ぎじゅつかていか
「結婚、か」
呟いたかんなは、ちらっと倒置のことを見る。
「性別くらい晒したらどうなのよ。あんたが嫌って言うなら、強要はしないけどさ」
他の人は素性を明かし始めたにも拘らず、かんな&玉結びは個人情報らしきものを何も晒さない。
それが不平等とか勝手に言い出し、墾田ちゃんはそう言った。
彼女だって非常識のクズではないから、口調は強いけれどあくまでも質問。
答えたくない。
そう思えば、答えないと言う選択を取ることも出来る。
「それにより、片方の教科に偏ってしまうのが嫌だから」
玉結びが言った理由に、かあさんは疑問を持つ。
なぜなら、その理由ならば性別を隠す必要なんてないから。
「技術が得意な女性も家庭科が得意な男性も十分いらっしゃると思います。以前では偏りが出てしまうかもしれませんでしたが、今なら問題ないのではないでしょうか」
その言葉は、かんなにも玉結びにも衝撃を与えた。
そして、決意をさせた。
「そうかな。元々どこかで公開するつもりではあったし、終わりも近いから今言うね」
そう言って勇気を出すと、彼は三角巾を外す。エプロンも外す。
作業着姿で、にっと笑う。
家庭科が外され技術が残った。
教科を外した訳ではなく、女性ではないと言う意味である。
しかし彼の姿は、他の人を驚かせるような姿であった。
白に近いようなクリーム色の髪は、胸元まで伸びている。
ふわんと広がり、最後に纏まる。いかにも可愛らしいと言った髪型。
仮面を外し照れる姿は、とても少女のようで可愛らしかった。
「私は男だよ。でもこれからも、かんなと玉結びを演じ分けたいと思う。それぞれが意思を持ち始めちゃってるしさ」
頬を掻いて、斜め下に視線を向け彼はそう言う。
「演じ分けないで下さい、もう。危険です、本当に二重人格者になってしまいますよ」
いつも通り冷たい表情ながらも、倒置はそう言った。
かんなでも玉結びでもない彼は、驚くほどに意思が弱い。
倒置にそう言われてしまい、頷くことしか出来なかった。
「それでも私は、あの二人に頼らなければ何も出来ないし」
頷きはしたものの、彼は戸惑ってしまう。
しかし倒置は二言を許したりなどしない。
「あなたにも出来ます、かんな様や玉結び様に出来たことは」
そんな倒置の言葉を信じて、彼は決意を固めた。
自分の力で、自分自身として闘おうと決意した。
「あっ、じゃあ、えと、あの。な、名前は。なんっ、なんでもいいので。その、なんとでも呼んで下さい」
三角巾で顔を隠して、必死に言う。
今日だけ、彼が戸惑うのも今日だけ。
かんなや玉結びのキャラクターは戻ってくる。それが倒置にはわかり切っていた。
なんの感情も見出すことの出来ない微笑みを浮かべる倒置を、パイは同じ表情で見つめる。
そして笑顔で言った。
「さすがだね」