すーがく
「自分と異なる新しいキャラであれば、そちらの方がポイントは高いんだよね」
それを確認すると、パイは完全に切り替えた。
キャラクターを演じる為、自分を一旦封印したのである。
「愛している。皆、愛しているよ。さあ、僕の胸に飛び込んでくるんだ!」
両手を広げて、恥らう様子も見せずパイは叫んだ。
パイも倒置同様、恥じらいを持ってしまっては演技に支障が出ると考えた。
だからキャラクターを自分を切り離して、恥じらいを全く持たずにいる。
「誰も来てくれない。そうか、僕は嫌われていたのか。それなら、ここで死すしかなきかな」
皆が戸惑っているうちに、今度は悲しそうにパイは言う。
普段からパイは素直ではある。
けれど、喜怒哀楽はここまではっきりしなかった。
あまりにめんどくさいキャラに、戸惑うことしか出来ずにいる。
そして他の人がなれ喋ろうとする前に、パイは滅茶苦茶な展開をしていく。
「君は罪人のようだね。だったらさ、僕に殺させてよ。君自身も死にたいと願っているみたいだし、丁度いいじゃん。罪を犯した嫌われ者を殺せば、僕はヒーローになれるんだから」
ずっと一人で喋っていれば、一日逃げ切り勝利となれる。
しかし、残念ながらそれには体力が持たなかった。
それに途中で邪魔を強引に入れられるくらいなら自分から巻き込もう。
パイはそう考えたのである。
「ええ、僕は重い罪を犯しました。しかし教わったのです、罪は償わなければいけないと。何をしても無駄だと気付いてはいますが、惨めに許しを請う為に働くのです。死へと逃げるなんていけないって」
設定を考えるのはめんどくさく、全て流れに任せたいと思った。
だからパイは、大まかな設定も自分では作らず先日の続編とした。
倒置が元を作った設定であるから、短距離走などは参加困難。
理解すら出来ないのだから。
それもわかっていたから、便利だと思いパイは利用している。
いかにも彼らしいやり方だと言えるだろう。
「少年たちよ、死など考えるには早い。それよりも、若き時代を楽しむべきであろう」
参加だけでもして、少しずつ話を崩して行かないといけない。
そう思い、前回と同じキャラクターでシャープも参戦。
しかし、パイはそう簡単に折れたりしない。
崩される前に自分で崩す、そんな人だった。
「だよね! 僕は死ぬべきでない存在だよね! 恥らう必要はない、愛する者よ我が胸に! でも、今のままじゃいつかは死ぬ。そうだ! 神様、僕に永遠の命を授けては貰えないかな」
真面目なムードを一掃して、パイは再び叫び出す。
自分とは遠く離れた二つのキャラクターを演じ分ける、そんな荒業をパイは成し遂げた。
自分でも少し誇っていた。
それくらいのこと、ずっとやり続けていた人もいるけれど。
「ああ、愛しているわ」「お前がおいらの妻を、許さん!」
玉結びもかんなも、本人と全く異なるキャラクターなので得点は高いだろう。
そしてその二つのキャラクターをやり慣れているので崩れることもほぼない。
玉結びとかんなが同時に別のことを言う。
その技には、驚くしか出来なかったが。
「……おお」
一人の少年から同時に発せられた、似ても付かない元気な少年とお淑やかな女性の声。
素直なパイは、つい感嘆の声を上げてしまう。
「ありがとうございました」