クッキー大戦争(ドライヤー/旗/クッキー )
ここはお菓子な、可笑しな国。代々伝わるレシピと、王家の魔法で作られたお菓子な国の女王の作ったクッキーは、国のどこのお店にもない味わいなのに、流石に国民全員に行きわたるほどは作れないので、作られるたび、国の西と東とで戦力を分けて、戦争が起こります。
「西組代表! チョコ・ティラミス・キャンディーノ! ここに戦争開始を宣言する!」
「東組代表! ショトケーキ・ガトーショコラ・ポテチップ! こちらも戦争開始を宣言する!」
西組の代表と東組の代表が、大きな旗を掲げ、お菓子な国特有の、戦争開始儀式をしました。旗の模様は、その時々の代表の気分で、棒付きキャンディーだったりシュークリームだったりしますが。今回は代表のファーストネーム、固有の名前どおりの、チョコ(板状のもの)、ショートケーキ柄のようですね。
「女王様のクッキーは俺達のもんだ!東組共は東の果てまで吹き飛んで、チョコの池でもすすってろ!」
「西組の野郎こそ、西のキャンディーの河まで吹き飛んで、飴拾いでもしてろ!」
「うるせー!チョコの池で溺れろ!」
「てめーらこそキャンディーの河で転んで泣いてろ!」
なにやら西と東で穏やかでないですが、構えるのは魔法の特殊細工がされたドライヤー。これで制限時間中に、何人吹き飛ばせたかで勝敗が決まります。この間は西組、チョコさんの軍勢が、朝寝坊が多く、お菓子な国の朝食としてポピュラーな、スコーンを食べ損ねて力が出なかったせいで、ボロ負けだったのですが。今回はどうでしょう。
「おい、ショトケーキ! 今回はオレが人材を派遣し、部下達全員を前日は早寝早起きするように厳しくしつけ、上等の朝メシスコーンを全員に奢ったから、絶対負けないぞ!」
「なにぃ! そこまでするか!? クッキーの為に!」
「するさぁ! ここはお菓子な、可笑しな国だからな!!!」
チョコさんがドライヤーを構え、スイッチを入れると、自分は前日徹夜で改良を施していた魔道具ドライヤーが、最大風力でショトケーキさんを国の東の果て、チョコの池まで飛ばしてしまいました。今頃は、「ちくしょー!!!」とか叫びながら、やけチョコでもすすっている事でしょう。
例外として、軍勢の大将を吹き飛ばすと得点はデカいのですが、それ以上に敵の軍勢を吹き飛ばしまくり、点数を稼げば東組も勝ち目はあります。しかし、こういう場合の司令塔を失った士気の下がりようはどうしても防げず、今回は西組の圧勝でした。
「今回、西組はよく頑張りました。まずは大将を務めた、チョコ・ティラミス・キャンディーノに、このわたくし、ランドグシャ30世が直々に、特製クッキーを授けましょう」
「有りがたき幸せ!」
勝者の勢力は、まず大将にクッキーの袋が配られ、一番に食べる事が出来ます。前回ボロ負けして買ったのが嬉しかったらしく、チョコさんは「無礼をお許しください!」と叫び、なんと、貰った瞬間、表彰台の上でクッキーを食べ始めました!
「うっめぇええええ……」
おっさんの恍惚顔(言い忘れましたが、チョコさんは名前のギャップがすごい事に、いかついおっさんです)、なんて描写しても一部の人しか喜ばないので省略しましたが。チョコさんは表彰台に立ったまま、至福の味に舌鼓を撃ちました。
ヤベーもんでも入ってるの? って感じですが、別に単に「めっちゃくちゃ美味い」だけです。あしからず。
勝者側には、国民誰一人貰い忘れがないように、一人一袋ずつ、クッキーが配られます。時々これを負けた軍勢側に売りつける不届き者もいますが、そういう人はめちゃくちゃ厳しく罰せられます。朝ごはんがバターもジャムもミルクもなしの食パンのみ(水は支給あり)になる牢屋に、一週間くらい入れられてしまいます。「地味にやだ」と不評です。
とにかく、そんな感じで、お菓子な、可笑しな国では、女王のクッキーが今日も、大好評なのです。