第八十四話 燃えこがれる火のように
門番「何事だ!!」
人質を回収した獣人達が居なくなったその直後に先程の門番が慌てた様子でやってくる
海斗「捉えた獣人のリーダーみたいなのがやってきたんだ」
門番「まさか……罪人を逃したとでもいうのか?」
エナ「はい……でも敵の数が多くて」
門番「それは本当か? まさかとは思うがお前達が故意に逃したのではないだろうな?」
アスフェア「なんて事言うのよ!!私達も必死に抵抗したんだからね」
門番「妖精のお前が抵抗した所で無駄だろうがそこのお前ならあいつらくらいは殺せたのではないのか?」
アスフェア「なっ!?」
海斗「……命までとる必要はないだろう?」
門番「甘い野郎だな 敵が子供だからと言って情けをかけてるつもりなのか?」
エナ「やっぱり子供だったんだね……」
アスフェア「前の盗賊と比べたら慣れてるようには感じなかったし悪意もなかったもんね」
門番「だからと言って甘く見てると次は貴様らがやられるぞ」
海斗「……あんたらあいつらについて何か知ってるのか?」
門番「そんなものは後で仲間から聞けばいいだろう」
アスフェア「別に今教えてくれたっていいじゃない」
門番「分からない奴だな もう迎えが来るという事だ」
アスフェア「本当にムカつくわね もっと言い方ってのがあるでしょう!!」
海斗「落ち着けアスフェア この人達の言う通り斉藤さん達が戻ってきたみたいだぜ」
門の方へ注目すると用事を終えた斉藤達が見え遠目から見ると門番と揉めているように感じたのか斉藤とクシアが真っ先にこちらに飛んできたのである
斉藤「一体何が起こったんですか!?」
クシア「海斗!!貴方が余計なことをしたのですか!?」
海斗「何もしてないですよ!!少し色々と想定外な事はあったけど……」
クシア「分かりました、話してください」
海斗「さっき捕らえてた獣人達の事なんだけど……そいつらの仲間がきたから逃げられちゃった」
クシア「そうだったのですか……」
エナ「うん……数がかなり多くて戦うだけ無駄だと思って何もしなかったの」
海斗「それに疲れてたし」
斉藤「福田君ならどうにかできたのでは?という突っ込みは置いておきます しかし逃げられてしまいましたか……」
海斗「もしかして逃げられちゃマズかった?」
クシア「どちらかと言えばそうですね……」
斉藤「そうね……さっき捕まえた獣人達から色々と情報を聞き出すつもりだったから」
海斗「そう言えばサルビア母さんとか言ってたような」
クシア「それです!!今回私達が与えられた任務の一つに子供を中心に攫う誘拐犯であるマザーサルビアを捕まえる事なのですよ」
海斗「そういえばこの国の問題を解決するのが目的だったよね」
斉藤「そうですね、ビスト王国はマザーサルビアをはじめとした荒くれ者が多数いるのでそれらを抑える事が大きな目標です」
海斗「……だとしたらアジトの場所でも聞いとくべきだったな」
クシア「盗賊と話されたのですか?」
エナ「確か名前が……タイガ?って言ってた気がする」
アスフェア「多分だけどあいつらのリーダーだね」
斉藤「……分かりました 詳しい話は明日聞かせてください 今日は皆疲れてると思うのでゆっくりと休みましょうか」
海斗「そうだね、俺も国の方でゆっくりと……できなさそうだな」
門番の鋭い視線を感じた海斗は国に入る事ができないと直感で感じとる
斉藤「いえ、そっちの方がかえって都合がいいかもしれません」
アリス「そうだと思う」
海斗「何でだ?」
斉藤「今は大声では言えません 後でアリスちゃんから聞いて下さい」
真剣な表情をする斉藤に海斗は黙って頷く
斉藤「福田君とアリスちゃんには悪いけど二人はフェンリルと一緒にどこか森の中で野宿してください……後はエナさんもでしたね」
エナ「うん、時間は明日の昼でいいんだよね?」
斉藤「それで大丈夫です くれぐれも遅れないようにお願いします」
人力車の中である程度話していた内容なのかトントン拍子に話が進んでいくので海斗は頭が追いついてなかったのだが取り敢えず頷くしかなかったのである
明日の約束をして別れようとした時にクシアと工藤が声をかけてきた
工藤「海斗!!」
海斗「どうしたの?」
クシア「工藤さんが一緒に野宿がしたいとおっしゃってまして」
工藤「私もキャンプみたいなのしてみたいかなーって」
クシア「だそうです」
海斗「別にいいんじゃない? だけど工藤は硬い床で寝れるのかな?」
工藤「大丈夫だよ 私だってやる時はやれるんだから」
クシア「なら決まりですね、後私もアリスさんが心配ですので同行します」
エナ「人数が増えちゃったね……夜ご飯の材料とか多めに買わないと」
工藤「それは大丈夫ですよ 私とクシアさんで買ってきましたから」
エナ「なら良かったです」
斉藤「皆さん気をつけて下さいね、後福田君こちらにきてください」
海斗「あーい(なんだ?)」
手招きする斉藤の方へといくと誰にも聞こえない小声で話しかけてくる
斉藤「福田君 分かってると思うけど色々と言いふらさないようにお願いしますよ」
海斗「何の事?」
斉藤「だから学園での事ですよ 私と一緒に長く住んだのですから……後はわかりますね?」
海斗「……了解しました」
斉藤「もし話したら……寺山君や溝上君達にある事ない事言いますからね?」
海斗「……はぃ」
斉藤「そ れ と エナさんがいるから無いとは思いますがハーレムだからって浮かれないようにお願いしますよ」
海斗「……そういやそうだな 溝上か寺山は来ないの?」
斉藤「野宿はゴメンだと言ってましたから無理ですよ だから福田君にしっかりしてもらわないと」
海斗「その辺は心配しないでほしいかなー」
斉藤「頼みますよ」
海斗(表面だけだとしっかり者の副委員長って感じだなんだけどなー……裏を知ってしまったばかりに)
海斗「斉藤さん達も気を付けてね、何があるか分からないから 後はそっちこそリナとカリータを頼むよ」
斉藤「その辺は心配しないで下さいよ、私達は王宮の部屋を使っていいそうですから」
海斗(なーんかこの感じ前にもあったような気がするんだよな……まあいっか)
複雑な感情を抱える海斗だったが胸にしまって斉藤に別れを告げて久しぶりの野宿をする為に場所を探しに行く
幸いにもクシアと工藤が門番に良い場所を聞いておりその地点に向かって再び人力車を引きながら門の前を後にしたのである
とは言ってもそんなに離れた場所ではなく数分走った程度の場所であり門が目視で確認できるほどである
海斗「さてと、準備開始だな」
役割分担をして海斗とアリスが火を起こすための木材や使える物を持ってくる係でその他の人は料理や寝床の準備を始める
工藤とクシアが来たおかげとあってか魔法によって作業が効率的に進んでいき全てを準備するのにあまり時間はかからなかったのでアリスと海斗はその光景を二人で眺めていた
アリス「魔法って凄いんだね!!」
海斗「そうだよな 俺も火を起こすとか風を吹かせるくらいならできるけど上手い事調節ができないんだよな」
アリス「私も練習して焚き火くらいはできるようになったよ」
海斗「やるじゃないか それなら食材切ってるエナの所に行って火を起こしてきたら?」
アリス「うん!!そうする」
アリスはエナの元へと走っていくとエナも笑顔になってアリスにお願いをしている
そして時間がある海斗は工藤に呼び出されたのでついて行った、その用件とはお風呂を作るのでいい感じに穴を掘って欲しいとの事だった
お湯などをどうやって貯めたりするのかを疑問に思って聞く海斗だったが全ては魔法でどうにでもなるとのことであった
海斗(魔法ってすげーんだな、というよりかサバイバル系の魔法だったっけ? 学園の自由参加の講義で習うってリナが言ってたな……俺は行かなかったけど)
工藤「そういえば海斗は学園でサバイバル魔法は習わなかったの?」
穴を掘っている海斗に向かって工藤が問いかけてきたの調査があったので行けなかった事を話す
工藤「そうだったね、でも簡単だから教えようか?」
海斗「別にいいよ……覚えるのが多いと頭がパンクしちゃうから」
工藤「海斗らしいね、でも火と風の魔法は扱えてたよね?」
海斗「一応最低レベルだけど覚えてはいるかな」
工藤「今の状態でやってみせてよ」
海斗「まあ良いけど……フレイム!!」
手をかざして呪文を唱えると炎が飛び出すのだが予想以上に大きくなってしまい工藤が慌てて水魔法で消化する
工藤「大きすぎだよ」
海斗「ゴメンゴメン調節できなくてさー 0か100しかできないんだよー」
工藤「へー、今ので100なら私が勝ってるかなー」
海斗「何で競うのさ」
工藤「海斗に負けない所一つできたかなーって」
海斗「何だよそれ 工藤は俺より頭良いじゃないかよ」
二人は笑いながら言い合いをしており元の世界では考えられないような関係性となり工藤も海斗もお互いに知らない一面を見た事によって仲が良くなっていたのだ
しかしその光景をご飯の準備が終わって二人を呼びにきたエナは見つめていたのであり気配を感じとった海斗はすぐさまエナの元へと向かったのである
エナ「随分と楽しそうだったじゃないの」
海斗「……すいません」
工藤「彼女がいるのに罪な男だねー 嫉妬してるじゃないの」
海斗「何を言うんだよ 工藤も知ってて突っかかってきただろー」
エナ「言い訳しないで、海斗のご飯作ってあげないからね」
海斗「それだけは辞めてくれよー」
工藤「ラブラブじゃん……」
海斗「工藤にも何か言ってくれよ」
エナ「工藤さんは知らなかったかもしれないじゃない……だから海斗が断るべきだと思うんだけど」
海斗「分かった、全部俺が悪かったよ だから飯抜きだけは勘弁してくれー」
エナ「分かったってば……それに冗談だよ」
海斗「目が本気だったんだけど……」
エナ「そうだったかな……取り敢えず悪気は無さそうだったし水に流してあげるから二人とも向こうに行くよ」
海斗「穴も掘り終わったしな、工藤も一緒に行こうぜ」
工藤「私はお湯を貯めてから後で行くよ……」
エナ「そうですか……暖かいうちに早くきてくださいね」
工藤「うん、分かった……」
エナはそう言い残すと海斗とくっつきながら食事場へと向かっていく姿は海斗は私の恋人であるとアピールしているようにも思える
工藤はその二人の背中を見送ったのだが何故か胸が締め付けられるように感じたのは彼女自身が一番理解できていたのは言うまでもなかった




