第1話:社畜お兄さんがゲームの金髪ロリに転生とかマジィ?
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「ん……?」
ちっ……アラームが鳴ってねぇじゃねぇか。
こりゃ遅刻か? あるいは早すぎたか?
微睡みから目覚めてすぐ、そう思って枕元をまさぐる。
「ない……」
おかしい。充電していたはずのスマホがない。
というか待て。今変な声が聞こえたぞ。まるで幼い少女のような——
「ここ、どこだ?」
ぱちりと目を開くと、そこには全く知らない景色が広がっていた。
社畜に必要な最低限の布団に寝転がっていたはずなのに、俺が寝ていたのは純白のシーツの上。しかも天蓋付きのベッドだった。
軽く見回すと、白を基調とした部屋と家具が目に入る。
更には、可愛らしいぬいぐるみなどが、綺麗な状態で並べられていた。
僅かに開いたカーテンの隙間からは、暖かい日差しが差し込み、学校のグラウンドよりも大きいんじゃないかと思うほど広い庭園が見える。
そのサイズに、一瞬目を疑ってしまうほどだった。
間違いなく、俺の部屋ではない。何をどう見ても違う。
ホテルっぽくもない。出張中でもなかったはずだ。
しかも、何かの花のような匂いが鼻腔を満たしている。
無意識に「女の子の匂い」と感じてしまうような匂いだ。
「てか、部屋どころか俺の声も違うよなぁ……?」
まさか。
そんなバカな。
直感的に予想した仮説。
それを必死に脳が否定しようとする。
だからこそ、その結論を出すため、先ほど見つけた全身鏡の前まで行こうと足を動かす。
違和感は一旦無視だ。視界が明らかに低いし、四肢も短いけど、気にせずに歩く。
「……おーまいがー」
黄金色の美しい髪は、肩の下まで伸びている。
宝石の如く碧い眼は、光を受けて輝いている。
神聖さすら感じる整った顔は、ポカンと口の開いた間抜けな表情になっていた。
鏡の中には、そんな傾国の美少女——しかも、見たことのある——が立っていた。
「この姿は——まさか、アトラ!?」
アトラ・ルミディーナ。
それは、俺が愛してやまないオープンワールドRPG「ノクス・デラージュ」の中でも、特に清楚で、誰にでも優しく、生まれ持った癒やしの力を万民に振るう「聖女」の名だ。
そして──ストーリー中盤、アトラム聖律学院への魔族の襲撃により、主人公たちが救えず死んでしまった哀れな少女でもある。
どうやら、俺がノクス・デラージュの中でも特に大好きだったアトラに……どういう運命なのか転生してしまったようだ。
「おいおい……マジかよ? そんなわけ——」
思わず頬をつねってみる。「いたっ」と声が漏れ出て、すぐに手を離した。
いかんいかん、冷静さを欠いているぞ俺。深呼吸しないと……
「一旦、状況の整理だ。お約束のヤツだ。大事だからな」
前世の記憶はある——あるんだが、直前の記憶はない。死んだのかどうかも分からない。
しかし、社畜だったので戻りたいとも思わない。
なんなら、いっそこれが夢でもいいとすら思う。
「どうせ友達も同僚も失った身だ……“持たざる者”じゃなくなっただけ、随分と出世したと言える」
とりあえず、この状況を受け入れよう。
というか、拒む理由は何一つない。
だってほら、こーんなに可愛い美少女になったんだぜ?
鏡の中でくるくるふわふわ踊ってる。
推したい可愛さがここにあるのだ!
「……待て。今日は“いつ”だ?」
アトラはいずれ死ぬ。だが、それは魔族の襲撃によるもの。
もし時間があるのなら、原作知識で死を回避できるんじゃないか?
なら、思い立ったが吉日。
慣れない身体と服装でなんとか歩き、勉強机の上にあったアトラの日記を開いた。
「さすが聖女、ちゃんと毎日書かれてる……」
ゲーム内で、この日記は襲撃の被害をかろうじて免れており、主人公たちはこれを入手することになる。だから存在も内容もある程度把握しているのだ。
前世の俺にはなかった、視界を覆うように垂れた前髪を払いながら、最新のページまでパラパラとめくっていく。
そして——全身の力が抜け、床にドサッと倒れ伏す。
「この記述は……クソッ、いくらなんでも最悪すぎるだろぉぉぉ……!」
日記の記入は、ゲームと同じ日まで——つまり、《《襲撃は今日》》なのだ。
はて、これからどうすればいいのか。
逃げたとて、行くあても何も無いし、どうせ魔族は俺を嗅ぎつける。命がけのおにごっこなんて御免だ。
……家に引きこもる?
いや、無理だ。これは負けイベントみたいなものだ。
魔族の狙いはアトラ。
どちらにせよ、学院ごと破壊されて終わる。日記以外、何も残りやしない。
「けど——諦めてたまるかよ」
大好きなゲームの、大好きなキャラとして生きられる。
そんな幸せを、みすみす手放す訳が無い。
俺は羽ペンを手に取り、日記の白いページにただ一言書き殴った。
「目標——それは、この破滅を生き抜くこと。ただそれだけ……!」
綺麗に書かれた異世界語の中に、『絶対に生き残る』と日本語を書き散らし、羽ペンを置く。
不思議と、それだけで胸の内に活力が湧いてきた。
「すぅ……はぁ……ははっ」
俺が、美少女に転生した。
その事実を実感すると、自然に呼吸が荒くなる。
「ダメだこりゃ、心臓が高鳴って止まんねェや……!」
——さてと。TS転生したならやることは一つだと、紳士たる同志諸君なら理解してくれるはずだ。
特に、破滅寸前ならこの身体を謳歌したいと思うのは自然の理とすら言えるに違いない。
白いネグリジェに隠された、小ぶりな神秘の果物。
震える手を中に入れ、ゆっくりと触れる。
「っ……!」
や、柔らかいっ——!
抵抗なく沈み込むこの感触は、果たして世界を探しても代替出来るだろうか、いやない。今、そう確信した。
これは神秘なのだ。人間の半分に秘められた、ね。
……え、お前は聖女だろ、だって?
知るか。俺はこの瞬間から神に背信することに決めたんだ。
転生させてくれたのが何の神様なのかは知らないけど、たぶん聖教会の神と違うと信じている。だからマジで異端審問だけは勘弁してくれ。
「……そろそろ急ぐか」
ふと時計を見ると、登校時間ギリギリ——と、聖女の記憶が告げていた。
俺はさっと制服に着替え、寮の部屋から一歩を踏み出したのだった。
◇
白い壁と木の柱のツートンを基調とした木造建築は洋風の趣を醸し出し、心地よい日光が温かな学院の風景を彩っている。
それらに囲まれていると、まるで学生時代に戻ったかのように感じてしまう。
そこで俺は、周囲の視線を一身に受けていた。
「あれ聖女様じゃない!?」
「本当だ……! あんなサラサラなブロンド、憧れちゃうなぁ」
「可愛い……! 美しすぎるっ! 向日葵よりも輝いて、百合よりも純白で——!」
あぁ、気分がいい!
モブとはいえ、こんな言葉をゲームの美少女に投げかけられるのは最高だぜ! しかもここは女子の比率が高い! ほぼ全員制服JK!
つまり、男の憧れっ!!!
おいおい、転生したばっかなのにこんな幸せでいいのかよ!?
「ふふっ。皆様、おはようございます」
聖女らしく優しく声をかけてあげれば、女子生徒たちは黄色い悲鳴を上げた。
まさか、転生してアイドルの気分を味わうことになるとはね……
そうして最上位クラスであるA組に到着すると、クラスメイトたちが温かく挨拶をしてくれた。前世の会社と比べると真逆とすら言える。
その後も慣れない朝礼にしどろもどろしつつ、1限の開始を告げるチャイムが鳴った。
——と、その時。心臓が大きく跳ねた。
強大で、恐ろしい何かがやってくる——そんな予感を、強烈に心臓が叫んでいるのだ。
チャイムが死へのカウントダウンに聞こえるほど、不吉な気配がする。
どう考えても、あいつらが来るとしか思えない。
この世界における最悪の勢力。
それ以外にこんな威圧感を放たれてたまるか。
「——来るッ!」
——刹那、教室の壁が、轟音を立てて吹き飛んだ。
窓は割れ、壁は粉々に砕かれた。
舞い上がった煙が、風に吹かれて消えていく。
そして、これらを引き起こした存在が、教壇の上で大胆不敵に嗤っていた。
「きゃああああ!」
「助けてっ……!」
「なにあの化け物っ!」
黒い肌の巨大な体躯、先端に魔力を纏った大きな斧、大胆不敵な表情と風格。
その身から放たれる魔力は濃密で、威圧感として全身に重くのしかかる。
「グシャアアアアアッ!」
それらを持つ生物の名を、俺は深く知っていた。
「皆さん! あれは魔族ですっ!」
俺の叫びに、クラスがざわめき始める。
「ま、魔族!?」
「嘘だ、そんなわけ……!」
「深淵領土から出てこないって習ったのに!」
魔族。
それは、深淵領土と呼ばれる異次元に住まう、謎多き侵略者。
そして、《《当代聖女アトラを殺した》》——化け物。
「……どうする、俺。冥途の土産とか言ったが、さすがに『はいそうですか』で死にたくはねぇぞ……!」
遠くから、人々の悲鳴や建物が壊れる音が絶え間なく聞こえてくる。
微かにではあるが、血や火の臭さが漂って来た。
この間に何人が死んだのだろうか……考えたくもない。
「落ち着いてください皆さん! 魔族の狙いは私です! 今のうちにここから逃げ、他の生徒たちの救助をしてください!」
魔族とは、ゲームでしばしば戦うことがある。
だが、雑魚敵として出てくることはない。絶対に中ボス以上だ。彼女らでは応戦できない。
「聖女様……!」
「私たちは神の兵士、共に魔族を討ち滅ぼさせてください!」
アトラム聖律学院は、光の神ハシースを崇める聖教会の信者が集う学び舎だ。
ここで学ぶ者を含め、信者は「神の兵士」と見なされ、信仰と並んで武術の修練を課されている。
だが……
「日々の鍛錬や祈りを欠かしていないのは知っています。ですが、断言させていただきます。私含め、この学院で魔族に勝てる者はいないでしょう」
「そんな……!」
だから、俺が引き付けるしかない。
転生してすぐだったんだ、まだ記憶も薄れていない。
ただ、主人公たちが助けに来るまで耐えればいい。
それに、聖女ともあろう者がここに逃げてどうする。
クラスメイトを救えなくて何が転生者だ。何がゲーム知識だ。
「早く! 時間がありません!」
「……聖女様のお言葉なら、仕方ないですね——っ」
「皆様の救助に行きましょう!」
そう言って、皆は教室を足早に出ていった。
最後まで俺を見ていた奴が数人いたのは、なんだか嬉しかった。
死を惜しんでくれる人がいるなんて、贅沢なことだ。
「……もう、持たざる者じゃない。持つ者なら、誰かを救いたい」
魔族の方を見ると、死神と見つめ合ってるような気分になる。
本能的に恐怖を覚え、冷や汗が止まらなくなる。
けれど、それを意志の力で抑え込む。
「グシャア……!!!」
行ける。俺なら出来る。
さぁ、深呼吸して足を踏み出せ。声を出せ。
魔族は俺がどうにか——!
「ヴィズル流剣技・聖炎黎明ッ!」
壊れた壁の向こうから、勇ましい声と共に紅い炎の流星が飛び込んできた。
……いや、正確には剣士だ。
赤髪の青年が、剣に炎を纏わせているのだ。
その刃は、魔族の首へ吸い込まれるような軌道を描き——何の抵抗もなく首を斬った。
ドスッ、と音が響き、魔族の首が床に落ちた。
同時に剣士も床に着地し、大きな衝撃によってヒビを入れた。
「アトラ様。大丈夫ですか?」
爽やかな笑顔を向けて来る青年とは裏腹に、俺の脳内では、どうしようもなく、とある思考が渦巻いて止まらなかった。
このタイミング。
一目で俺の名前を当てる知識。
そして、ゲームでは《《ここにいるはずのない人物》》がいるということ。
それらの証拠から導き出されるのは一つの推測、いや確信。
こいつ、もしかして——「俺と同じ転生者なんじゃないか」と。
……金髪ロリ聖女って良くないです?
控えめに言って神だと思ってますよ僕は
「面白い!」「続きが読みたい!」
など思っていただけましたら、
画面下より《5つ星》をお願いします!
この作品はカクヨムにもあるので、そちらでもぜひ!
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