こくご
「決着を付けたいですよね、本当に」
投票も行われていることから、倒置は終わりが近いのではないかと考えた。
そしてそれまでにはっきりと勝者を決めたいと思った。
勝者が自分でなくても仕方がないが、曖昧な結果に終わるのは嫌であったから。
「負けを認めさせるだけでは終わらなかった。なぜなら、実際に敗北を認め諦めた訳ではないからね」
かあさんの非行を思い出し、パイはそう言う。
絶対に勝てないと思わせなければ意味がないと考えるのだ。
その為には相手を傷付けるのではなく、救う必要がある。
それが彼の考え。
「皆を口説き落とせばいいって訳ね。そんで、あたしに負けるんなら本望って言わせるんだわ」
ふざけたような墾田ちゃんの言葉も、強ち間違いではなかった。
「それでは、皆に癒しを与えられるよーに頑張りましゅ。それで絶対、絶対勝つんですからっ」
恥じらいを捨て去って、かあさんはそんなことを言い出す。
それは彼女らしくない行動であったが、彼女の外見には合っているとも言える。
特有のロリボも良く生かした言葉だった。
そして何より凄いのは、恥らう表情を全く見せなかったこと。
恥ずかしさは確かだが、それを全く顔に映しはしなかったのである。
確実に勝利を得る為には、完璧でいなければいけない。
だから彼女は、どんな手でも使ってやろうと思った。
「可愛いな。お前みたいに可愛い子にそう言われたら、もう誰でも癒されるわ。勝利を譲ってやろうって思える」
照れ臭そうにしながら、短距離走はかあさんを褒める。
励まそうとか応援しようとか、そんな言葉ではない。
素直な彼の口から零れた、本音であった。
そして彼がお世辞を言えないことを知っているので、かあさんは喜びを感じていた。
「ありがとうございます。勝利を譲って頂けるのですね? それは一人殺ってやったと考えます」
満面の笑みを浮かべて、かあさんは短距離走にお礼の言葉を述べた。
その笑顔を見れたのが嬉しくて、短距離走は勝利なんてどうでもよかった。
この中には現れ始めているのである。彼のような存在が他にも……。
勝利というものに対してそこまでの気持ちを持っていない人たち。
だから初めての気持ちに出会えて、このまま帰っても構わないと言う人たち。
しかし、そうでない人たちだって沢山いる。
勝利しなければならない、と。強く強く願っている人もいる。
「仲間を増やしていくんだな。確かにそっちの方が楽かもしんね。でもんなの、おいらみたいなじゃ出来ないな。美少女の特権さ」
嫌味の気持ちを込めていたが、天然の振りをする為にかんなでそう言った。
つまり、今のは本人の影が少し見えたということになるであろう。
完璧にかんなを演じ切っていたので、気付いた人はいなかったのだが。
ここで気付いていれば、かんなのことも玉結びのことも閉ざされた本人のことも救えた。
それでも誰も気付くことは出来なかった。
「美少女だなんて、とんでもありません。演技がお得意のご様子ですし、そちらも演じればいいではありませんか。ルックス的には私より上でしょうし、演じるキャラの差です」
微笑んだかあさんは、かんなのおでこを人差し指で軽く突く。
そのときにはもうキャラの切り替えにより、玉結びになっていた。
それでもかあさんの可愛さには戸惑わざるを得なかった。
玉結びを完璧に演じれず、惑わされてしまったのだ。
「あと少し」
かんなのキャラも玉結びのキャラも崩れ始めている。
それに気付いたので、倒置は小さく呟いた。
しかしパイはそれを聞き逃さない。
そして笑顔で言った。
「さすがだね」