おんがく
「お城の外には何があるの? ねえ、倒置。わたくし、お城の外に出てみたいわ。共に来ては貰えないかしら」
シャープは初めから九日に一度の自分の回を楽しみにして、この企画を提案していたのだ。
指名されてしまい、倒置は少し驚く。
しかしキャラ整理はされていなくても、咄嗟で演じられるのが彼だ。
「姫、落ち着いて下さい。城の外には悪魔が潜んでおります。出るのは危険と、何度言えばわかって下さるのです? いくら姫のお願いと言えども、それだけは無理にございます」
その設定に合わせて、優しく倒置は説得するように言う。
それだけでも、もうシャープは満足。キャラクターだって失ってしまいそうだった。
だけど少し欲張って見たかったんだ。
大好きな倒置に、姫と呼ばれるのが嬉しくて。
もう少しだけ、その幸せに浸っていたいから。
必死に喜びを隠し、お淑やかに姫らしく微笑んでいた。
「ざけんなよ! てめぇ、なめてんのかぁ!?」
「っせぇ! ここはよぅ、おめぇみてぇな奴が来ていい場所じゃねぇんだよ」
少し離れたところで、墾田ちゃんとパイが息ピッタリにその演技をする。
二人とも演技力は高いのだけれど、あまりにも演じるキャラクターを似合わな過ぎた。
完璧にそれらしい行動を取ってはいたが、かなりの違和感を生んでいる。
「ほら、ご覧下さい。あのような方々が溢れている場所、連れ出せる筈がないではありませんか。もうそのようなこと仰ってはいけませんよ」
倒置の言葉にシャープは小さく頷く。
そして本人へのサービスと言わんばかりに、倒置はシャープの頭を撫でてあげた。
彼の思惑通り、シャープの姫キャラは崩れていく。
そこまでして貰って、シャープは満足であった。
本当は、倒置を無理やり王子にしようとも考えていた。
それでも彼女はそこまで欲張ることが出来ない人だから。
心から幸せそうに、最高の笑顔で言う。
「ありがとうございました」