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第一話:似てない双子と新入生

リュウ流依ルイ拗ねていないで挨拶しなさい。 この人が今日からお前達の新しいお母さんだ』

愛想の悪い顔をしている二人にとって、新しい‘オバサン‘などどうでもよかった。‘オバサン’がこうやって挨拶に来るのは二人にとってめずらしくない。これでいったい何度目なのだろう。父のこのセリフは。

『よろしくね。流くん、流依くん』

確か3人目だったはずだ。同じような新しい‘オバサン‘は。

(今度は、どのくらいもつのかな?)

子供にもかかわらず、2人の心境はすでにはるかかなた。どうせ、今回もこれまでと同じことになるのだろう……だが。

『ほら、流羽ルウご挨拶は?あなたのお兄ちゃん達よ』

2人がその言葉に顔を見合わせていると、オバサンの後ろから髪をおさげにした年下の女の子が出てきた。その子はすこしうつむき加減にしながら、2人に向かってポツリポツリと挨拶をした。



                








                    『こん---にち-----は』











今回はいつもと違うみたいだ。







                        ***












                   『近づく奴らは容赦しない!!!』



















その1)


                   ピピピピピピピピ


                    


                   ジリリリリリリリ




けたまましい目覚まし時計の音が、マンションの一室に鳴り響いた。まるで火災報知機を思わせるような音は、一行にやむ気配を見せないでずっと鳴り続けている。そんな時計の音をまったく気にせず、江田家の長男:江田コウダ リュウは台所で朝御飯を作り続けていた。

黒い髪に黒い瞳。端正な顔立ちにふちなしの眼鏡をかけた彼は、すでに制服に着替え学校に行く準備を整えていた。

「……そろそろだな」

流は味噌汁の味見をしながらそうつぶやく。と同時に、一室から鈍い音が聞こえた。その後に次々と止む目覚ましの音。どうやら目覚ましをかけた主がようやく止める気になったらしい。が、響いてくる鈍い音は目覚ましを止めているというより、叩き壊しているといったほうが正しかった。

しかしそんな音にも、やはり流は気にせず席に着いてコーヒーをすすった。

「あの音からして、1つは壊れたな。目覚まし…やっぱり今度から俺が起こすか」

やがて、リビングに通じる扉が音を立てて開いた。扉を開けた主は、ジャージ姿のまま、不機嫌そうに茶色い頭をガシガシとかきながら食卓の席に着いた。

「おはよう」

「…」

彼は、流の挨拶に答えもせずだまってテーブルに並べられた醤油の瓶に手を伸ばした。一見流の事をただ無視しているかのように思われるが、小皿に入れるべき醤油をご飯茶碗に入れているところからして、まだ目が覚め切っておらず挨拶が聞こえていないことが推測できる。

「おい、何しているんだ?」

「……あ」

彼は醤油で茶色くなったご飯をじっと見つめる。やがてぼそりとつぶやいた。

「やった…」

「…ああそうだな。さっさと中身を取り替えて来い…いや、その前に」

流は彼から茶碗を取り上げながら言った。

「顔を洗って意識をはっきりさせろ。ついでに制服にも着替えろ」

彼はのそのそと立ち上がると、大きく口を開けながら洗面所へと向かう。その後姿に首をすくめながらも、流は茶碗に新しいご飯をよそるために席を立った。


                        ***


ここで、まだ何が起きているかわからない読者のために流から特別に自己紹介をしてもらおう。

「俺が?まあ、作者がどうしてもっていうならやらなくもないが……はいはい、わかった、わかったよ。

それじゃあ皆さん、遅くなったけど自己紹介。

俺の名前は江田 流。……さっきも名前は出たから知っている?一応聞いといてくれよ。年は今年で17歳。職業は高校生。身長は170以上、体重は……やせすぎず、細すぎず。

…ああ、そうそう。さっきから『彼』っていう三人称でしか出てきていない奴は俺の弟の江田コウダ 流依ルイ……今やっと顔洗って目を覚まして、着替えて飯を食ってるところだ」

自分の脇で食事を取ることに集中しだした弟を横目で見ながら、流は説明を続ける。

「家族は俺達二人と、年に数回しか帰ってこないサラリーマンの親父の3人。親父は今アメリカに出張中(アメリカだったっけ?まあ、いいか)お袋は俺達が3歳の頃に離婚。どっちも仕事マンだったから、ソリが合わないのも無理ないか。それから2、3回に渡って再婚したけど長続きせず。結局今の状況に至る」

「ふぁふぃ、ふふふふふぃっふぇふふぁふぉ(なに、ぶつぶついってんだよ)」

途中から割り込んできた弟を、流は面倒臭そうに手で追いやった。

「お前はいいから食べろ。そんなんじゃあ話も通じない」

流は流依を押しやると再び話を再会し始めた。

「子どもの頃からずっと二人でいることが多くて、炊事、掃除、洗濯はほとんど兄の俺がやってる。なんでかっていうと、こいつがやると家庭用品全部廃品回収に出す羽目になるからな。おまけに親父が何度も再婚して、新しい母親と喧嘩してすぐに別れるから家も空が多くてさ。すっかり母親がいないのに慣れたわけ。いても無駄に口うるさいだけだしね……ああ、そういえば。肝心な話をすっかり忘れてた」

流は流依をチラリと横目で見ながら言った。

「俺ら、パッと見はぜんぜん違うけど、これでも双子なんだよ。しかも一卵性」

「何やってんだ、さっきから」

どうやら流依は朝御飯を食べ終わったらしい。ようやく通じる日本語を話し出してきた。

「…おい作者?お前今なんつった?」

「おい、朝から険悪な雰囲気をだすな。それより学校に行く支度を済ませろ。新学期早々遅刻する気か?」

再び流依を追い払った流は、自分を鞄を持ち、靴を履くという支度に入った。

「な、いったろ?俺らは双子だけどまったくもって正反対のタイプなんだ。簡単にいうと、俺は優等生であいつはちょっと…問題児。一卵性だから本当はそっくりの外見もぜんぜん違うように見えるんだ。よく見ればそっくりなんだけどな。

でもまあ、それなりにうまくいってるからかまわないけど……というわけで、俺らの自己紹介はおしまい」

彼は部屋から出てきた流依と外に出ながら最後を締めくくった。

「俺らのこと、もっと知りたかったら本編読みなよ。かなり長くなるけどね」


                        ***


桜が咲き乱れる4月。現在入学シーズン真っ盛り。流と流依二人が通うここ、私立:北斎学園も今日は入学式だった。ここは中高一貫の私立校で、高校は途中編入も受け付ける。二人は中学からここに通っているので持ち上がり組。そして、北斎学園の流と流依といえば、もはや誰も知らない者はいない。その理由は本編を読みながら、おいおい把握していただこう。

一応今回の主人公は彼ら双子なのだが、実はもう一人、重要な人物がいるのだ。その事実はまだ、彼らを含め誰一人として知らない。そして、重要となる本人でさえも。では読者の皆さんには、先に彼女に会っていただこう。校舎の敷地内をよく見ると、必ず見つかるはずだ……ほらいた。真新しい制服を着て、クラス分け掲示板を見ている高校一年生が……。


                        ***

その2)

掲示板の前で自分の名前を探していた少女は、お目当てのものを見つけると思わず声を上げた。

「えっと……あ、あった!1−A組」

北斎学園新入生:杉本スギモト 流羽ルウは掲示板に記された自分の名前を見つけると、教室へ向かおうと校舎に体を向けた―――――――――が。

「……相変わらず広い校舎」

北斎学園の敷地は広い。なにせ私立なので校舎設備への投資はかなりのもの。中学校舎と高校校舎をちゃんと分けて建てられているので、いったいどっちへいったらいいのか、たとえ方向感覚のよいものでも初めてここに来ては迷うだろう。

「入試のときに来たきりだったから、校舎の配置はまだよくわからないし…」

ほかの新入生達はもういってしまったらしい。3月の終わりに滑り込むようにして入った流羽とは違い、早く決まって学校の説明会に出席した生徒達は、校舎内をある程度把握しているのだろう。

「あれ、なにしてんの?」

たった一人掲示板の前に途方にくれてたたずんでいると、通りかかった生徒が声をかけてくれた。その声にほっとして、流羽は振り返って事情を説明しようとした。

「あ、すみません。実は…」

そこまで言ってから流羽はいったん言葉を切り、声をかけてくれた生徒を思わずまじまじと見つめた。女子生徒、のはずなのだが、なぜか男子生徒の制服を着ている。胸のふくらみがなかったら、あやうく男子生徒と見間違える所だった。なにせ、身長が高い。170前後くらいだろうか。そんな流羽にかまわず、彼女は流羽に言った。

「もしかして迷った?」

「は、はい」

なるほどね、とその生徒はうなずいた。

「まあ、しかたがないか。まだ慣れていないんだし来なよ。案内してあげるから」

「ありがとうございます」

その生徒は堀内ホリウチ トオルと名乗った。高校2年に在学している、中学からの持ち上がり組みだという。

「本当にありがとうございます。このままだったらあたし、一生教室にいけなかったかも」

「オーバーだなあ。でもそう思うよね。中学からいるあたしでも全校舎把握しきれてないし。 こんなに広くなくてもって思うんだけどなあ」

しばらくたわいもないことを話してから、流羽はさっきから気になっていたことを質問した。

「あの、ずっと気になっていたんですけど…いいんですか?」

「なにが?」

亨は怪訝そうな顔をしたが、すぐに何がいいのか聞いたのに気がついた。

「ああ、制服?いいの、いいの。うちの学校は男女両方の制服あるけど、どっち着てもいいことになってるから。あたしはこっちのほうがいいしね」

「そうなんですか?」

亨は目を丸くした流羽を見て笑った。

「教室に行けばわかるよ。ズボンはいている女子も結構いるからさ」

ふと、亨は怪訝そうに流羽をみた。

「でもおかしいな?ここの見学会の時に、説明なかったっけ?」

「…実はあたし、3月の終わりにここ合格したんです。だから、説明会に間に合わなくて…」

「そっか、それながしかただない…ちょっとまった!!!」

いきなり亨はぎょっとして叫んだ。

「まさか特別に3月受験許可されて、過去最高得点たたき出して入学したのって……あんた?」

「え、あ、確かそんなこといわれたような―――――」

流羽の言葉におもわずあきれた顔をする亨。

「あのねえ、自分の事ぐらい把握しときなって。でも、なんで急にここに?しかも3月の終わりって、高校受験随分とのんびりしてたね」

「ちょっといろいろあって…あ」

気がつくと、1−Aの教室前にたどり着いていた。

「あ、ついたんだね」

亨はにこっと流羽に笑いかけた。

「それじゃあ、あたしも教室に行くね」

「はい、本当にありがとうございました」

あらためてお礼を言う流羽に、亨は照れくさそうに答えた。

「まったく、本当に大げさなんだから。まあ、またなんかあったらいいなよ。あたしは2−Aにいるから。じゃね」

そういうと、亨は教室へと向かっていった。


                        ***


少し時間をさかのぼり、ここは2−A組の教室。

「おはよう、江田」

「江田君、おはよう」

クラスメイトの挨拶に、流は自分も挨拶を返した。

「おはよう」

「…」

しかし、流依は兄と違って何も言わずに席に着く。

「何だよ、流依の奴寝不足か?」

「ほうっておけよ。いつものことだろ?」

そういってクラスメイトは、愛想の悪い流依にはかまわず、おしゃべりを始める。

(やれやれ。こんなに無愛想じゃ、誤解を受ける様だよな)

流依はかなり人見知りをする。いつも、他人に対して不機嫌そうにしてばかり。そのため愛想が悪いと言ってよく絡まれてしまうのだ。唯一まともに口をきくといったら、流と中学から腐れ縁の堀内ぐらいだろう。

(あと話すといったら……あいつかな?)

そういって流は、ある人物を思い浮かべていた。


                        ***


(…うるさい)

その日の朝、流依はいつもより不機嫌だった。寝不足というのもあるのだが、あまりいい夢を見なかったのも一つだ。その夢の内容というのは、自分がまだ幼かった時の夢だった。



夢の中に幼い流と自分がいて、その間にもう一人、人がいたときの夢。

それは何度も忘れようとしたけれど、そうすればするほど、記憶の中に焼きついていく。

もう会うことがないとわかっていても、忘れられない、記憶のカケラ。



(…忘れらんないのかよ)

流は眠ろうと机に突っ伏したが、眠らずにそのまましばらく物思いにふけっていた。


                        ***


「おはよ〜!!」

しばらくしてから、元気な声が教室に響いた。

「お、堀内だ。相変わらず男みたい…っ!!」

亨は自分を皮肉る学生の顔を蹴り飛ばし、自分の席に向かう。そして、隣の席にいる幼馴染に挨拶をした。

「おはよ、流」

「おはよう」

次に亨は、窓際の席にいる流依に声をかけた。

「流依!!おはよ!!」

しばらくの間、机に顔を伏せている流依からの反応は何もなかったが、ふいに片手をヒラリと上げ、再びパタンと腕を下ろした。そんな様子を見て亨は苦笑いを浮かべた。

「また夜更かし?」

「まあな。それにしても亨、随分と機嫌がいいな。なにかいいことでもあったのか?」

まあね、と亨は笑って見せた。

「面白い新入生にあったんだ」

「面白い?」

「うん…あ」

亨は教師が教室に入ってきたのを見て、そっと声を潜めた。

「あとで紹介するよ」


                        ***


その3)

教室に入った流羽は、空いている席を見つけると、そこに鞄を置いた。そして椅子に座りながら、教室の中を見回す。

「…わかりやすいなあ」

流羽は周りに聞こえないように、ポツリとつぶやいた。

彼女がわかりやすいといったのは、クラスメイトの動きだった。よくよく見ていると、クラスメイトの動きは2種類に分けられている。1つ目は、教室にすっかりなじみ、グループを作って話題に花を咲かせている者。もう1つは、空気になじめず緊張して机にずっと座っている者。

要するに、前者は中学からの持ち上がり組。後者は流羽のような高校からの受験者組なのだ。

(…はあ〜あ)

教室内を眺めながら、流羽はため息をついた。

(あたし、どうしよう…)

実は流羽、他のどの生徒よりも高校生活に不安を抱いているのだ。他の生徒は緊張しているものの、ここの校風や環境をある程度把握しているから、時間が立てばなれるだろう。しかし突然ここに入学となった流羽は、校舎見学はおろか、入試説明会すら受けていない。

(…なるようになるって、お母さんに言われたけど)

持ち上がり組が6割をしめ、ほとんどグループが決定してしまっている環境は、溶け込むのにとても困難な場所なのだ。

(なりそうに…ない)

そうこうしているうちに、教室にクラス担任が入ってきた。

「全員、着席」

すると意外なことに、先ほどまでおしゃべりしていた持ち上がり組の生徒が真っ先に反応した。会話を中断し、おのおのすばやく着席する。

その様子を、流羽を含めた受験者組は目を丸くして見つめる。

「よし、着席したな」

教室を見回してから担任教師は名簿を開いた。

「これから出席と、入学式中の諸注意を説明する。注意して聴くように」

そういってから、担任のはっきりした声が教室に響き始めた。


                        ***


再びこちらは、2−A組。

「で、あるからして……」

しばしの沈黙。それから、ヒュッという空気を切るような音。ガツン、というにぶい響。

「って〜」

眠っていた流依は、額に当たったチョークに顔をしかめた。

「何すんだよ…」

「新学期早々、眠りほうける奴があるか。馬鹿者」

担任は鼻を鳴らすと、再び説明に戻った。他の生徒達は、そんな様子をクスクスと笑いをかみ殺しながら、驚きもせずに見ていた。どうやら、こういったことは初めてではないらしい。

(…仕方がねえだろ?)

流依は説明の間心の中でつぶやいた。

(夢のせいで、寝不足になっちまったんだから……)

流はそんな弟を不思議そうに見つめた。

(あいつ、どうしたんだ?)

亨も流依の様子をおかしく思ったらしく、流に目線で疑問を投げかけた。

『どうしたの?流依』

しかし流自身もわからないことなので、彼は首を振るしかなかった。


                        ***




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