びじゅつ
「僕を見て。皆、僕を見て」
微笑んで、色彩は両手を広げる。
彼女は必死の演技のつもりだった。
それでも表情を変えることが出来ず、普段通りの姿との大きな違いは見られなかった。
「ほら、こんなにも醜いよ。僕のように醜き存在、他にいるだろうか。皆、僕を見て元気を取り戻して」
キャラクターとしても、本人と大きな違いはない。
無表情である為、演技に向いていると思われていた色彩。
けれど普段の無表情は演技でないので、かなり演技には不向きなのであった。
努力しても、表情の変え方なんて知らないのだから。
表情を作ることが出来なかったんだ。
ここに来て、笑顔と言うものを知ることが出来た。
知りはしても、それを意図的に作れるまでには至っていない。
「ネガティブな考えは捨てて良い。そんなにも美しいのだから、笑うと良い。僕とは違うのだから」
色彩の微妙な演技に、どう対応していいものか戸惑った。
確かに色彩と離れていると言えば離れている。
それでも普段の色彩との違いが見当たらなかったのだから。
「いいえ。貴女は美しい。貴女ほど美しいものはいないでしょう」
色彩のそんな言葉を聞いていられなかった。
だから色彩は、呟くように言う。
「ありがとう」
その言葉が欲しかっただけ。
その言葉が欲しかっただけなのだ。
ミスターに言って貰い、満足そうに色彩は頭を下げる。
「ありがとうございました」