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ガス台の下のファンタジー(おにぎり/鼻/鎧)

 キッチンで明日の仕事のお弁当のおにぎりを握っていたら、ガス代の下の収納扉がピカーッと光って、鼻の高い、鎧を着た騎士が出てきた。


「お嬢さん、申し訳ないが、そのライスボールを少し分けてくださらぬか」


 カブトを脱いだらフワーッと広がった長いキラッキラの金髪に青い瞳のイケメンが、ググゥ〜ッと腹を鳴らしながら言うので、仕方ないから分けてあげることにした。お嬢さん、って歳でもないんだがなあ。少しモヤモヤしたけれど、こんな外国の絵本から飛び出たような騎士からしてみれば、日本人の女なんて子どもに見えてしまうのだろうから仕方がない。


 騎士はおにぎりを食べながら色んな冒険を話してくれた。海を荒らすイカの魔物を岩場に誘って細切れにしたり、森の奥にひっそりと潜む、顔のついた大樹を切り株にしてやったり。竜と戦って友達になったりもしたらしい。私はおにぎりのおかわりを握りながら、はあとか、へえとか、あきれたような、感心したような相槌を打っていた。 


「馳走を感謝する。さらばだ、お嬢さん」


 騎士はおにぎりを7つも平らげると、出てきた収納扉をくぐって帰っていった。


 騎士が帰った後、ガス台の下の収納を空けたけれど、そこにはいつも通り、マーボー豆腐の素とかカレールーとか調味料が無造作に突っ込んであるだけだった。


 当たり前だ。ファンタジーが何かの偶然で私の家のキッチンに繋がったとしても、私がファンタジーに繋がることなんてない。桃色の髪のメイジは枯れた成人女を使い魔として召喚しないし、遺伝子レベルで繋がったデビルのパートナーもいるわけがないのだ。


 しかし時々、騎士はどこをどう通ったのか、ガス台の下の収納棚からやって来て、おにぎりを所望する。今度は呪われて村民全員が羊になった村を救ったらしい。


 騎士の食べるおにぎりの数はいつでも7つ、ラッキーセブン。


 私には、騎士の語る冒険物語を聞くくらいがファンタジーなラッキーという事だろう。

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