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第二話 武具店ってご存知ですか?

~むかしむかし、6人の女神様がいるとても美しい国がありました。国にはたくさんの動物と人が暮らしていて、とても仲良しでした。しかしある日、突然動物たちが人に戦いをしかけました。人々は悪い動物たちと仕方なく戦いましたが、くしくも負けてしまい、国の半分以上が悪い動物のものになってしまいました~ 『フューシル王国物語・幼児用より抜粋』



◇◆◇



「……なんだ、いまの」


 視界が白に染まった数秒後、あのアバター設定のときの女性の声がまた響てきた。今回は声だけで何も現れない。そしてそれが終わると、目の前はガラリと大きな広場に変わった。

 あれはプロローグ的なやつなのか? にしては少し読み聞かせのような感じだった気がする。最後に「幼児用」とか言ってたし。


「取り敢えずこれは保留かな」


 今は深くは考えないようにしておこう。大事なことだったら後で調べればいいし、ストーリーなのなら後で進めればいい。


「とにかく今は最初の目的と、情報を集めることに集中だな」


 何せ今回は予備知識が極端に少ない。それはただ俺が何も調べなかったというわけではなく、事前にプレイしたことのあるβプレイヤー以外の、全てのプレイヤーに言えることだ。

 理由は、このゲームの製作したオズ社にある。オズ社はゲームの発表と同時に、ある衝撃的な宣言をした。それは、


『これから我がオズ社は、VRMMORPG、Gunガン Createクリエイト Onlineオンラインの情報を一切公開しない』


 というものだった。その宣言通り、オズ社はゲーム内容についてのインタビューは一切受けず、唯一中身を知っているβテスターの描きこみやスレをどうやったのか全て削除し、果ては公式ホームページすら開設しないという徹底ぶり。逆にそれが俺たちの気持ちを加速させたのだが、今思えばそれが目的だったのかもしれない。

 とにかく、βテストに参加出来なかった俺はこのゲームに関しての知識がないに等しい。これではうまく行動できないし、下手に外に出て早速死に戻りなんてまっぴらだ。


「それにデスペナルティーだってどんなものか分からないしな」


 自身の能力を知らなくては敵は倒せない。まず俺は自分のステータスを確認することにした。


「えー……っと、ス、ステータス?」


 俺がそう言うと、目の前に半透明のディスプレイが開かれる。疑問形になったのは触れないでくれ。



-ステータス-


《スン》


HP:1000/1000

MP:500/500


所持金:2000リル


武器:無し


頭:無し

胴:ビギナーズアーマー(胴)

腕:無し

腰:無し

足:ビギナーズアーマー(足)



 武器は持ってなかったのか。まあ自分の体を見てもそれらしきものはないし、今持っている金で買えってことだろう。HPもMPも差して気になるところもないし、防具も普通の服に少しだけ鉄の胸当てとひざ当てがついたようなよくあるものだ。だが、俺には少し気になるところが二つだけあった。

 まず一つ目は職業の欄がないことだ。あとあと追加されるのか、はたまた本当に存在しないのか。気になるとこだが、今はどうしようもないからスルーしておこう。

 そしてもう一つはスキルの欄も見当たらないことだ。これも職業と一緒なのか? もしかしたら他の場所にあるかもしれないな。思い立ったが吉日。俺は試しに「スキル」とつぶやいた。



-スキル-


無し



「ビンゴっ」


 予想通りスキルは別枠にあったようだ。他にも、オプション、インベントリ、クエストのディスプレイもあった。そして予想通り……どこもスッカラカンだった。いや、そりゃそうだけどさ、ちょっとぐらいビギナー特典とか期待したっていいじゃないか。

 オプションは音の大きさや表示の設定など、まあありきたりな物だ。

 とにかく、これで最初の目的は決まった。俺は広場を見渡し、手ごろな人に声を掛けた。


「すみません。武具店の場所を知りたいんですけど」


 俺の声に振り返る女性。ふくよかな体形で、色とりどりの野菜が入った大きなかごを抱えていた。


「冒険者かい? 武具店ならこの広場の東の方に大通りが見えるだろう? ほら、あそこさ。あの通りをまっすぐ進むと右の方に大きな銃の看板があるから、そこが武具店だよ。他にも武具店はあるけど、アンタは見たところ駆け出しみたいだからそこが一番丁度いいだろうね」


「なるほど。ありがとう」


「ちなみにアタイは反対の西の大通りにある酒屋、アルコルの店主、マーガレットだよ。腹が減ったらウチに来な」


 そう言って俺に小さな紙切れを渡すと、「じゃあね」と西の方に歩いて行ったマーガレットさん。おおざっぱそうな見た目だったが、親切丁寧に教えてくれて、紙切れもよく見るとランチの無料券だ。意外と面倒見のいい人なのかもしれないな。

 それに酒屋があるということは、空腹のシステムがある可能性が出てきたということだ。今までの空腹システムのあるゲームだと、空腹時はステータスの減少や移動速度の低下など、戦闘で不利になりそうなことばかりだ。街を出てみる前にこの情報を知れたのは大きい。

 幸先いいスタート。今日の俺は運がいいらしい。


「よし! この調子でいこう!」


 気合いを入れ直した俺は“アルコルのランチ無料券”をインベントリにしまい、東の大通りの武具店へ駆けだした。



◇◆◇



「へぇ、いろいろあるんだなぁ」


 広場から東の大通りに出ると、一気に喧騒に包まれた。広場には俺のような装備をもった奴はほとんどいなかったし、まだそんなにゲームを始めた奴は多くないと思うのだが、この騒がしさ。街が元気な証拠だ。

 それにしても色々な店が左右に列を連ねて、見てるだけで飽きそうにない。少し歩いただけでも、道具店、アクセサリー店、薬店、etc……。ここは冒険者向けの店が集中してる場所なのかもしれないな。その中でも一番気になったのは魔法具店だ。チラッと中を見てみたが、水晶やらなんやらが沢山乱雑に並べられていて、いかにも魔法具店って感じだった。

 魔法は攻撃だけでなく防御や回復も出来る筈。銃が手に入ったら次はこの店に入ることにしよう。

 そしてしばらく首を左右に振り回しながら歩いていると、マーガレットさんが言っていた大きな銃の看板が見えてきた。「ジンジャー工房」、それがここの名前らしい。ジンジャー……生姜?


「らっしゃい。うちはジンジャー工房。駆け出し冒険者向けの装備なら何でも揃ってるぞ」


 中に入ってみると、そこにはやっぱりと言うべきか剣の類はなく、棚や壁には様々な形の銃が並べられていた。防具の方も、鎧と言うよりも服と言った方が正しいような動きやすさ重視のものが多い。


「おすすめの銃ってある?」


「お、初心者か。ワシはジンジャー。この店で店主をやってる」


 このカウンターにいるちょび髭と白髪のまじった髪がよく似合うオッサンがこの店の店主らしい。初老だが、筋骨隆々の園体からはベテラン職人の雰囲気がひしひしと感じられる。作業中だったのか、額にはうっすら汗が浮き出ていて、左手には耐熱性の手袋をはめていた。


「今うちに置いてあるやつは大まかに分けると《ハンドガン》、《ライフル》、《マシンガン》だ。銃を扱ったことがないんなら、最初はハンドガンがおすすめだな」


 ジンジャーのオッサンはカウンターを出てこちら側に来ると、壁に掛けてあった二つのハンドガンを手に取った。


「こっちはオーソドックスなハンドガンだ。扱いやすいし、弾数もそこそこある。威力は若干低いが、まあその辺の魔物なら十分だろうな」


 オッサンは俺に右手に持っていたハンドガンを手渡す。確かに思っていたより軽い。補正はかかっているだろうが、おもちゃの銃とは違う何かを感じる気がする。……こっちもゲームなんだけど。

 デザインは意外とシンプルなよく海外ドラマとかで見るような形で、真っ黒な銃身が黒光りしている。試しに壁の方に構えてみると、向けた方にターゲットマークが現れた。


「ん?」


 するとそれとほぼ同時に頭の中からポーンという音が鳴り、スキルのディスプレイが自動的に開いた。



-スキル-


・パッシブ・


【マーカー】:Lv1 NEW!

 射程内の物体に対して銃を向けると発動するが、射程外に向けると消滅する。レベルが上がると最大で射程距離10m増加

 最大レベル:10



 スキルきたぁぁぁーーーー!!

 なるほど、射撃補助のスキルか。確かに剣なら何とか感覚で戦えそうだが、銃じゃそうはいかないもんな。当たらないんじゃ意味がない。


「そして、こっちの方はいわゆるマシンピストルだ。三点バーストで威力もさっきのハンドガンよりは上だが、こいつは少し反動が大きくて慣れてない奴にはあまりお勧めしない」


 次にオッサンが渡したのは、今俺が持っているのより若干シャープになった形のマシンピストルだった。三点バーストというのは一回引き金を引くと銃弾が三発発射されるといった奴で、対テロリスト用に開発されたとか。

 威力が高いのはいいことだが、反動が大きいのはネックだな。今俺が目指そうとしている戦闘スタイルはなるべく手数が多くて速い方がいい。速さで翻弄する……かっこいいじゃないか。


「じゃあハンドガンの方を2丁くれ」


「2丁? 余計なお世話かもしれねぇが、初心者にはちときついぞ」


「まあいいじゃないか。そのうち慣れるさ」


「ならいいが……。1丁800L。2丁で1600Lだ」


 所詮はゲームなんだ。効率で選ぶより好きな方を選んだほうがいい。俺は1600Lを払い、2丁のハンドガンを受け取った。


「ほら、これはホルダーだ。付けとけ」


 そう言ってオッサンは俺にベルトのようなものを投げて渡す。腰の両側には一ずつ銃のホルダーが付いていて、どうやら腰の装備みたいだ。


「いいのか?」


「初回特典ってことにしといてやるよ。どうせしばらくはここにいるんだろ?」


 ははは……ちゃんと商売をしているようで。よそに行かず武具ならここに来いってことだろう。苦笑しながら後ろ手で返事をすると、俺はホクホク顔でジンジャー工房を後にした。

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