ほけんたいく
「さあ、やって来い」
一言そう言うと、短距離走は消えた。
彼の全力疾走は、それほどまでに早かった。
目では追えないほどの速さだったのである。
「本気で勝利を目指させて頂きます」
小さく礼をして、かあさんは走り出した。
企画を読み、倒置は短距離走と共に走り出していた。
誰にも気付かれず、ふらふらと。
走る。走る。
短距離走が作り出した道を。
実際には足踏みしかしていない。
短距離走が用意した道。
過酸化水素水が作った機械。
「走るしか脳がないのね」
小さく墾田ちゃんは呟き、スピードアップ。
のろのろ走っていた人を、一気に追い越し走り行く。
「ただの持久走だと思ったかよ。ゴールはさせない」
元気に叫んだ短距離走は、指をパチンと鳴らした。
すると、道が急に動き出した。
崖のようなものも生まれた。
そう。墾田永年私財法にとって、戦い易い戦場となったのだ。
「愛しの彼を殺った奴、絶対に許さないわぁあ♩」
普通の道に倒れた倒置。
その仇を取ってみせると、シャープは鬼の形相で走る。
急な坂や立ちはだかる壁に、犠牲者も増えて行く。
そして遂に、残るはたった二人となった。
墾田永年私財法、シャープ。
この二人である。
「あたしの為にありがとね」
慣れた手で、墾田ちゃんは登って行く。
自然の中を進むのは、もう彼女に苦などない。
シャープは、倒置を想い無理をする。
頑張ったからって、倒置は救われない。
それよりも、救いに行った方がいい。
それでも倒置の為にシャープは進む。
彼の笑顔が見たいから……。
「ゴール、おめでとう」
笑う短距離走。
二人はゴールしたのだ。
限界も耐え抜き、ゴールしたのだ。
「こんなの余裕なんだから」
登って来たが崖を見下ろし、得意気に笑う。
危険はなかったものの、墾田ちゃんも相当お疲れのご様子。
「彼に褒めて貰うんだから」
嬉しそうにシャープは言うと、その場で倒れる。
本当は限界なんてとっくに超えていたんだ。
「皆、これからもオレと……」