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あなたはどのきょーかがすき?  作者: ひなた
シャープ しょうりへ
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おんがく

「切ないよ。どんなに手を伸ばしてもあなたには届かない、そう思うとまた涙が込み上げてきます」


 綺麗な声で、いきなりシャープは歌い出した。

 曲は自分で作り、歌詞は倒置の言葉を使ったのだ。


 さすがに本人はすぐ気付き、恥ずかしそうに微笑んだ。


 微笑んではいるものの、彼は恥ずかしさでいっぱい。

 シャープのことも巻き込み死にそうなほどであった。


「止めて下さいよ、そんな素敵な歌声で。恥ずかしいですよ、そんな歌詞じゃ」


 ドSで殺すのかと思いきや、倒置の言葉は比較的優しい。


 つまり、本格的にシャープを殺すつもりであるのだ。


 冷たく言っても彼女が喜ぶのはわかっている。

 だからあえてこう言うことで、恥ずかしさを共有しようとした。


「綺麗な歌。やっぱり、音楽代表は違う」


 罵倒しようとも思ったが、色彩は素直な気持ちを口にしていた。


 シャープの歌声は本当に綺麗で、誰もそれを否定は出来なくて。

 ただ聴き入るしか出来なくて。


「とても素敵な歌です、悔しいけど」


 恥ずかしそうにしながらも、倒置はシャープを褒める。

 音楽代表の実力を発揮し、誰もを虜にした。


 ただ、曲が終わったあとは酷かったのだが。


 絶賛を受けたのだから、それで終わりにすればよかった。

 しかしシャープはそれを選ばなかったんだ。


「どう? 良かったでしょ。ねえねえ、褒めて褒めて。ほら、褒めてよ」


 満面の笑みで、思い切り倒置を抱き締める。


 そんなことをされては、当然倒置は咽てしまう。

 苦しそうにもがくことしか出来なくなってしまう。


「その美しい歌声で勝利するのかと思いましたが、絞殺するつもりだったんですね? こほっこほっ」


 必死に上を向き、涙目で睨み付ける。

 そしてシャープは、その視線を嬉しそうに受ける。


「ごめん。可哀想、見ていられないわ」


 容赦のない墾田ちゃんだが、倒置の姿に憐れみを感じ救おうと考える。


 人の為に動くのだ。

 敵の為に、ライバルの為に動くのだ。


「オレたちが負けを認めれば、今日はこれで終わりになる。そうすれば救ってやれるだろ? 本当に殺しちゃうのは不味いじゃん」


 短距離走は、本気でシャープが首を絞めているもんだと思っていた。

 なぜならシャープは、苦しむ倒置を見ても解放しようとしなかったから。


 苦しむ姿を見たかったのだ。鋭い眼差しで睨まれたかったのだ。


「あたしたちの負けよ。ええ、あなたには敵わないわ」


 仕方がないと頷いて、負けず嫌いな墾田ちゃんがそう言った。


 恥を忍んで、頭まで下げたんだ。

 ぶっきら棒な言い方ではあったものの、それがむしろ敗北を感じさせたであろう。


「そんじゃこれからもぉぉおお♪」

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