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水槽の天使(天使/水槽/先生)
この透明な揺りかごは母なる海をも超えるだろう。遥か彼方の孤島の研究施設、水槽の前に立つ男はそう思う。
男の傲慢さも致し方ない事だ。目の前の巨大な水槽には、本物の海でさえ孕む事が出来ない、天使が眠っているのだから。
一目を避けるようにして建てられたこの研究所では、天使の創造計画が進められていた。天から降りた光のように輝く黄金の髪、地上のどの鳥にも似ていない、透き通る蒼天の翼。雲が人の形を取ったのではないかと思うほど白い肌。
彼女がこの世に降臨すれば、世界は変わるだろう。神は本当にいたのだ、神が天使を遣わしたのだと。それを創造した自分も神の代理とでも呼ばれるかもしれない。
──せんせい。
しかし今はただの教師でしかない。未だ目も開かず、身体を小さく折り曲げて狭い水槽の中を漂いながら、心に直接語りかけてくる彼女に、様々な事を吹き込む。島の周囲を囲う、海という大きな水の集まりの塩辛い匂い、時間によって衣装を変えてすっかり様変わりしてしまう、その異様さ、美しさ。
──はやく、そとみたい。
本体が眠っていなかったら、きっと微笑んでいたであろう声色。
私も早く君の笑顔が見たい。そう語りかければ、水槽の中が蒼い翼が、かすかに羽ばたくような動きをする。
いずれ世界を飛ぶ練習をしているかのように。




