ほけんたいく
「にしても、可愛いな」
短距離走はポツリと呟いた。
彼が見ているのは、普段着で現れた技術家庭科代表の少年。
外見のイメージはガラッと変わったものの、浮かべる表情は玉結びと何も変わらないものである。
「可愛いとか、そう言って口説こうとしても無駄。心も体も倒置様だけのものなのだから」
自分に対する言葉と勘違いしたらしく、シャープは勝手にそんなことを言い出す。
しかしそれに、短距離走や倒置も含め誰も反応しなかった。
「んでもよ、勇気を出してキャラをやめてくれたんだ。オレらも、勇気を出さないといけないよな」
そう言う短距離走は、珍しく切ない表情を浮かべていて。
彼のその表情を、かあさんは見ていることが出来なくて。
かあさんまでも、普段の微笑みを崩し同じ表情を浮かべてしまっていた。
「そうですよね。いつまでも、皆を騙し続けているのも」
青い瞳を潤ませ、ミスターは俯きながら言う。
でもその言葉は、誰の耳にも届かず消えて行く。
言葉は届いていなかったけれど、悲しみを察知し色彩は歩み寄り手を取った。
「そのままでいいんだよ? たとえ偽りの姿と言われようとも、それもきみだから。偽物では、ないのだから」
息を吹き掛けるように、優しく耳元で囁く色彩。
それは、ミスターのみの為に発せられた言葉であった。
しかし隣で聞いていたかあさんの傷を癒すことになった。
ほんの少し、彼女の大きな傷のほんの一部。
だけれど、確かに色彩の言葉は心の穴を埋めてくれたのであろう。
「人に元気を与える言葉、か」
自分の持たないものを持つ色彩を見て、パイは素直に憧れていたのである。
そして笑顔で言った。
「さすがだね」