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第二話*:開催、北斎杯!!

その4)

そんなことが各クラスでありながらも、北斎学園の入学式が始まった。

別に取り立てて変わったことは無い。他の高校と同じように、来賓からお祝いの言葉を述べられ、校長、理事長の長い、長い話があるだけ。

(…眠い)

誰もが話に同じ思いを抱きながら、必死になって目蓋を持ち上げようとする。

中には、目を開いたまま眠るという強者もいた。見ただけでは眠っているとはまったくわからない。

しかし流羽はそんな器用なことができるわけがなく、必死になって眠気とたたっていた。

だがついつい油断してしまい、ガクリと体から力が抜けた際、前列にいた男子生徒の背中に頭をぶつけてしまった。

「!!っ…ご、ごめんなさい」

すると彼は流羽を見て苦笑しつつも、気にするな、と目線でうなずいてくれた。

「大丈夫だよ。もう少しで、つまらない話もおしまいだから…次は面白いよ?」

「?」

意味深げな彼の言葉に、流羽は首をかしげた。するとタイミングよく、話の終わりが司会者から告げられ、生徒間からぱらぱらと拍手が起こった。

「それでは、来賓の方々の退場です」

そういわれて、来賓者がぞくぞくと講堂から退場していく。

(これで、一通り終わりだよね?次って…一体)

そして次の瞬間、その言葉の意味を流羽は十分に思い知ることとなった。

「え〜、全員静粛に」

司会者がコホンと咳払い。

「これにて入学式は終了。ここからは、生徒会に全権を預けます。くれぐれも乱闘はひかえるように」

そういって、司会者はさっさと講堂から出て行ってしまった。するとそれにならって、校長、理事長をふくめた教師陣が次々と講堂を後にしていく。残ったのは、生徒指導の教師ただ一人。

「な、なんだ?」

「どうなってるの?一体…」

一部の生徒が戸惑った表情を見せた。流羽もその一人だ。

(何が起こるの?…それに、どうして大半数の生徒は顔色変えずにいるのかしら?)

大半数の生徒というのは当然持ち上がり組のことだ。彼等は教師達の行動に動じることなく、むしろ入学式の間のだるそうな空気を感じさせない、緊張に満ちた表情を浮かべている。

「え〜っと、それでは皆さん」

急にアナウンスが流れ、困惑げにしていた生徒達は慌てて壇上を見る。するとそこには、数名の生徒が並んでいた。その中の一人が壇上のマイクに向かってしゃべり始める。

「来賓の方々もお帰りになって、遠慮する必要がなくなったので……」

次の瞬間、流羽は思わず飛び上がった。




                 「はじめるぞ―――――っ!!!」




その言葉に答えるかのように、講堂には爆発するような生徒達の歓声が響き渡った。


                        ***


「…おや?おさまったようですね」

職員室に帰った教師陣は、歓声がおさまったのをみはからって耳から耳栓を抜き取った。

「今年も荒れますねえ」

「ええ。去年が去年ですから」

あれだけの歓声が起きたにもかかわらず、教師陣は全員、隠居した老人のようなのんびりとした口調で語り合っている。

「楽しみですなあ。今年はどこが優勝するんでしょう?」

「やはりあそこのクラスでは?」

「しかし、一筋縄ではいかないでしょう。今年はあの人の息子も高校入りを果たしてますから」

とにかく、と彼らは笑みを漏らした。

「始まりますね。北斎杯」


                        ***


その5)

「み、耳が…」

流羽は鼓膜がはりそうになった耳をポンポンとたたいた。するとその様子を見て、さっきの前列にいる生徒がくすくすと笑う。

「はじめての人には、ちょっときつかったかな?みんなそうみたいだ」

言われてあたりを見渡すと、流羽と同じように耳を押さえている生徒がちらほら。

「あの、一体これから何が始まるんですか?」

耳の違和感が抜けないまま、流羽は彼に尋ねた。

「なんか、ただ事じゃあなさそうだし…」

「聞いていればわかるよ。そのために、この時間があるんだから」

彼はそう告げると、目線を壇上の上でしゃべっている生徒に戻した。

「全員、よく長い話に我慢したな!!ここからは遠慮なんてすんな!!盛り上がるぞ!!!」

歓声や口笛を吹く音がますます大きくなる。その様子を見て、壇上にたっている生徒は満足げに笑った。

「よし、乗ってきたみたいだな。それじゃあ早速、宣言する」

生徒はひときわ大きな声で叫んだ。

「これより、第30回:北斎学園北斎杯を始める!!全員、今から行われる説明をよく聞くように!!」


                        ***


「…今年も、荒れるなあ」

周りの反応を見ながら、流はにやっと笑った。するとその言葉にクラスメイトが声をかけた。

「なんだよ?怖いのか?」

「まさか」

流は彼らにニヤリとした笑みを見せた。

「楽しみなんだよ」


                        ***


「いいな?北斎杯は我が校伝統の行事だ。この行事の特色は、教師はもちろん、保護者さも介入することはできない。すべての権限は生徒会と実行委員会にゆだねられる」

「ただし、そうなると昔みたいに姑息な手を使う奴がいるからな。そういう対策のために、今年も伊達先生には特別参加をお願いした」

唯一講堂に残っていた生徒指導の教師、伊達高貴が軽く頭を下げた。

「それでは、ここから高校からの入学者のために、北斎杯とは何かを説明しよう」

なぜかここで、全校生徒の目が高校入学者に集まった。そのただならぬ目つきに、一同背中に悪寒が走る



                 ((((((ひいいいい…汗))))))



「いいか、この北斎杯は我が高校にある9クラス同士の対抗戦だ」

「対抗戦?」

皆の困惑げな表情に、壇上にいる役員は一度咳払いをした。

「つまり…クラス同士で得点を稼ぎあい、それを競っていくってことだ。9クラスってことだから、当然学年は問わない。1,2,3年合同で行われる」

皆のざわつきはお構いなしに、話はどんどん進んでいく。

「ルールは簡単。この一年の間に行われる学校行事がクラスの得点対象となる。対象競技は体育祭、文化祭、そして学期末に行われるデットハンティングだ。ただしこのデットハンティングだけは、例外としてすべて理事長が総指揮をとる。内容は近日になるまで知らされない」

ここまで言い切ると、役員は大きく息を吸ってからまたしゃべりだした。

「そしてここまでいえば解るとは思うが、この3つの行事を通して獲得した総合得点が一番高かったクラスが…北斎杯の勝者だ」

全員、シンとした講堂で話に聞き入っていた。持ち上がり組にとってこの話はもう聞き飽きている内容のはずだ。にもかかわらず、全員静かにしているということは、それだけこの行事が生徒達の間では重要なものなのだろう。

(なんか…すごい)

「すごいだろ?」

流羽の前にいる男子生徒が彼女の表情を見てふっと笑った。

「この行事は、僕らにとって誇りなんだ。何年、何十年とかけて受け継がれてきた、しかも大半が生徒主催のめずらしい行事だからね」

だから、と彼は周りを見渡した。

「君達高校入学生にも、知っていてほしいんだ。これが、どれだけ大事なものかって事を」

彼の話を聞いていた流羽の耳に、再び生徒会役員の声が聞こえてきた。

「以上、生徒会からルール説明は終了だ。諸注意や詳しいことはクラスのリーダーから聞くように。そでじゃあ、ここで」

役員は壇上の袖の方を見た。

「優勝杯を返還してもらう…昨年度北斎杯優勝者…」

すると、生徒の間から歓声と雄叫び、女子の黄色声が響いてきた。男子は腕を振り上げ、女子は期待に目を輝かせている。どうやら彼らは、これから出てくる人物にかなり注目しているらしい。

(まるで芸能人がいるみたい。これだけみんなが注目するなんて、一体どんな人なの?)

次の瞬間、流羽は大きく目を見開いた。

優勝杯をしっかりと持ち、堂々として歩いてきた男子生徒。彼の姿を見た生徒達はますます興奮を高めていく。生徒会役員は生徒の声に負けないように彼の名前を呼んだ。

「昨年度北斎派依優勝クラス、2−A代表、江田 流!!」

「せんぱーい!!」

「流―っ!!」

女子の黄色い悲鳴に負けず劣らず、男子からも声援も響いてくる。

「江田っ!!今年も頼むぞーっ!!」

「そうはいくか!!今年は絶対に優勝させねえからなあ!!」

「何言ってんだ、それはこっちのセリフだ!!」

優勝杯が返還される間も、みんなの興奮は続いた。しかしそれにもかかわらず、流羽は何も言わずに流を見つめたままだ。そしてやがて、彼女はポツリとつぶやいた。

「流…兄ちゃん?」



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