第15話:会長の朝は早い。
「え゛え゛え゛え゛ぇぇぇぇぇ!?!?!? あたしが副会長お゛お゛お゛お゛ぉぉぉ!?!?!?」
「あっっっ……祝福よ!!!」
突然の爆音に鼓膜が吹き飛んだのか、キーンという音がして、世界から音が消えた。
一瞬、訳が分からなくて脳内が真っ白になったが、俺は聖女なのですぐに魔法で修復することができた。
たぶんだが、歴代の聖女の中で最も変な回復魔法の使い方な気がする。
「そ、その……どうしてあたしなの? 知ってると思うけど、アトラちゃんと違ってあんまり優秀じゃないし……」
「大丈夫。別に、優秀だから生徒会、なんてルールはないよ。レキちゃんだからこそ、私の支えになってくれると思ったんだ」
「アトラちゃん……!」
目を潤わせて俺の手を取るレキ。
美しい友情——みたいな雰囲気が漂っているが、ついさっき鼓膜を破っていたとは誰が予想できるだろうか。
ただ、理由の方はまさしく友情だ。
この学院で一番喋ってるのは間違いなくレキで、次点でバーレイグの辺り。
しかも、バーレイグとはこの前の変態服事件からロクに会話してないので、その差は大きく開いていることだろう。
信頼の面でも、大型犬……なんなら忠犬みたいなレキは適任だ。
今だって尻尾がブンブン回ってる幻覚がハッキリと見えている。
「そういうことだから、これからよろしくね」
「うんっ! あたし、アトラちゃんのために全身全霊で頑張るっ!」
◇
「わ、わたしが生徒会の会計……!? アトラちゃん、それで本当に大丈夫なの!? 一度考え直した方がいいんじゃ……!」
あぁ……癒やされる……回復魔法とは違う意味で……
それに比べるとレキちゃんの反応は何や。
クソデカ太陽と月なんだよな、今のところ。
ちなみに、その太陽の方にはお使いを頼んだのでここにはいない。
「責任感の強いミリアちゃんなら問題ないと思うな。なにせ、授業で私より早く手を挙げたからって謝りに来る子だもん」
「あうっ、ちょっとそれ恥ずかしいから言わないでっ……」
微かに赤くなった頬、軽く下向きに逸らされた視線——おいおい、可愛すぎるっ……!
こういう子は撫で回したくなるのが世の常。
ま、俺は鋼のような理性を持っているから大丈夫だが。
「も、もう! 無でないでよぉ……! わたしは子どもじゃないんだよっ!?」
なっ、考えるより先に手が動いていたとは……
ミリア、恐るべし。
「こほん。と、ともかく。会計はちゃんとやるよ」
「ありがとう。これからよろしくね」
「任せてっ!」
◇
学院長室は静謐に包まれた場所にあるが、ここはその逆で、壁を挟んだ向こうは喧騒で満ちているという部屋だった。
食堂と廊下を挟んだところにあり、そのせいで防音仕様なのか、生徒たちの声はくぐもって遠くから聞こえるような錯覚を感じる。
「はじめまして、ノエル・ソラノートさん。本日は、ご報告があってお呼び立てしました」
ここは談話室。
直近の数年は殆ど使われていないようなので、使わせてもらうことになった。
教室1個分の空間で、あるのはただ椅子と机のみ。
そして、俺の向かい側に座るのは一人の少女。
夜空にも似た、紫がかった藍色の前髪は目元を覆い隠すように垂れており、影を落としていて伺い知れない。
しばらく切られていないであろう後ろ髪は、乱雑に後頭部で結われている。
彼女こそ、今期生徒会唯一の生き残り——ノエル・ソラノート。
「……何の、要件ですか……聖女様」
小さな声で呟くノエル。
しかし、そこには隠しきれない敵意があった。
声の調子もそうだし、俯いているからこそ分かる睨みつけるような視線もそう。
両手は太ももの上で固く結ばれており、どう見たって心を許している様子じゃない。
「学院長の選任により、今期の生徒会長は私が引き継ぐことになりました。それに合わせて、欠員であった副会長・会計には一人ずつ、私の信頼できる友人を会長の権限で選任しました」
「……そう、ですか」
何の感情もなく、平坦に彼女は告げる。
ゆっくりと首を上げ、目を合わせてから、彼女はもう一度口を開いた。
「《《嫌です》》」
まさか、即答されるほどに嫌われているとは思っていなかった。
なぜ俺は嫌われているのか、皆目検討もつかないのだ。
「すみません……理由をお聞きしてもよろしいですか?」
「……だって、貴女は会長を救ってくれなかった。血みどろになった生徒会室に、聖女は——来なかった」
なんとなく、分かってはいた。
今まで話す機会はなかった、「俺を恨む生徒」だということが。
俺が慰霊式典の時に語った言葉を聞いていないのだろうか。
それとも、その上で許せないのだろうか。
どちらにせよ、言うことに変わりはない。
「——それは、私の罪です。背負うべき、聖女としての罪」
「っ……!」
復讐心にも似た怒りを、きっとノエルは俺にぶつけたがっている。
でも、それは出来ない。
罪を認識し、背負う覚悟を決めた人間を——人は、簡単には謗れないからだ。
「私は、ずっとこの罪と向き合っていきます。片時も忘れることなく、この手で救えなかった人たちの為に、その分まで生きます。だから、どうか共に来てください。書記の席は、貴女の為にあります」
——バンッ!
気づけば、ノエルは机を叩いて立ち上がっていた。
目元を隠していた髪が揺れ、瞳が露わになる。
それはそれは、晴れ渡った空のように綺麗な空色だった。
空を宿した瞳は、地獄を見つめるかの如く俺を睨んでいた。
怒りや憎悪といった感情を、その双眸に孕んでいた。
「私のことなんにも知らない癖にッ! 会長のことなんにも知らない癖にッ! いきなり出てきて、どうして優しく救いの手を伸ばせるんですか!?」
「会長のことも、貴女のことも、私は全然知りません。それでも、《《私が聖女である》》限り——《《聖女が私である》》限り、知らない人であっても、救いの手を伸ばさずにはいられないのです。私には、それが叶う」
意味が分からない、とでも言いたげな表情で、ノエルは頬を引きつらせた。
そのまま力なく椅子に崩れ落ち、数秒の沈黙の後——
「ぐすっ……うぅ……うわぁーん!」
大粒の涙をボロボロと零しながら、子どものように泣きじゃくっていた。
今まで溜め込んでいたもの全てを、涙にして——水に流している。
彼女の号哭はしばらく続き、泣き止むまで俺は席を動かなかった。
今までに別れを告げる時間を、新参者の自分が邪魔してはいけないと思ったのだ。
「……では、会長。これから……よろしくお願い、します」
「はい、ノエルさん。書記として、貴女のご活躍を楽しみにしていますね」
——この時。
俺は後から気付いたのだが、魔力が微かに漏れていたのだ。
聖女の魔力。
それは神聖さそのもの。
邪悪な存在たる魔族を滅ぼすほどのそれが、人に向けられればどうなるか……想像に難くないだろう。
この力を利用すれば、俺はどんな人間でも従えることができる。
《《俺が聖女である》》限り。《《聖女が俺である》》限り。
明日は生徒総会。そこで、会長としての就任演説がある。
あぁ——楽しみだなぁ……っ!
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