星とお兄ちゃん(桃/ココア/星座)
「ほら、アレがかみのけ座」
「何度聞いてもそれ、ふざけて作った星座にしか思えない」
「ふざけてなんかないさ、夫の無事を祈って髪を捧げた奥さんの献身の結果、星座にまでなったそうだからね」
星夜お兄ちゃんはあたしのコメントを聞いてクスクス笑う。あたしは面白くなくて、手元のココアに口をつける。甘党のあたしの為に、マシュマロやクリームを入れてお兄ちゃんが作ってくれたそれは、身体に悪そうなほど甘い。もっと言えば、こんな時間によその家に挙がって、ベランダから空を見上げるなんて、中学生のあたしがするにはまだ早い。全部お隣さんの、幼なじみのお兄ちゃん相手だから、あたしの親も、お兄ちゃんのご両親も許してくれる事だ。
お兄ちゃんはあたしが幼稚園の頃からの幼なじみで、二つ上のお兄ちゃんは小さい女の子が懐くの何て面倒だったろうに、あたしをずいぶん可愛がってくれた。それは、今も。趣味の天体観測で、お小遣いをためて買った高い望遠鏡を覗かせてくれながら、自分の趣味に付き合わせてくれるのは、ずいぶん心を許してくれていると言っていいだろう。それだってあんまり他の人は付き合ってくれないからというだけかもしれないけれど。
お兄ちゃんは今年から高校生。市内の公立高校に合格が決まっていて、今通っている中学校とは反対の方向にあるものだから、一緒に学校に通う事は出来なくなってしまう。
──そのまんま自然と距離が出来て、恋人さんとかも出来ちゃったりして、あたしとは遊んでくれなくなっちゃうのかな。お兄ちゃんの中学の卒業式が近づくにつれ、毎日のようにそんな事を考えている。まだ寒さを残した夜風が、厚着を通り抜けて、あたしの身体を震えさせる。
「──お兄ちゃんはさ、」
──あたしの事、どう思ってる?
簡単な一言が口に出せない。その一言で、手の中の湯気を立てた甘いココアみたいに、妹のように可愛がられる温かい関係が壊れてしまったら。もうこんな風に星を一緒に眺めてバカみたいなお話も出来なくなってしまうかもしれない。
「どした?」
「ううん、なんでもない」
つい誤魔化してしまってから、後悔。卒業して、新しい学校に通うようになったら、言う機会も減っちゃうのに。疎遠になって、自然消滅するくらいなら、言っちゃう方がいい。空を見上げれば、流れ星なんて見えなくて、願いをかける事もできないけれど。
「やっぱなんでもある! お兄ちゃんはさ、あたしの事どー思ってるの!? あたしの事、好き?」
言ってしまった。隣を見れば、お兄ちゃんは夜空に張り付けられた星みたいに固まっていた。しばらくその格好で夜風に吹かれてから、ぎこちなく空を見上げて、こっちを見ないまま、口を開く。
「天体観測に桃がついて来るようになったのはいつからだったかなぁ」
「あたしが小学一年生の時」
「そうだっけ。長いな。ま、そのくらい俺も桃が一緒にいるのが当たり前になってたんだよな……、これからも、その当たり前が続くといいなって、思っては、いる」
「つまり、どーゆー意味?」
「どういうって……察しろよ、そんなの!」
察してくださいなんて、通じません! 女の子は、ここぞという時くらい、ガツンと言って欲しいのです! お願いお願いお星様、弱気なお兄ちゃんに本当の気持ちを言わせてください!




