こくご ~墾田永年私財法、漢字も出来るもん~
「誰が優秀か勝負です、人気教科を決める前に。やらなくてもいいですけど、自信がないなら」
倒置はそんな提案をした。
挑発も含まれたその言葉に、乗らない人などいる筈がない。
「誰が優秀かなんて、そんなの決まってるじゃん。このあたし、当然でしょ?」
墾田ちゃんは、自信に満ちた表情で言った。
しかし、誰も気になどしていなかった。
「得意教科しか出来ないんじゃ、優秀とは言えないよね。代表しない教科で勝負とかどうかな」
いいコトを思い付いた。
玉結びはそうゆう顔で言う。
「……最初、倒置?」
誰も反対しないので、色彩が次の質問をした。
それにも反対する人はいなかった。
「ぼく以外が勝負です、国語で」
しかし勝負内容なんて決まっていない。
「困りますよね、雑学みたいなのでは。生活に支障出るくらい簡単なものでいきましょう、出来ないと」
自分は他の教科が全く出来ない。
だから、希望を求めて倒置はそう言った。
彼の言葉に皆も頷いた。
「どうでしょう、漢字など」
倒置によって、小学校高学年レベルの簡単な漢字問題が出題された。
レベルの割に、正答率はかなり残念である。
「こんなの簡単だよ」
そう笑う墾田ちゃんが、成績トップであった。
十問中九問正解で九十点だ。
全問正解した訳ではない。
それが倒置には不思議でならなかった。
なぜ、こんなのがわからないのか。
「優秀なのは墾田ちゃんだな。祝ってやろうぜ」
そう元気に笑う短距離走は、気にする様子もないが最下位だ。
一問も正解していない。つまり、零点なのだ。
「頭がいいのですね。得意教科以外も出来るなんて、さすがです」
素直に感心してかあさんは言葉を掛けた。
彼女は二位、八問正解で八十点である。
「さすがデス」
「すごい」
褒められた墾田ちゃんは、すっかりいい気になっていた。
嬉しそうに、偉そうに高笑いをしている。
「常識問題で何調子に乗ってるのさ」
彼女の嬉しそうな姿に、パイはそう言ってしまっていた。
本人も驚いている。
パイだって、素直に褒めるつもりだったのだ。
いつも彼は素直だった。
素直に言えていたからこそ、驚いていた。
凄いって、彼は一番褒めてあげるつもりだったのに。
「五月蝿いな。そんなこと言っても、そっちの方が低いのわかってるもん。だってあたしは一位なんだからね」
パイの言葉に、一瞬不機嫌な表情を見せた。
しかし墾田ちゃんだって負けていられない。
余裕の笑みを取り戻す。そして言い返してやった。
こうなったら、言い合いは本人じゃ止められなかった。
「僕は理系だもん。文系で一緒なんだから上で当然」
そう言うパイの成績は、低いとも言えるほどであった。
ギリギリ半分の五十点であった。
その上、救いようもないほど字が下手だった。倒置くらい優しい人じゃなければ、読めないと零点にされても可笑しくない。
「何言っても、あたしが一番であることに変わりはない」
そこで区切り、墾田ちゃんは大きく深呼吸。
自信たっぷりに言う。
「墾田永年私財法、漢字も出来るもん」
一教科目、国語の勝者が決まった。