おんがく
「そろそろ、終わりも近いって話はしているね? それだったら、やっぱ結婚でエンドがいいよ」
突然、訳のわからない希望をシャープは言い出した。
それに危機感を感じ、倒置は予め遠くへと避難している。
そんなこと、シャープには関係ないのだが。
倒置を捕まえシャープは語り出そうとする。
しかしその邪魔をする、可愛らしい少女がいた。
「け、結婚。けっこ、ここけっこ」
墾田ちゃんである。
まるでにわとりのようにそう言って、顔を赤く染めている。
それがあまりにも可愛らしくて、パイはからかおうとする。
だけど彼の言葉から零れたのは、素直な気持ち。
あまりにも墾田ちゃんが可愛くて、素直になるしかなかったのだ。
「僕と、結婚してくれませんか?」
ストレート過ぎるプロポーズであった。
だからこそ、墾田ちゃんは素直になれない。
二人とも素直になれる日は遠い。
だって今のこれが、この二人の恋の形だから。
「ふざけないでよ。あたしは、天皇としか結婚しない主義なの。それに、将軍様に内緒で結婚とかしたら大変だわ」
混乱している為、何時代の設定で言っているのか理解不能。
それでも一つだけ、パイには確かにわかることがあった。
「ありがとう。君にそう言って貰えて嬉しいよ。まだ歳的に結婚は無理だけど、婚約ってことだよね」
墾田ちゃんのことをわかり切ったパイだからこそ言える答え。
その答えは、パイのことを信じ切っているからこそ言える答えであった。
「意味わかんない! 勘違いしないでよ! 言っとくけど、あたし全然あんたなんか嫌いだし! 妄想とか気持ち悪い、ストーカーでも目指すのかしら」
冷たい眼差しは、温かさを隠し切れていなかった。
だからこそパイは、いつも通りに戻る。
いつも通りの対応に戻すしかない。
「失礼だね。君のストーカーなんて、誰もする訳ないじゃん」
二人が可愛く言い合っているので、シャープが叫ぶ。
「うっさいガキども! 今回はこの私が倒置様様といちゃつく回の予定だったのにっ!」
それは、好感度なんか気にしない叫び。
つまり、彼女の心の叫び。
「そんな回訪れませんよ、永遠に」
そう言い放った倒置は、シャープの頭を優しく撫でてあげた。
それだけで、シャープは幸せになれて満足出来て。
何を怒っていたのかも忘れてしまった。
倒置の手の魔術を、パイは心から感心。
そして笑顔で言った。
「さすがだね」