第17話:会長の夜は遅い。ヒャッハー!
「うおぉぉぉ……!」
行き交う人々、流れる景色——そのどれもが、ゲームで見た景色そのままだ。
「あの店は確か食料を売ってて、あの店は——!」
知らない、あるいは見たことないところもあったりしたが、時々見覚えのある店を見つけたりすると、声を上げずにはいられなかった。
そんな俺の背後には、アラヴァルナが黙って着いて来ている。
できるだけ気配を消し、人にぶつからないようにしているから、俺もたまに見失ってしまう。
「あ、うちの生徒だ……」
稀に、同じ制服を着ている少年少女を見かける。
そういう時は、フードを目深に被ることで、怪しさと引き換えに安全を手に入れている。なんだか芸能人になったような気分だ。
だが、今回の俺の目的はこの街ではない。
城塞都市であるレイリアだが、ダンジョンは街の内部にはないため、郊外へ出なければならないのだ。
「……門が見えてきたな」
「やっと外ですねっ」
警備の門番が、左右に一人ずつ立っている。身長は普通で、どこか気の緩んだ雰囲気。
両者共に槍を持っているが、アラヴァルナより弱いのは間違いない。
ただの衛兵だ。
「そこの白い子とお兄さん、身分証明書とかはあるか?」
……弱いとはいえ、流石に声をかけてくるか。
スルーする訳にも行かない。顔を見せる訳にも行かない。
くっ、ここで万事休すか……!?
「これで良いのか?」
「それは……王家の侍從紋!? これは失礼をっ。さぁ、どうぞ外へ」
アラヴァルナが懐から取り出した銀色の紋章を見るやいなや、門番は顔色を変えてヘコヘコし始めた。
隣の奴も頭を下げ、敵意がないことを示している。
王家の侍從紋……見たことあると思ったら、これは主人公が持ってたアイテムだ。
それをアラヴァルナが持っているということは、即ちバーレイグが渡したということ。
ここでも、バーレイグが俺の味方についたことの影響が表れている。
「行こうか」
「は、はいっ」
そのまま歩いていくと、気づけば周囲を青々とした草原に囲まれていた。
風が吹けば草が擦れ合う音がさざ波のように広がり、胸の奥が呼応するように騒いでいる。
それを落ち着かせようと、胸いっぱいに息を吸い込んだ。
「すぅ……はぁ……」
平坦な道もあれば、横には小高い丘もある。
俺が目指すのは平坦な道の方ではなく、丘の方。
そこにダンジョンの入口があるのだ。
「……そう言えば、行き先を聞いていなかった。生徒の見回りじゃなかったのか?」
確かに、彼も含めて皆には生徒の見回りとしか言っていない。
そろそろ真実を告げるとしよう。
「違いますっ。目的地は——そこにあるダンジョン『無数の岐路』です!」
「……!?」
◇
口をパクパクさせながら呆然とするアラヴァルナを引っ張り、俺は「無数の岐路」へと突入した。
キャラ選択画面なんて出るはずもなく、視界は一瞬で異空間へと切り替わる。
周囲を見渡すと、どうやら巨大な——天井まで数百メートルはある——洞窟の中のようだった。
いくつか灰色の石で作られた要塞があり、俺たちが立っているのもその一つ。等間隔に照明があるから暗くはない。
向こう側には道が繋がっており、既に魔物が数体待ち構えていた。
その奥には閉ざされた扉が3つある。倒さなければ先へは行けない仕組みになっているからだ。
「さて……そろそろ実験、始めちゃおっかな」
ニヤリと笑いながら呟くと、アラヴァルナは身震いして恐る恐る尋ねてきた。
その問いに、俺も自らの仮面を外して答える。
「また、あんな恐ろしいことを……?」
「もちろんさ。ま、今回は自分にではなく他者に向けて、だが」
「俺にやる気か?」
その目に恐怖はなかった。
自分が害されることは怖くない——そんな強者の余裕がよく伝わってくる。
けれど、実験をする目的を勘違いしている。
俺は強くならなければならない。その上で、さらなる能力の探求をしたいのだ。
ゲームとは異なる魔法が使えるのなら、それは最強の武器になり得る。
「まさか。魔物にだよ」
肩をすくめて答えると、彼は視線を魔物に向けた。
どこか哀れみが含まれているように見えるのは、きっと気のせいではない。
「グギャギャ!」
「——」
俺たちが近づいていくと、魔物もこちらに気づいて反応を示した。
黒い肌に毛皮を着たゴブリンが二匹と、真っ赤に燃える炎スライムが二体。
前者は下卑た声を発し、手に持った棍棒で威嚇している。
後者はプルプルと震えてその身の炎を燃やしている。
さてと——蹂躙を始めますか。
「祝福よ!」
前回は自分に対し、神経をいじくり、痛覚を遮断するといった実験をした。
今回はこいつに対し、《《全ての骨を外す》》よう調節した。
「ギャッ——!?」
神経や骨を使えなくすれば、身体は一切動かせなくなる。
そして彼は、今まさにそうなっているのだ。
「くははっ……! 聖女がこんな能力使えていいのかよ……!」
おかしい。
あまりにも可笑しい。
地べたで這いつくばっているゴブリンが、聖女を見上げている。
それは人間の考える正しさなはずなのに、どうしてこれほど歪んでいるのか。
聖女こそ、世界の命運を握っているのだ。
「スライムは……光よ!」
ぽよんぽよん……と、飛び跳ねながら突進してきていたスライムを、光線が貫く。
ちょうど空中で攻撃を食らったスライムは、粒子になって消え去った。
「そうか、ダンジョンの中だと素材が落ちないのか」
一瞬だけ首を傾げたが、すぐに納得して二撃目をもう一体のスライムに繰り出す。
通常より高く飛び上がり、炎に燃えた身体で俺を押しつぶそうとしていたスライムを、真下から打ち抜いた。
「あとはゴブリン二匹、か」
「グギャ!!!」
未だ無事な方のゴブリンが、闇雲に棍棒を振り回して決死の覚悟で突撃してきた。
その顔がどんな表情かは知らない。
だが、なんとなく怒りのような気がしていた。
「——《《双光》》よ!」
咄嗟の思いつき。
ただの実験。
そんな思いで放った魔法は、偶然にも成功した。
光線は同時に2つ放たれ、同時に二匹のゴブリンを消滅させる。
「くっ……」
直後、視界がふらふらと揺れた。
普段は一発ずつしか撃たないものを、二発同時にやったのだ、当然のことだろう。
「大丈夫なのか?」
「少し休憩したら治ると思う。だが足踏みする訳にも行かない。次の戦闘はお前に任せる」
「そうか……分かった」
魔物を倒したことで左の扉が開いた。
どこが開くかはランダム。
不満を垂れるつもりもないので、警戒しながらも素早く歩いていく。
薄暗い階段を下り、通路を抜けた先には、先程と同じような広間があった。
ただし、待ち構えている魔物は異なる。
「水の試練、か」
水スライムが3体と、それより一回り大きい大型水スライムが1体。
雷属性のアラヴァルナにとって、相性は悪くない相手だ。
「怪我したら治療する。だから頼んだ」
「了解」
壁に寄りかかって休む俺の横を通り過ぎ、悠然とした歩みでスライムに近づいていく。
「夜闇に潰えよ」
刹那——彼の全身は淡い紫電を纏った。
雷を帯びた槍を握りしめ、スライムと対峙する。
「——」
スライムたちは、それぞれが異なるタイミングで飛び跳ね始める。
一番近いスライムは体当たりをしようとしていた。
ぶつかられるより先にアラヴァルナは槍で切り裂き、表面の水を紫電が這う。
切られた衝撃でスライムは吹っ飛び、そのまま転がりながら粒子になって消えた。
二体目は高く飛び上がっていた。
すぐさまアラヴァルナも飛び上がり、矛先を突き刺して地面に叩きつける。
その速度はまさに落雷。
当然、スライムはその衝撃には耐えられなかった。
「すげぇ……ゲームで見た動きそのままだ。3秒で二体、充分な早さだな」
3体目と4体目はほぼ同時に来ていた。
アラヴァルナは着地すると同時にそれらを薙ぎ、吹き飛ばされた小さい方はそこで死んだ。
「——」
しかし、大型水スライムはまだ生きている。
あの質量であれば、どんな攻撃であってもダメージは大きい。
「はっ——!」
だからなのか、彼は槍を投擲した。
真っ直ぐ、紫の軌跡を残しながら進んだそれはスライムを貫き、壁に突き刺さった。
「ふぅ……次へ行きますよ」
何事もなかったかのように語りかけてくるアラヴァルナ。
内心「マジか」と思いつつ、既に開いていた右の扉へと歩みを進めていく。
「最後は……ボス戦、ってとこかな」
広間の奥側に扉はなく、その代わり祭壇のような場所があった。
両側を松明で挟まれた祭壇の中央。
そこに、赤黒い人型のナニカが、余裕そうに空中で寝そべっている。
「炎の深淵魔法師か……」
松明に似た杖を持つ深淵魔法師。
面倒な敵としてよく覚えているし、何千体と倒した相手だ。
彼の周りには薄い膜がある。
このバリアは魔法でないと壊しづらく、しかも硬い。
それだけで面倒な理由がよく分かる。
「二人同時に行くぞ」
「えぇ」
こいつは厄介だ。
早めに決着を付けたい。
「俺は右、お前は左」
俺の言葉を合図にして駆け出す。
足はアラヴァルナの方が早いため、深淵魔法師はまず彼を狙った。
「~~~!」
聞き取れない言語で魔法を詠唱した深淵魔法師から、炎の球が打ち出された。
それをアラヴァルナは一刀両断し、勢いを止めることなくバリアを斬りつける。
「やはり一発じゃ無理か……!」
ヒビを入れることは出来たが、破壊には至っていない。
ならば、と俺も魔法を行使する。
「光よ!」
光線はバリアに迫り——両方が一緒に消し飛んだ。
聖女なら、あの硬いバリアも容易く破壊できるのだ。
「アラヴァルナ!」
「無論ッ!」
その隙を見逃すはずもなく。
バリアが破られて焦っていた深淵魔法師は抵抗できずに倒された。
「勝利! だな!」
「なかなか手応えのある戦いだった」
いつも無表情な彼だが、心なしかうっすらと笑顔が浮かんでいるように見えた。
しかし、今重要なのはそれではない。
俺の目は、そこに出現していた木の箱をバッチリ視界に捉えていた。
「ということで——宝箱ターイムっ!」
ダンジョンと言えば報酬。報酬といえば宝箱。
これは原始時代から伝わる常識だ。そうだろ?
「何が出るかな~」
態度の豹変に困惑しているのか、アラヴァルナは横で見ているだけ。
ならいいさ、俺が全てもらっていこう。
ワクワクしながら箱を開けると、そこには通貨がいくらかと、鉄の腕輪が入っていた。
「これは……アーティファクトか!」
アーティファクト。
装備すると種類に合わせて効果が発動し、能力——攻撃力や防御力、HP、属性ダメージなどを強化してくれるアイテムだ。
ためらうこともなく、好奇心のまま、右腕につけてみる。
「……うん、変化した気分はないな」
「確か、同じようなことをバーレイグも言っていたな」
「そうだろうなぁ……」
ステータス画面がないのだから、何パーセント何の効果が上昇したのか分からない。
こればかりはどうしようもないのだ。仕方ないと割り切ろう。
とはいえ、バーレイグにも要相談かな。
「それじゃ——帰ろうか」
水色に煌めく魔法陣は、帰還用のもの。
二人でそこに乗った数秒後——視界は真っ白に染まった。
「面白い!」「続きが読みたい!」
など思っていただけましたら、
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