しゃかい
「にゃっはっは! これだから人間は醜い醜い」
スタートの合図すら示さず、時間になるといきなり墾田ちゃんはキャラクターを始めた。
それには、少し驚いてはいたけれど戸惑いを露わにはしない。
「はい、人間は醜いものにございます。だからこそ面白い、そんな見方も出来るとは思いますがね」
先日の後半、乱してしまったことは完全に記憶から抹消。
変わらぬ態度で、変わらぬキャラクターをかあさんは演じてみせる。
墾田永年私財法を崩しさえすれば、自分はどうでもいい。
そう思って挑んでいるので、かあさんに躊躇いはない。
ただ思うがままに行動するので、ある意味対応は難しいとも言えた。
「そうか? 醜きものよりも、美しきものを愛す。そんな当然の考えの元動いているから、そのようなこと理解出来ん」
同じ設定にしないといけない、そんな決まりはない。
一度キャラクターを作ったら他のキャラクターを演じてはいけない、そんな決まりはない。
それでも天才はプライドが高く、設定を守り継いでいた。
それにより、自分が不利になることも重々承知の上。
天才たちは設定を守り継いでいた。
「さすがは神でございます。しかし、自惚れるのも程々になさってはいかがでしょう」
ニヤリと笑ったかあさん。
素直にムカつく墾田ちゃん。
かあさんの見事な演技を見ていると、任せてしまっていいような気がしてきた。
だから他の人は、かあさんの邪魔をしないよう黙り続けていた。
「美しきものに近付くは、自分が何にも負けぬ自信があるから。醜きものと並ぶは、醜き自分を美しく錯覚させたいから。こう考えると、私が最も醜いもののようですが」
最早、キャラクターを演じてなどいなかった。
設定に合わせてはいるものの、かあさんは本音を吐き始めている。
誰にも話せないことを、キャラクターを通じて話している。
決して気付かせなどしない、完璧な演技力で。
「……なるほど。ぅん、そだね」
しかし本音が混じり掛けていたからこそ、墾田ちゃんの胸を打つことが出来た。
キャラクターではなく墾田ちゃん自身が、かあさんの言葉に動かされた。
そして口元を押さえて、頷いてしまう。
「ありがとうございました」