りか
「凡人などと、見下ろした言い方をするのはよくないと思います。しかし、最終投票が最も大切になるのは事実。そこでどうなるか、ですよね」
パイと同じことを言うにしても、かあさんはちゃんとフォロー。
凡人すらも敵に回さないような言い方をする。
それほどまでに彼女は、勝利に拘る必要があったから。
「皆様は、本当に勝利なさいたいのですか? 軽い気持ちで来ているのならば、私に勝利を譲って欲しいのです。本気で言っていますよ。どうしても、どうしても勝たなければいけないのです」
頭を下げるだけでなく、かあさんはその場に跪いた。
敗北と言う恐怖を本格的に感じ始め、なんでもすることを決意したのだ。
「そんな無様な格好を晒してしまってもいいの? 頭の良さそうな理科もその程度なのか、とか思われないかしら。んなことするくらいなら、正々堂々戦って勝利しなさいよ。そちらの方が、あたしらもあんたも気持ち良く終われる筈だしさ。あんたなら、きっと勝てるよ」
かあさんの姿に憐れみを感じ、墾田ちゃんは優しい言葉を掛けてあげた。
ただ、墾田ちゃんだって優しいだけのバカではないのだが。
決まっている。
自分の好感度アップに繋がるから。
行動の理由にはそれだって含まれている。
そしてそれがわかっていても、かあさんには墾田ちゃんの言葉がありがたかった。
そんな言葉さえ、彼女にとっては希望になれた。
それほどまでに傷付けられていたのだ。
「笑わせないで下さい。私は自分の実力もわからないほどの最底辺に位置するような奴らと、貴方は仰るのですか? ここで勝利出来るほど優れてはいませんが、そこまで落ちてはいないと思っています」
キャラを死守しようとしていたかあさん。
しかし墾田ちゃんの言葉に対し、反射でそう返してしまった。
「いいえ、あんたは自分自身の実力を見誤っている。理科を代表するに相応しい、十分戦えるだけの天才よ。それなのにそんなこと言って、謙遜のつもり? 嫌味にしか聞こえないからやめなさい」
強い口調で言うけれど、墾田ちゃんだって優しいのだ。
自分を優先はするけれど、悪戯に”仲間”を傷付けたりはしない。
勝利という物に強い執念を抱いてはいる。
それでも、正々堂々勝ち取った勝利以外を求めてはいなかった。
「お前が優秀だってこと、皆もわかっているぜ? 大丈夫だから、楽しく戦おう。勝つことよりも楽しいことの方が大事。文句言う奴がいても、オレが守ってやるって言ったじゃん。信じられないってのかよ」
目を逸らし頬を掻き、優しく短距離走は言った。
その言葉はその優しさは、かあさんの心の穴に沁み込んで行く。
一生抜けはしない。
それほどまでに深く浸透していた。
そんなことを狙いもせず言う短距離走を尊敬を含める眼差しで見つめる。
そして笑顔で言った。
「さすがだね」