘噛みする。
その行動にはさすがに驚き、皆顔を逸らし頬を赤らめる。
墾田ちゃん以外。
「え、嘘……。あはっ」
妄想でないことを確かめる為、目を擦って墾田ちゃんは見直す。
鼻息を荒くして、二人の姿に目を釘付けに。
「ちょっ、マイダーリンに何を」
飛び付こうとするシャープを、墾田ちゃんが止める。
「いいえ、特別にはなれません。ぼくだけのあなたではなく、皆のあなたでいて欲しいから」
咄嗟にそう言って、倒置は切り離す。
そして驚くことに、突き飛ばすとシャープの元へ。
「それにぼくには、大切な人がいますから」
はっきりと言うと、倒置はシャープの頬に優しくキスをした。
彼の温もりを感じ、シャープは嬉しさで頬を撫でる。
愛おしさを探すように、自分の頬を撫でる。
彼から貰った愛情の詰まった言葉、嬉しくって何度も頭の中で繰り返す。
「知っています。はい、知っています。完全にフラれて、私も漸くもう一度戦えるようになりました」
技術家庭科代表は、女ではなく男であった。
それでも彼は、倒置に恋をしてしまっていた。
その恋心を消したいと願い、勇気を出してここまでした。
フラれることが出来て、彼は嬉しく思う。嬉しく思いたい。
けれど、そんなことを出来る筈がなかった。
溢れる涙を隠す為、三角巾を一旦装着し玉結びを演じ始める。
そして笑顔で、無理矢理に浮かべたあまりにも悲し過ぎる笑顔で言う。
「ありがとうございました」