第13話:俺が強くなればあいつをぶっ飛ばせる
この世界には、安息日として土曜日と日曜日に当たる曜日がある。
今日はその土曜日の方で、大半の生徒は寮の部屋で勉強するか街に出て遊んでいる。
俺も皆と遊びに行こうかと思ったのだが、レキは学力が低いようで、それを知ったレキがみっちり復讐……じゃなく復習の鬼になったので、寂しく1人となったわけだ。
素晴らしいチャンスなので早速冒険者として活動したいが、聖女が冒険者になるなどあってはならない。
主人公の仲間にならない限りは、学院も教会も許してはくれないだろう。
「……暇だ」
そういうわけで、俺は広大な学院の敷地を散歩している。
「暖かい日差しの中、ぶらり散歩も悪くないなぁ……」
のほほんとした気分でいると、遠くにバーレイグの姿が見えた。
どこかへ向かっているらしい。
「……あいつに相談してみるか」
この前の一件といい、彼は聖女アトラを可愛がるくせに戦闘能力を上げようとしているように思う。
となれば——まずは尾行から始めようか。
彼の姿を見失わないよう、視界の中心に収めながら進んでいく。
「次は右、か」
距離は充分にあるから、流石にバレる心配もない。
それに、もし気づかれても「どうお声がけすればいいか分からなくて……」とか言っとけば、あいつは照れて気を良くするに違いない。
「くひひっ、計画は完璧だなっ!」
しばらくして、彼はとある一室の中に入った。
躊躇なく入ったことから、おそらく彼の自室なのだろう。
なら——ここからは商談の時間だ。
閉じられたドアを、そーっと、静かに開けていく。
「……ぇ?」
僅かに開いたドアの隙間から見えたのは、バーレイグがとある服の匂いを嗅ぐ様子だった。
既に何かおかしいのだが、重要なのはその「服」だ。
記憶が正しければ、あれは俺が《《昏睡していた時に着ていた服》》なはず。
「アトラたん……」
しかも、恍惚とした表情で匂いを嗅いでるところがヤバい。
警戒心はないのかよ王子様?
……だが、そろそろ羞恥心に耐えられそうにない。
なんと声をかけるべきか? いや、そんなものは必要ないのだ。
「——光よッ!」
精確に服目掛けて放たれた光は、一直線に煌めく軌道を描き、服の中心に風穴を空けることに成功した。
「なっ……!?」
バーレイグが目を丸くしてこっちを見ているが、それを無視して俺は逃げ出した。
「ちょっ、アトラ様っ……!」
行く宛もない逃避行。
はてさて、どこに行こうか。
ふむ、そうだな……散歩の続きでもしようか。
そう言えば、まだ行っていない場所があった。
外周の方を回ってきたから、中心の辺りだ。
——そうして走ること数分。
景色は変わり、頑丈そうな石が目立つようになった。
木造の校舎と比べると雰囲気も全然違う。
「あ、ノルナさん!」
「アトラ様じゃないですか。小走りで……何かあったんですか?」
「いえ、少し変態から逃げていただけです」
「……詳しい話は聞かないことにしよう」
一瞬で何のことか察したのか、呆れた顔でため息をついた。
もしかしたら、後ろの方にいる赤髪の男に気づいたからかもしれない。
「そう言えば、ここって何をする場所なんですか?」
「ここは訓練場です。そこに倒れている生徒たちがいるでしょう?」
彼女が示した先には、十数人ほどの生徒が芝の上で倒れ伏していた。
学院では珍しく、男女比的には男の方が多かった。
傍らには木の剣や槍があり、魔導具でない武器であることが分かる。
「彼女らは私や殿下、アラヴァルナが訓練をつけた者たちです。平日は授業があってこういったことは出来ないですからね」
「襲撃で無力さを痛感した人も多いでしょうし……とても良いことだと思います。せっかくですから、私が回復してもいいですか?」
「よ、よろしいのですか……!?」
嬉しそうな声色だが、顔は申し訳なさそうに眉をひそめていた。
魔力の多さは証明済みだし、これくらいどうってことない。
それに、俺もそろそろ戦闘訓練をしたかった頃だ。
俺が強くなれば、あいつをぶっ飛ばせる。
「祝福よ、苦痛を取り払い息災に回帰させよ!」
ありったけの魔力を使い、全体に薄く広げるようなイメージで魔法をかける。
直後、緑色の光が舞い、まばらに生徒たちが起き上がっていく。
「なんだ、いきなり疲れが……」
「擦り傷がなくなってる!」
感動したと言わんばかりに声を上げる生徒たち。
うむ、聖女として気分がいいな!
「ノルナさん、私も訓練に混ぜていただけませんか?」
「アトラ様が……? その、武器の心得があるとは思えないのですけど……」
「この前、剣のコツについて教えてくださったじゃないですか。騎士団長にお聞きしておいて使わないのはもったいないです」
デンジャラス建築の罠に嵌まって二階から落下した時、雑談の一環でノルナには剣のコツを聞いている。
それを聞いてから、剣をぶん回したくて仕方なかったのだ。
詠唱が必須な魔法では近接戦闘に弱いし、剣が使えるようになって損はない。
「……では、私が稽古をつけて差し上げましょう」
「ありがとうござ——」
「待っていただきたい!」
横槍を入れてきた、鼻につく声。
嫌な予感がしてその方向を見ると——予想通り、金髪の貴族野郎、ライナルトだった。
「ライナルト、と言ったか。貴様、アトラ様に対して数々の無礼千万な働きを忘れたのか?」
「さぁ、何のことでしょう。私はアトラ様と剣を交え、剣を持つことの意味を教えたいのです」
とぼけたように、優しげな口調でそう説明するライナルト。
だが、「剣を持つことの意味」なんて、どう考えてもボコボコにする気満々だ。
「確かに貴様は、この中では剣術に長けている。槍もそうだ。武術の鍛錬を積んでいるのは充分に理解している」
「ならば……!」
「貴様を信用できる訳が無い。貴様より剣に優れた者として、看過できるものか」
ノルナの顔は、冷酷そのもの。
このまま行けば、魔法で足を氷漬けにしかねない。
そう思った俺は、いよいよ口を挟むことにした。
「ノルナさん。私は構いませんよ?」
「正気ですか!?」
「えぇ。ですから、剣を一つお貸しください」
「……危険だと判断すれば、私が止めます」
どうやら、俺の有無を言わさぬ姿勢に折れてくれたようだ。
頷いて返事をし、ノルナから木剣を受け取る。
「では、お手柔らかに」
ニコッと微笑みをくれてやると、ライナルトも不敵な笑みを浮かべた。
大方、剣なら勝てると思っているのだろう。
魔法を使った時の俺の強さはこの前見せているしな。
「両者、構え——始めっ!」
輪を成したオーディエンスに囲まれ、戦いの火蓋は落とされた。
先に動いたのは、当然ライナルトだった。
「はっ——!」
距離を詰め、素直な袈裟斬り。
対して俺は、一歩後ろに引きながら半身になって躱す。
「ちっ!」
返す刀で横薙ぎが来るも、そこは剣を差し込んで防御する。
刀身がぶつかり、拮抗した状態になる。
ライナルトは本気で力を入れているのだろうが、しかし俺はそこまで力を入れていない。
思い返せば、さっきも剣筋がハッキリと見えた。
もしかして……この聖女、フィジカル系なのでは?
「すげぇ……!」
「聖女様、ライナルトといい勝負してる!」
「ヤバい、俺だったらもう負けてるかも」
好き勝手に俺を持て囃すオーディエンスに、つい笑わされてしまう。
それを挑発だと受け取ったのか、剣を引き、腕を引き絞って、顔に突きを繰り出してくる。
これはあまりに危険だ。何もせずとも、ノルナが止めるはず。
だが……そんなの必要ない。
一気に全身の力を抜き、屈んで重心を落とし、剣でがら空きの胴体を殴りつけるように切る。
刀身が腹部に触れる刹那、回復魔法を詠唱し、神経伝達速度や腕、肩の筋肉を強化し——腕を振り抜くッ!
「ぐはっ——!?!?!?」
無様に漏れ出た声は、一瞬で吹き飛ばされたことで聞こえなくなった。
空中を飛び、近くの石柱に当たると、轟音を鳴らしながら粉塵が舞った。
静寂が訪れた次の瞬間——オーディエンスは大歓声を上げた。
「うおおおおお!!!」
「嘘だろ……!?」
「何が起こったか見えたか!?」
「いや全っ然! 気づいたら視界から消えてた!」
ホームラン、ってとこか。
丁度姿勢もそんな感じだしな。
歓声に顔を綻ばせながら立ち上がると、ノルナが目を見開いて近づいて来た。
だが、それよりも生徒たちが早かった。
「胴上げだ胴上げ!」
「聖女様つえぇ!!!」
「かっこよすぎたしな!」
まさにテンションは最高潮。
もはや軽い狂乱状態の彼らに持ち上げられ、胴上げが始まっていた。
「あ、アトラ様……?」
口をパクパクとしながら俺を見つめるノルナが、少し居た堪れないように思えてしまった。
ただまぁ、俺も驚いているのだから許してほしい。
強化した身体能力が、まさか剣で人を吹っ飛ばせるとは思ってなかったのだ。
「「「「アトラ! アトラ! アトラ!」」」」
野球部みたいな生徒たちに胴上げをされている最中。
ふと、視界の端に石柱の残骸の下から這い出るライナルトが見えた。
「くっ……まだっ……試合は……!」
その瞬間、呆然としていたノルナがニヤリと顔を歪めた。
「ライナルト! 私は見ていたぞ、貴様が危険な攻撃をしようとしてたのをな!!!」
「ひいっ!?」
脱兎のごとく逃げ出すライナルトと、鬼の形相を浮かべるノルナ。
そして、胴上げを止める気配のない生徒たち。
「「「「アトラ! アトラ! アトラ!」」」」
あぁ——今日も平和な安息日だなぁ。
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