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星渡りの船  作者: 紫生サラ
2/5

第二港

「……」


 ギィィ、ギィィ……。

 どこかで音が聞こえます。木と木がこすれるようなそんな音。

 ギィィ、ギィィ……。

 音はどんどん近づいて,大きくなっていくのです。


「……?」


 あまりの音にナナミは目を覚まし、あたりを見回しました。こんなに近くからこんなに大きな音がしたら、放っておく事などできません。

 ギィィ、ギィィ……。


「……!」


「えっ?」


 音はさっきよりもさらに大きくなりました。それに何だか叫び声まで聞こえた気がして、ナナミは慌てて外に飛び出しました。


「きゃああっ!」


「!?」


 ドーン! と夜空色の大きな船の船頭が庭に突き刺さり、船の中からコロコロと悲鳴を上げて黒い何かが転がり落ちて庭に生えた柿の木にぶつかり止まりました。


「イタタ……」


 黒い何かは体をさすりながら起き上ると、船に向かって言いました。


「もう、ストップ、って言ったでしょう!」


「すみませんです船長。止めようと思ったです。でも、間に合わなかったです」


 船の上で長い櫂を持つ黒いスカーフを首に巻いた黒い子猫は、背筋を伸ばしてビシッと敬礼をしました。


「もうしょうがないんだから……」


「……」


 ナナミが驚いた顔で猫を注意した船長さんと庭に刺さった船とを見比べました。

 船長さんは、月色に光る長い黒髪、黒いワンピースに黒い靴下、黒い靴を履いた高校生くらいの女の子でした。


「あ、あの……」


 ナナミは驚きながら、黒い船長さんに恐る恐る声をかけました。


「うん? ああ、遅れてごめんなさい」


 ナナミの声に船長さんはにっこり笑って言いました。

 振り返った船長さんがとても美人さんなので、ナナミは驚きました。

 ナナミは船長さんとは初めて会ったはずなのに何故だかどこかで会った事があるような気がして、顔を見た瞬間、なんだか安心してしまいました。


「さてと……」


 船長さんはポケットから懐中時計を取り出し時間を確認すると、刺さった船に目を向けました。


「ほら、そっちを支えて」


「やってるもん、これ以上できないもん」


 庭に刺さった船から黒いスカーフの猫と大きな赤いリボンを首にした小さな黒猫が出てきて一生懸命船を押しています。けれども少しも動きません。青いリボンを長いしっぽの先におしゃれに結んだ黒猫も出て来て一緒に頑張ります。

 ナナミも手伝った方がいいのかな、と迷っていると、船の中から若草色の手袋をした大きな立派な黒猫が出てきて一気に船を押し上げ、一気に庭から抜きました。

すると船はフワッと庭の上で浮きました。

猫達は歓声を上げて大喜び。


「ふん」


 若草色の黒猫は得意満面で船の中へと帰っていきました。


「さて、準備ができたわね。じゃあ、そろそろ行きましょうか」


「えっ、うん」


 綺麗な船長さんに手を引かれ、ナナミは黒猫たちの黒い船に乗り込んだのでした。


   ☆


 ある所に小さな小さな子猫がおりました。

 住処の公園、子供達が遊ぶ遊具のそばのベンチの上が子猫の特等席でした。

小さなその子はいつも不思議に思っていたのです。

 公園には色々な人や動物がやってきます。そのなかで、特に身体の大きな、長い毛並の気難しそうな顔した犬がいました。犬はいつも人間のおじさんと一緒に散歩でここに立ち寄りました。

 子猫は、公園で休むおじさんと犬のおじさんに近づき尋ねます。


「ねえ、おじさん。どうしてそんな紐につながれているの? あなたみたいに体が大きければ、人間なんか構わずに自由に走ることができるでしょう?」


 猫の問いかけに長い毛並の犬のおじさんは毛の奥の瞳でゆっくりとした動作で辺りを見回しました。


「……なんだ、子猫か」


「そうよ。ねえ、どうしてなの?」


 犬のおじさんが子猫に気がつくとフンと鼻を鳴らし、地面にお腹をつけました。

 一息ついて、少し間をおいてから、おじさんは低くて唸るような声でゆっくりとした口調で言いました。


「……お前は、自分がなんのために生きているのかわかっているか?」


 犬のおじさんの言葉に、子猫はまた首をかしげました。


「当然でしょう? そんな事がわからない生き物がいるのかしら?」


 子猫の少し背伸びした大人びた口調に犬のおじさんはまた鼻を鳴らします。


「ああ、そうだ。俺達はそんな事はちゃんと理解している。わからないなんて事はない」


 犬は自分のリードを握る人間を一度見てから、言葉を続けます。


「けどな、人間はそんな事もわからない、わからなくなったりする生き物なんだ」


「……?」


「だから、こうしてそばに寄り添っているんだ。……人間は、弱いからな」


「人間が……?」


 犬のおじさんがそう言い終わった時、ベンチで休んでいた人間のおじさんが立ち上がりました。どうやら出発の時間のようです。


「お前さんも人間と暮らしてみることだ。まだ子猫だから、どこでも行く事ができるだろう」


 犬のおじさんは人間のおじさんと歩調を合わせ、一緒に歩いていってしまいました。


「人間と、暮らす……?」


 人間のおじさんと犬のおじさんが公園を出ていくのを見送ったあとも、子猫はしばらくそこで考えていました。

 そして、やがて子猫も公園を出ていきました。


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