第三話 初期武器の威力についてどう思いますか?
店を出た俺は、さっそく銃とホルダーを装備することにした。まずはインベントリを開け、2丁のハンドガンとホルダーの「装備」のボタンを押す。すると腰にホルダーが付けた状態で現れ、しっかりとハンドガンも収まっていた。
「ステータス」
-ステータス-
《スン》
HP:1000/1000
MP:500/500
所持金:400L
武器:凡庸ハンドガン〈Lv1〉弾数・7 弾速・小 リロード・小 オリジナルスキル・強弾
凡庸ハンドガン〈Lv1〉弾数・7 弾速・小 リロード・小 オリジナルスキル・強弾
頭:無し
胴:ビギナーズアーマー(胴)
腕:無し
腰:レギンスホルダー〈Lv1〉
足:ビギナーズアーマー(足)
お、増えてる増えてる。やっぱり初めての物はどんなものでも嬉しいものだな。
基準がよく分からないが、多分これは最弱の部類に入るんだろう。初心者用とか言ってたし。ハンドガンより弱いライフルやマシンガンなんてゲームでは聞いたことがない。
おかげで残り残金400Lになってしまったが、どうやら武器も防具もレベル制らしいし、上げていけばしばらくは新しいのは買わなくても十分戦えるはず。
「まあ金はあるにこしたことはないか。よし! 次は資金稼ぎだな。取り敢えず魔物がいる場所に行かないと……」
そう思っていた矢先、不意に前から声がかかった。
「ちょっと、アンタのせいで店に入れないんだけど」
「へ?」
あまり抑揚のない声。ふと前を見ると、そこには小柄な少女が立っていた。
まず目に入ってくるのは薄い水色の髪。白なんじゃないかと一瞬思ったが、良く見ると暗いとこでは水色に見える。俺とほとんど変わらないビギナーズアーマー装備を付けていたので、GCOプレイヤーだとすぐに分かった。なるほど。これが最初にあった「オーダー」か。
その少女が何故か俺を真正面から睨んでいる。俺はあまりそっち系の趣味は持ち合わせてはいないので、なんだか少し居心地が悪い。
「な、何?」
「そこ。邪魔だって言ってるの」
そう言って俺の後ろをさしている少女の指に従って後ろを振り返ると、そこにはさっき俺が入っていたジンジャー工房のドアがあった。ああ、ここに入りたいのか。ステータスに夢中で気付かなかった。
「あ、ああ。悪い」
言われたとおりその場をどくと、フンと少女は鼻を鳴らしそのまま店へ入っていった。
「……なんか、俺の苦手なタイプだな」
何を考えてるのか分からない所がうちの姉貴に似てる気がする。……まさかな。
◇◆◇
ああ、この街は周りを魔物対策に城壁で囲まれていてね。街を出るには東か西の大通りをまっすぐ行けば門があるから、そこから出られるよ。 --東の大通りの通行人・アキルさん談--
とにかくこの街を出る必要がある。通りかかったアキルさんに言われたとおり東の大通りをまっすぐ行くと、突き当たりに大きな門があった。白くて大きな門には、鎧を付けた騎士が剣ではなく大きなハンドガンをつきつけ合っている。なんて言うか……やっぱりここには剣は存在しないんだな。
門の前まで行くと、目の前に見慣れてきた半透明のディスプレイが現れた。
--クエスト--
『シード付近・草原』
契約金 100L
始めますか? YES・NO
これはあれかな。クエストを受けないと出られない感じか。まあ100Lなら払えるし、通行料だとでも思えばいいか。
俺がYESを押すと、門がゆっくりと開き目の前に広大な草原が広がった。
瞬間、俺は息を呑んだ。
「……綺麗だ」
澄み渡る空。何処までも続きそうな草原。遠くにそびえ立つ大きな山々。そして優雅に草を食べる小食系の魔物。風は涼しく流れるように頬を撫で、日の光は暖かく俺を照らしている。何処を取っても絵になる。本当にこれがゲームの世界なのか疑いたくなるくらいだ。
「……ハッ!? 見とれてる場合じゃなかった」
確認したいことは沢山ある。まずはこの銃の性能と、自分がどれだけ銃を扱えるかだ。目標は一番近くにいたシカのような魔物。どうやらこちらが近づいても攻撃しないノンアクティブのやつみたいなので、最初の練習にはちょうどいいだう。
両腰から二丁のハンドガンを取りだして構える。射程内に入ると、マーカーが発動してシカの体に二つのターゲットマークが現れた。それと同時に右は二回、左は一回引き金を引くと、弾丸はまっすぐ飛び全弾シカにヒットした。
「よっしゃ! ……って、あれ?」
全弾ヒットした……のに、何故かピンピンのシカは俺の方へ向くといきなり鋭そうな角を向け突進し始めた。
「うぉあ!?」
とっさに横に前転回避して避ける。目標を失ったシカは俺のいた場所を通り抜け数メートル先で止まると、また俺の方へ向いて突進をし始めた。
「ちょっ! なんか思ってたよりアクティブ!」
とはいえ俺が避けてばかりじゃイタチゴッコだ。すぐさま気持ちを切り替えこっちに向かっているシカに銃弾を放つ。勢いよく飛ぶ銃弾はしっかりとシカに当たるが、それでもシカの勢いは衰える様子はなかった。
……どんだけ弱すぎやねん、これ。
い、いや! それでもダメージは確実に与えているはず! 途中弾切れでハンドガンの上に“RELOAD”の文字が出たりしたが、撃っては避け撃っては避けを3、4回している内にシカはガラスの割れる音と共にポリゴン状に拡散した。
「つ、疲れた……。こりゃ結構なレベル上げが必要だな……」
銃を扱う分にはアシストがあるので大した問題ではないようなので、資金集めと並行してハンドガンのレベル上げが新たな目的に加わった。
今度はもう少し弱そうなのを探してみよう。俺はこの綺麗で広大な草原を駆けるのであった。