【5日目】選ばれし者の「登録」
こんばんは、霧野ゆうです。
ついにハルキが“登録”という選択をしました!
この物語の大きなターニングポイントです。これまで受け身だった彼が、少しずつ自分の意思で動き始める姿を見せたくて書きました。
夜の公園に、ひたひたと迫る足音。
ブランコが風もなく揺れ、そこに“誰か”が立っていた。
ハルキには、顔も姿もよく見えなかった。
ただ、影は確かに“こちらを見ていた”。
「……あれが、“監視者”?」
ユイが、うなずく。
「そう。“登録者”にならなかったアクセス者は、排除されるの」
「登録って……何なんだよ。俺に何ができるってんだよ!」
思わず叫ぶと、ユイはポケットから“もう一枚のレシート”を取り出した。
それは、ハルキの名で印字された未使用の登録票。
『アクセスコード:A7–0415』
『登録状態:保留』
『観測端末候補/ステータス:待機』
「これに……“署名”すれば、あなたは登録者になる」
「登録したら、どうなる?」
ユイは静かに言った。
「世界の“裏側”を見る力を持つ代わりに、日常とは少しずつ遠ざかっていく。
もう、普通のクラスメイトとしては生きられないかもしれない」
「それって……まるでスパイか何かじゃん」
「ある意味、そうだよ」
影が一歩、こちらに近づく。
足音のないその動きに、ハルキの背中に冷たい汗が流れる。
「選んで、ハルキ。登録して、戦うか。拒んで、忘れられるか」
「忘れられる……?」
「そう。アクセス者は、記録ごと“抹消”される。家族からも、クラスからも、歴史からも。……存在しなかったことに」
それは、あまりにも静かで残酷な選択だった。
ハルキは、手のひらにある紙を見た。
そこには確かに、自分の名前とコードが刻まれていた。
——本当に、これが自分の運命なのか?
でも逃げたら、何も知らないまま終わる。
何より——ユイの兄のように、“消される”のは、絶対にごめんだった。
「俺は……!」
ハルキは、胸ポケットのペンを掴み、震える手で名前を書き込んだ。
ユイが、小さく目を見開く。
「ハルキ……!」
その瞬間——
“登録完了”の文字が、レシートに赤く浮かび上がった。
同時に、闇の中の“監視者”が、音もなく霧のように消えていく。
まるで、見届けたように。
「これで……もう、逃げない」
ハルキの声には、恐怖と少しの覚悟がにじんでいた。
ユイは、ふっと小さく笑った。
「ようこそ、“裏側”の世界へ」
夜風が、ふたりの間を吹き抜けていった。
読んでくださってありがとうございます!
今回は“決断”の回でした。
物語はここから本格的に、観測者VS監視者の構図が動き出します。
これからハルキがどんな力を手にし、どんな運命と向き合うのか。
ユイとの関係も、ゆっくりと変わっていく予定です。
青春、謎、そして少しずつ芽生える絆を、これからも楽しんでください!