えーご
「仲良くなっています」
少し輪から距離を取り、ミスターは呟く。
それに一早く気付いた色彩は、心配そうに寄って行く。
「どうしたの」
何も読み取れない無表情で、色彩は問う。
あまりに表情がわからず、ミスターは答えを探してしまった。
今の色彩の心情がわからない限り、簡単に答えることは出来ないから。
「教えて。どうしてあなたは近付こうとしないのか」
何気なく言った色彩のその言葉は、ミスターのハートに深い傷を負わせた。
彼女だって悪気があった訳ではない。
それがわかっているからこそ、ミスターは傷付いたのだ。
「僕も近付きたいとは思っているんです。でも出来なくて」
コミュ障を名乗る人は他にもいた。
仲間。一瞬、そんな期待すらした。
それにより、自分がいかにコミュ障か思い知るだけの結果となってしまったのだが。
こうしてミスターは傷付いて行く。
「皆が仲良くしているのを見ると、避けられているとすら……。自意識過剰甚だしい。わかっています。それでも、避けられていると思えてしまい」
勇気を振り絞り、ミスターは色彩に苦悩を語る。
決して表には漏れないたった二人の話し合い。
この場に九人が集まっているのに、そう錯覚させるほどであった。
「いつの間にか、僕の方が避けてしまっていたのです。優しさも知っているのに」
言っていてミスターは、最早泣き目になってくる。
それでも色彩は彼を泣かせたりしない、決して。
「それに気付いているのなら、あなたはこれから」
ゆっくりと、説得するように色彩は言っていた。
それでもその言葉を遮る声があった。
鋭く冷たいような、優しい言葉。
「無理よ。それじゃ無理だわ」
秘かに二人の話を聞いていた墾田ちゃんである。
彼女はミスターの痛みを理解出来た。色彩よりも。
だからこそ、色彩の言葉でミスターは傷付いている。
それに気付いて、助けに来たのである。
助けなければいけない、そんな不思議な使命感に追われて。
「どうして? わたしにはわからない」
話を遮られてしまったのが気に入らないらしく、少し不機嫌気味の色彩であった。
それにも気付いたが、墾田ちゃんは怯むことなく続けた。
ミスターを守る為。そして何より、自分を守る為に。
「ええ、そうでしょうね。わからないから、あんたはその少年を傷付けているんだっつの」
あえて墾田ちゃんは、ミスターのことを名ではなく少年と言った。
それはミスターのことをこれ以上悪戯に傷付けたりしないようにする判断である。
「そうなの? それなら、わたしに教えて欲しい。何がいけなかったのだろう」
冷静さを保つ色彩が、墾田ちゃんはどうしても嫌いであった。
感情を表さない色彩が、墾田ちゃんはどうしても苦手であった。
だから怒鳴るように言ってしまう。
「んなの、自分で気付かなきゃ意味ないわよ」
怒鳴るように、小さな声で言った。
ミスターを驚かせないようにと。他の人の邪魔をしないようにと。
そんな墾田ちゃんの気遣いも、色彩は気付くことが出来ないのだが。
「もう大丈夫です。僕が強くなれば、それで済む話ですから」
これ以上聞くのも辛くなり、ミスターは遂に逃げるような言葉を吐いた。
「ごめん。でも、強くなんてならなくてもいいの。簡単。わたしが守る。わたしに守られることをきみは恥じるかもしれないけれど、わたしはきみを守りたい。わたしに守らせて欲しい」
どうしていいかわからず、色彩はそう言った。
それは、ミスターを悩ませるもの。それは、ミスターは和ませるもの。
自分の感情が理解出来ず、もう一度キャラクターを作り直し、ミスタエックスは微笑むしか出来なかった。
その姿を、パイはじっと見つめている。
誰にも聞こえない声、誰にも届かない言葉、誰にも伝わらない笑顔。
それでも笑顔で言った。
「さすがだね」