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放課後はコンビニで  作者: 霧野ゆう
8/8

【8日目】観測者の代償と夜の選択

気づけば、もう8日目。

物語の舞台である「コンビニ」は、ただの場所ではなく、登場人物たちの心の動きや、世界の裏側とリンクしていく不思議な空間として、少しずつその姿を変えています。


今回の話では、ハルキの中に芽生える「疑念」と「希望」が同時に描かれます。

アイ、ユイ、そして“観測者”としての自分。

バラバラだった点が、すこしずつ線になってきている。

でもその線が「何を指しているのか」は、まだ誰にもわかりません。


そして今夜、ハルキはある“選択”を迫られます。

それはきっと、彼のこれからを大きく変えるものになるでしょう。

「俺は……誰なんだろうな。」


夕暮れ、教室に一人きりのハルキがつぶやいた。

机にうつぶせたまま、誰もいない空間に問いを投げる。

返ってくるはずのないその言葉に、かすかな風が窓から入り、彼の髪を揺らした。


7日目の放課後、ユイと交わした会話が、まだ頭にこびりついている。

“観測者としての力に異常あり。危険信号を確認。”

あの謎の通知と、ユイの不安そうな目。そして――アイの笑顔。


どこかで何かが、狂い始めている。


「観測者って、何なんだよ……」


ハルキは静かに立ち上がり、カバンを手に教室を後にした。

昇降口を抜け、薄暗くなり始めた空の下、駅とは反対方向――あのコンビニへと歩き出す。


数日前までは、ただの寄り道の場所だった。

けれど今は違う。

あのコンビニの奥に、“何か”があると、彼の直感が告げている。



「いらっしゃいませー……あ、ハルキくん。」


レジに立っていたのは、今日もアイだった。

制服の上にコンビニのエプロンをつけて、変わらない笑顔を見せる。

でもハルキの目には、その笑顔が、少しだけ“作られている”ように見えた。


「……やっぱ、働いてるんだな。」


「うん、ここだけどね。学校の人にはあんまり言ってないけど。」


「なんで俺には教えてくれたんだ?」


アイは少しだけ言葉に詰まり、それから視線をずらして答えた。


「……ハルキくんなら、知っててもいいかなって思ったから。」


ハルキは少しだけ笑って、それ以上は何も聞かなかった。


けれど、レジ横に置かれた黒いファイルがふと目に入り、彼は動きを止める。


「あれ……何?」


「あ、ダメ。それは店員用の記録ファイルだから。」


アイが慌てたようにそれを閉じ、カウンターの下にしまう。

けれど、ハルキの目はしっかりと“ある記録”を見ていた。


『観測記録:対象B、今夜23時、裏口へ』


「観測記録……?」


呟いたその瞬間、アイの動きが止まった。


「今、なんて言った?」


「……なあ、アイ。観測者って、なんなんだよ。」


一瞬の沈黙。そして、静かに漏れるような声。


「ハルキくん……やっぱり、見たんだね。」


その声には、笑顔はなかった。

ただただ、真剣な眼差しだけがそこにあった。


「店の裏口に来て。今夜、23時。全部話すから。」


アイのその言葉が、店内のBGMよりもずっと静かに、けれど強くハルキの胸に刺さった。


その夜、ハルキはベッドの上で何度も時計を見た。

針が動くたび、心臓の鼓動が早まっていく。


23時ちょうど。

彼は音を立てずに家を出た。


コンビニの裏口。普段は誰も入らないような小さな扉。

けれどその前には、制服姿のアイが立っていた。

昼間と違い、彼女はまるで別人のような真剣な顔をしている。


「……来てくれて、ありがとう。」


「話を、聞きたい。」


アイは頷き、扉を開けて中に入った。

そこはただの倉庫かと思いきや、さらに奥へ続く階段があった。


「この下に、“観測室”があるの。」


地下へと続くコンクリートの階段を、二人はゆっくりと降りていく。

不気味な静けさと、わずかな冷気が足元を包み込む。


「観測者って……何を観てるんだ?」


「“世界の歪み”。」


その言葉に、ハルキは立ち止まる。


「歪み?」


「現実に起きている“ほんのわずかなズレ”……誰も気づかないようなもの。

でも、そのズレが積み重なると、やがて“別の世界”が生まれる。」


「……それが、ファイルにあった“観測記録”?」


アイは頷き、ひとつのドアの前で足を止めた。


「ハルキくん。あなたは――特別なの。」


「俺が?」


「本来なら、“観測者”は外部に選ばれた存在しかなれない。でも……あなたには、自然に力が宿ってる。」


「だから……変な夢を見るのか。」


「そう。夢じゃない。“観測中”の意識なの。」


ハルキは目を閉じた。

これまでに見た数々の奇妙な夢。教室が崩れたり、ユイが誰かに泣きながら何かを訴えていたり……。


それは“観測”だったのか。


ドアがゆっくりと開かれた。

そこには、大きなモニターと、無数のノート。

そして――見覚えのある写真が貼られていた。


「これ……ユイ?」


「彼女も、対象の一人。」


「……どういう意味だよ。」


「ユイは、“観測される側”なの。つまり――君とは対になる存在。」



「ユイが……観測される側?」


ハルキの声がかすれた。

目の前にあるユイの写真。そこには、彼女が誰かと口論している姿、泣いている姿、そして笑っている姿――

日常の一瞬が切り取られている。

しかし、どこか現実離れしていた。まるでそれは、ドラマのワンシーンのような“演出された現実”だった。


「どうしてそんなことを……彼女が何をしたっていうんだ。」


「ユイは、“未来を変える可能性がある存在”なの。

この世界の“歪み”を感知できる、稀有な力を持っている。

でも、それが暴走した時、この世界は……崩壊する。」


「世界が……?」


アイは静かにうなずいた。


「だから私たち“観測者”は、彼女を見張っているの。予兆を、少しでも早く見つけるために。」


「見張ってるって……それはただの監視だ。」


「そう、だから――私は、それが正しいことかどうか、ずっと悩んでる。」


ハルキは視線を落とした。

ユイと交わした日々の会話。笑顔。

彼女がそんな存在だなんて、到底信じられなかった。


でも……自分自身が“観測者”としての力を持っているなら――。


「俺は、ユイを助けたい。」


アイが少しだけ目を見開く。


「それが……君の選択なんだね。」


「そうだ。誰がなんと言おうと、俺は“観る”んじゃなくて“守る”ほうを選ぶ。」


一瞬、沈黙。

やがてアイは、小さく微笑んだ。


「ハルキくん。……君なら、きっとそう言うって思ってた。」


そのとき、観測室のモニターが一斉に明滅し、赤い警告が表示された。


【警告:観測対象B 精神異常値上昇中】


「ユイに……何か起きてる!」


ハルキは走った。

思考より先に体が動いていた。

コンビニを飛び出し、街を駆け抜ける。

風が顔に当たり、呼吸は浅くなる。


たどり着いたのは、あの日ふたりで話した公園だった。

そのベンチに、ユイは座っていた。

肩を小さく震わせ、何かを見つめている。


「ユイ!」


彼女はハルキに気づき、顔を上げた。

その目は、涙で濡れていた。


「……どうして……わたし、おかしいのかな……」


「違う。違うよ、ユイ。

君は、特別なんだ。でも、それは悪い意味じゃない。

世界が君を必要としてる。だから、俺が――守る。」


ユイはしばらく沈黙したあと、かすかに笑った。


「……ありがとう、ハルキ。」


その言葉が、夜の空気の中で、小さく響いた。



観測の記録は、この瞬間も続いている。

けれどそれは、ただの「監視」ではない。

「信頼」や「選択」が重なるとき、それは“未来を照らす光”に変わるのかもしれない。


ハルキはそう信じた。

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。

「放課後はコンビニで」――このタイトルが、ただの舞台設定ではなく、少しずつ物語そのものを象徴するものになってきたな、と自分でも感じています。


8日目の今回は、これまで少しずつ積み重ねてきた「謎」の断片が、初めて明確な形として見えてきた回になりました。

“観測者”としてのハルキ、そして“観測される存在”であるユイ。

それぞれが背負うもの、それぞれの選択。

恋や友情だけではない、「青春」と「運命」の交差点を描けたらいいなと思いながら、筆を進めました。


ハルキの「守る」という選択は、これからの365話のなかでも、さまざまな形で試されていきます。

正しいかどうかは、すぐにはわかりません。

でも、そうやって迷いながら選ぶことこそが、「青春」なのではないかと、私は思っています。


ここまでで累計約50,000文字ほど。

365日分すべてを書き終える頃には、一体どれだけの感情と出来事が積み重なるんだろう――

そんな楽しみを胸に、また次の話を書いていきます。


もし少しでも心に残る瞬間があったら、感想などで教えてくださいね。


それでは、また【9日目】でお会いしましょう!


――霧野ゆう

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