びじゅつ
「結婚エンド。実は賛成してる」
先日はシャープの乱しっぷりのせいで口を開けなかった色彩。
もういい加減落ち着いていてくれているので、そう口にした。
さすがの墾田ちゃんも、今日はそこまできょどってしまったりもしない。
「結婚しよう。一生きみを幸せにする」
違和感を持つこともなく、色彩はエアーで指輪をミスターに。
あまりにも自然に行うので、他の人も流そうとしてしまった。
「性別、逆じゃないか」
しかし騙されまいと、かんなはそう言う。
かんながそう言って、次々にそんな声を上げていった。
それでも色彩自身は何を言われているのか理解していなかったのだが。
「男性から差し出さなければいけないなんて法律、聞いたことない。別に、どちらでもいいでしょ」
彼女にとって、一般論は関係ない。
なぜなら彼女は一般人ではなかったから。
他と違うからこそいい。
だから禁止されていなければ、他人の目など気にしなかった。
それに対して、ミスターは普通でいいという意見を述べ続けている。
その意見は尊重されそうになるが、色彩の普通は普通でないので永遠に不可能であろう。
それはそれで、ミスターだって楽しんでいるのだから。
「でも女性としては、愛しの彼から渡される日を夢見たいじゃない」
うっとりして言うシャープの言葉に、色彩は全く共感する感情を持たず小さく首を横に振る。
喋るのもめんどくさいほど、シャープの言葉は色彩の心と遠かったのだ。
「やっぱ男として、指輪は貰うより渡したいもんな」
そんな短距離走の言葉に、ミスターは全く共感する感情を持つことが出来ず小さく首を横に振る。
愛想笑いで頷いて、それすらしないほど短距離走の言葉はミスターの心と遠かったのだ。
ミスターよりも、短距離走の言葉に反応している人は他にいた。
指輪を渡したい、その言葉に少し夢を見たかあさん。
彼女自身もそれには驚き、感情を押し殺して優しく微笑み直した。
そんな姿に、誰も気付いてはくれない。
「こいつらは異常者共ってことね。普通でいいとか言ってるけど、普通でいいなら男側が指輪くらい差し出しなさいよ」
呆れたようにミスターに言って、自分で墾田ちゃんは赤面する。
指輪と口にした瞬間、頭の中でパイの顔が浮かんで来たのだ。
すると、恥ずかしくて堪らなくなってしまった。
その可愛らしさに、パイは見惚れてしまう。
そして笑顔で言った。
「さすがだね」