春ときどきシマウマ(桜/しまうま/パセリ)
休日の朝、アパートの窓を開けて感じた。春の匂いがする。それは温かい日なたの匂いだとか、地面から顔を出した草の匂いだとか、私の住むアパートから少し離れた場所にある河原の桜のピンクだとか、実際の強い感覚というより、漠然とした概念に近い。
そうだ、今日は花見に行こう。冷蔵庫を見れば、食パンに野菜にハム。サンドイッチくらいはつくれそうだ。手早く調理をし、たまには女子らしく綺麗にナプキンに包んでみたりなんかして、外に出た。
モコモコのパーカーはそろそろ季節外れだろうか。ポカポカの気温とお日さまのせいで毛布を被っているみたいで、途端に眠くなってしまう。飲み物を忘れたことを思い出して、通り道の自販機でボトルのお茶を買う。
河原は植えられた桜の木が満開で、朝早いせいか他に誰もいなかった。適当に腰かけて、サンドイッチをかじる。マヨネーズとパンとハムとレタス。いつも食べている、予想通りの味。ヒラヒラと舞う桜が美しいので、いつもと違う趣がある。しかし突発的に花見に来たので、当然一緒に行く友達もいないわけで、他に花見客もいないので、なんだか寂しい。
すると突然、哺乳綱奇蹄目ウマ科ウマ属、その中でも白黒縞模様を持つ奴が!
もったいぶった言い回しをしたが、シマウマである。なんでこんなところにシマウマが!!!
シマウマと言うと愉快だが、奴らは見た目より凶暴で、人間が家畜化するのも難しかったという歴史を持つらしい。
「食料は捧げますから、蹴って殺すのだけは……」
怯えながら私がサンドイッチを差し出すと、シマウマは気に食わないというように首を左右に振った。肉が挟まったパンだからダメなんだろうか、途方に暮れていると、ランチボックスの端っこの緑が目に入る。
「ど、どうかコレで……!」
冷蔵庫にたまたまあったので珍しくオシャレに弁当に挿してきたパセリを差し出すと、シマウマは喜んで食べてくれた。良かったー!! いつもはこんなの入れないけど、珍しく無駄に凝って! 正直サンドイッチのパセリがどういう意味を持つのかもわからない私だけど、とにかくこの場の窮地を救ってくれたあの濃ゆい緑に敬礼!
パセリを貰って満足したのか、シマウマは私からそっぽを向いて、河原の草を食み始めた。それでとりあえず、私は孤独じゃないモーニングタイムを過ごす事が出来たのだった。
お弁当を食べたのち通報したけれど、タネを明かせばこのシマウマは、動物園から脱走したものだったらしい。シマウマが特に暴れず、大人しかったのはパセリがおいしかったからか。
──それともシマウマにとっても桜は綺麗で、静かに見物したかったのか。なんてね。




