しゃかい
「今日はニヤニヤしているわね。どうしたの? 気持ち悪い」
冷たい眼差しで墾田ちゃんはかんなを見ていた。
彼は確かに嬉しくて、顔が自然とにやけてしまっている。
しかし演技力も確かなので、微かな違いであった。
墾田ちゃん以外は、誰一人気付いていなかっただろう。
「なんでもねぇよ」
演技力に自信を持っていたし、かんなだって気付かれるとは思っていなかった。
「そちらもニヤニヤと。まあ、そっちはいつものことだから今更言わないけど」
次にシャープの方を見て、墾田ちゃんは言った。
二人がにやけているのは、完全に同じ理由である。
そうなのだが、そこまでは墾田ちゃんも気付けない。
なぜなら彼女は、他人のことを気に掛けてばかりだから。
「幸せ者ね」
二人を蔑みながらも素直に首を傾げる墾田ちゃん。
その耳元で、シャープは優しく囁いた。
「髪は大切にしなければいけませんよ、女性なのですから」
シャープが余計なことをしてしまうので、勇気を出して倒置は言う。
彼は墾田ちゃんの髪を整えてあげようと、様々な道具を用意していた。
それでも言い出せなくて、勇気を出そうと努力していたのだ。
その姿が可愛らしくて、シャープとかんなはにやけてしまっていたということである。
「別に構いやしないわよ。女性だなんて思っていないし」
倒置の言葉に喜びも感じていたので、それを隠すように素っ気なく墾田ちゃんは返す。
しかしそれにもめげず、倒置は言った。
墾田ちゃんにもうそんなこと言って欲しくないと、勇気を出した。
「想い人がいらっしゃるでしょう、あなたにも」
そう言われてしまい、墾田ちゃんは顔を赤くするしかなかった。
そう言われてしまい、墾田ちゃんは小さく頷くしかなかった。
「羨ましいわぁぁあ♪」
嘆きのようにも聞こえる、美しい歌声でシャープは言う。
「羨ましいぜ。んなこと言って貰って」
その声に掻き消されてはいた者の、小さな声でかんなも呟いていた。
「この場でというのも恥晒しのようですよね? ごめんなさい。しかしこの場以外で会うと言うのは可笑しいですもんね。ごめんなさい。と思った結果、こうなってしまったのです。ごめんなさい」
謝りながらも、倒置は墾田ちゃんの髪を纏めていく。
他の人は、ただ見惚れている。
美しく手際の良い倒置に。その手により美しくなっていく墾田ちゃんに。
「なんか、恥ずかしいわね」
頬をピンク色に染めて、墾田ちゃんは自分の髪を撫でる。
まるで自分のものではないようと、喜びの声を上げる。
乙女らしくなった墾田ちゃんに、パイは見惚れてしまう。
そうしてくれた倒置に、感謝すら覚えた。
そして笑顔で言った。
「さすがだね」