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ユートVSルリシア(3)

 食堂で夕食を終えた後。俺は自室へと戻る。

 睡眠薬を飲んでいたから、しばらくはルリシアさんの襲撃はないとは思う。

 特にやることはないから今日はもう寝るか。

 俺はベッドで横になっていると、いつの間にか眠気が襲ってきたので、そのまま身を委ねて夢の中へと入るのだった。


 そして時間は深夜。

 俺は部屋の中から気配を感じて目を覚ます。しかし侵入者を油断させるために目は閉じたままだ。


「ふふ⋯⋯寝てる寝てる。いくら強くても子供だから夜は眠いでしょ。不本意だけど私は睡眠薬を飲んだから目が冴えてるし」


 ルリシアさんは完全に俺が寝ていると思っているのか、声が漏れている。

 だけど残念ながら中身は大人だから、多少の夜更かしくらい俺には訳無い。


「それにしても可愛い寝顔⋯⋯ほっぺにキスしちゃおうかしら」


 ほっぺにキス⋯⋯だと⋯⋯

 何だかルリシアさんが不穏なことを言い始めたぞ。


「私のこと可愛いって褒めてくれたし、ユートくんも嬉しいよね」


 確かにルリシアさんみたいな可愛らしい人にキスをされるなら嬉しいけど⋯⋯

 何だか寝ている不利をして、話を聞いているのが申し訳なくなってきた。

 これは襲撃に対処したら、俺が起きてて今の話を聞いていたことがバレるんじゃないか。

 もし俺がルリシアさんの立場だったら滅茶苦茶恥ずかしいぞ。


「顔が熱い⋯⋯褒められた時を思い出しちゃった。私の心を乱すなんて本当に悪い子。けれどこんな可愛い子に私の護衛なんてやらせる訳にはいかない。ほっぺにキスをすれば隙をついたということで、私の勝ちでいいわよね?」


 ルリシアさんが覚悟を決めたのか迫ってくる気配がした。

 このまま目を閉じていれば、ルリシアさんの祝福(キス)を得ることが出来る。だけど勝負に負けたら、トアの病を治す方法を得ることが出来ない。

 だったらどちらを優先するかなど明白だ。


 俺はこちらに伸びて来た手を掴み、ルリシアさんをベッドに押し倒す。

 そして馬乗りで両手首を持ち、動きを封じる。


「うそっ! 起きてたの!」

「淑女が起きている時間じゃないですよ。ましてや男の部屋に来るなんて」


 ルリシアさんは自分の勝利を疑っていなかったのか、驚愕の表情浮かべる。だがすぐに何かを思い出したのか、顔がみるみる赤くなっていった。


「ももも、もしかして私の話を聞いてた!?」


 どう答えるべきか。紳士としては聞いてない振りをするのがいいかもしれないが、今の俺は子供だ。ここは正直に答えるのが年相応の対応だろう。


「うん⋯⋯部屋に入ってきたのがわかったから」

「いやぁぁぁっ!」


 ルリシアさんは恥ずかしいのか、悲鳴をあげる。


「ごめんなさい」


 とりあえず何だか申し訳ない気持ちになってきたので、謝罪する。


「⋯⋯ううん。ユートくんは悪くないよ。それで⋯⋯部屋に入った時から気づいていたなら、ほっぺにキスをするって言ったことももちろん⋯⋯」

「⋯⋯聞こえてたよ」


 それに今自分で言っちゃってるしな。


「うぅぅぅ⋯⋯」


 ルリシアさんがうなり声を上げると、益々顔が赤くなった。

 その気持ちはわかるけど、子供の俺が慰めるのも何か違うから何も言うことは出来ない。

 そしてこの時、部屋の外から荒々しく走る足音が聞こえてきた。


「ルリシア様! 今の叫び声は!」


 数人のメイドさん達がノックもせずドアを開け、部屋になだれ込んでくる。


「ル、ルリシア様が襲われてる!」

「えっ?」


 襲われてる? むしろ襲われたのは俺だけど。いや、もしかして今の体勢って⋯⋯

 男がルリシアの上に馬乗りで乗って両手首を持つ。そして悲鳴のような叫び声、顔を真っ赤にしている。この状況から襲われているという単語が出てくるのは当然のことだ。

 ま、まずい! メイドさん達の誤解を解かないと! このままだと暴漢者として衛兵に突き出されてしまう。

 だが疑われている俺が説明しても、信じてもらえるか?

 ここはルリシアさんから言ってもらった方がいいな。


「ルリシアさん、メイドさん達が何か勘違いしてます。誤解を解いて下さい」

「うぅ⋯⋯」


 だがルリシアさんはまだほっぺにキスのことを引きずっているのか、顔を真っ赤にして、小さくうなり声をあげているだけだ。


「ルリシア様⋯⋯可哀想に。恐ろしくて声もあげられないのですね」

「今お助けします」

「屋敷にいる者全てを集めるのです。そして誰か衛兵を呼んできて下さい」


 やばい。話がかなり大事になっているぞ。もし暴漢者として衛兵に捕まってしまったら、トアに合わせる顔がない。

 私のお兄ちゃんは変質者だったなんて⋯⋯

 そんなこと言われたら俺はもう生きていけない。


「ルリシアさんルリシアさん!」


 ルリシアさんの肩を揺さぶるが返事はない。


「何があったの!」

「ルリシア様が襲われているんだ!」


 部屋の外から新たな声が聞こえてきた。

 さらに人が集まってきて、絶対絶命のピンチに追い込まれる。

 だが女神は俺を見放さなかった。


「あっ!」


 突然驚いた声が聞こえてきたので、部屋の外に目を向けると、先程食堂から逃げ出したメイドさんの姿が見えた。


「み、皆様! 大丈夫です! あの男の子とルリシア様はお、お付き合いされています」

「「「えっ?」」」


 俺も含め、一子乱れぬ声が部屋に響く。


「ルリシア様があの子と?」

「まだ子供ではないか」

「ですが私は先程見てしまいました! あの男の子とルリシア様が抱き合っている所を!」

「「「えぇぇぇっ!」」」


 このメイド、とんでもないことを言ってるな。

 しかもガセ情報だし。

 これは誤解を解かないと俺だけではなく、ルリシアさんにも迷惑がかかってしまう。


 だけど俺が口を開こうとした時、さらに乱入者が現れた。


「騒がしいぞ! 静かにしろ!」


 ボルゲーノさんが叱責すると、メイド達は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 えっ? いや⋯⋯ちょっと待って!

 これじゃあ誤解されたままじゃないか。


「ルリシア様の夜襲を退けるとは。やるな」

「あ、はい⋯⋯」


 今は褒められるより誤解を解いてほしい。

 そしてその後、ボルゲーノさんからメイドさん達に、先程の出来事は誤解だと話してもらった。しかし何故かこの日を境に、俺はメイドさん達から様付けで呼ばれるようになるのであった。

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