第八十三話 再会
ソルセリを離れた海斗達はビスト王国に向けてひたすらに草原を突き進んでいた
しかし海斗が車を引くという前代未聞の数人乗り人力車という事で体力的に心配な面もあったのだがそれは心配なく逆に人力車の中が揺れすぎてないか海斗が心配するほどであったのだ
中にいる人も外から揺れを感じる事は無いようでありリナ、カリータ、クシアを中心として学園で起きた色んな事について話していたようである
そんなに揺れない事を確認した海斗はさらにペースを上げる事にしてさらにフェンリルとアリスもそこに加わり二人と一匹で力を合わせて引く事に決めて進み始めた
その効果もあってか予定よりも大幅に早くビスト王国の領土に入ることに成功しまた更に進んだ所で少しした事件に巻き込まれる事となってしまう
海斗「何だあれは?」
アリス「分かんないけどただ事じゃなさそう」
海斗とアリスが見つめる先には争いの跡があり幼い泣き声が響き渡っていた
その幼い泣き声の正体は子供の獣人でありそれを守るようにして誰かが戦っているのである
海斗「アリス ここに止めてあいつらを助けにいくよ」
アリス「うん!!」
人力車を止めた海斗は守りながら戦う者たちの味方をする事に決めて突っ込んでいきアリスとフェンリルも続いて飛び出す
敵は三人しかいないようであり海斗、アリスが同時に手加減した攻撃で倒れさせてフェンリルは威圧するようにして目の前に立ったのでもう一人は怯えて腰が抜けてしまったのである
「お前はまさか!?」
「貴方はもしかして……」
子供を守っていた人間は助けてくれたお礼をしに来たのだがその人物は海斗が知っている人であったのだ
海斗「マッシュとミラか!!」
その人物とはマッシュとミラであり以前は海斗と共に妖精の森までの護衛を一緒にした仲間であったのだ
マッシュ「そうだよ それにしても久しぶりだなー随分と強くなったみたいだな」
海斗「お前もな 久々に会えて嬉しいぜ ミラとは上手くやってたのか?」
ミラ「何を今更言ってるの 見たら分かるでしょ? それとエナとクシアはどうしたのよ その少女は一体」
海斗「エナも向こうにいるよ 取り敢えずみんなと合流してからまとめて話した方が良いと思うからここで待ってて」
そう言うと海斗とアリスは人力車の所まで戻ってマッシュとミラの所まで引っ張ってきた
途中でエナやクシアが顔をだして何があったのか聞いてきたが「色々とね、それに久しぶりに会う人がいるよ」と言いその後は黙っていた
そして現場にたどり着くとミラとマッシュは人力車を引く海斗を見て唖然としていたのだが久しぶりに再開したエナとクシアを見て喜んでいた
工藤「何かあったみたいだけどどうしたの?」
海斗「子供が襲われてたかどうか知らないけど取り敢えず助けたよ」
斉藤「そうなのですね 突然止まったのでビックリしましたよ」
海斗「ごめんねー」
工藤「なんか知り合いみたいだね」
海斗「こっちにも色々あったんだよ」
久しぶりの再会を喜びたい所ではあるが状況を見るにそんな暇は無くミラとマッシュの二人に話を聞く
二人によるとビスト王国で用事があり向かっていたところで馬車とすれ違いそこから子供の泣き叫ぶ声が聞こえてきたので確認すると獣人が子供の獣人を攫っている事が発覚し戦っていたとの事である
壊れた馬車と泣いている子供達がそれらを物語っており嘘はついてないと分かるが以前の盗賊退治と違うところがあり違和感を覚える
それは実行犯である獣人があまりにも幼いという事でありミラやマッシュも傷付けないようにして戦っていたら獣人の身体能力に苦戦していたようなのである
謎は他にもいくつかあるが斉藤が「とにかく今はこの子達とビスト王国に向かうのが一番良いと思います」と案を示し全員がそれに合意したので海斗、アリス、フェンリルは再び人力車を引き始めた
ミラとマッシュ、子供と実行犯もまとめて人力車に乗せて再出発しビスト王国へと向かっていった
獣人の子供は人懐っこく助けてくれたミラとマッシュに寄り添っておりその様子を中にいる人らは微笑ましく見守っているのを海斗が知る由もなかったのだ
そしてしばらく時間が経ちマールの予定よりも少し早いくらいの時間でビスト王国へと辿り着いたのである
王国の門へとたどり着くと門番をしている獣人に止められる
門番「そこの人間 何用でここへ来た」
ピリピリしている雰囲気を感じとった海斗はあたふたしていると降りてきた斉藤がマールの書いた文章を見せつける
門番「伝言であった勇者一行のようだな 通って良いぞ」
そのおかげですんなり通れるようになったかと思えば再び門番が声をかけてくる
門番「ただお前とその中にいる罪人はダメだ」
海斗「えっ!?俺?それに罪人って」
門番「恐らくだが子供を攫った奴らがいるだろう?我々の鼻は誤魔化せんぞ」
海斗「いるけど……何でだ?後俺も」
門番「罪人にこの国に入る資格などはない それとお前……特にその武器からは禍々しい気配を感じるからだ」
海斗「えー……」
獣人は感覚に鋭いのか門番は海斗の持つ巨大なメイスを恐れているようである
斉藤「分かりました 福田君とアリスちゃん、フェンリルは外の方で休んでて下さい国王との話が終わったら後で迎えに行きます 今は急がないと……」
エナ「私も残って良いですか?」
斉藤「……はい大丈夫です」
海斗は無理やり納得し門の前でミラとマッシュを含めた斉藤らとお別れし人力車を少し離れた所に移動させてエナとアスフェアを含めた三人と倒して気絶している獣人と共に中でゆっくり過ごす事に決めフェンリルも疲れたのか馬車の隣で横になりアリスもフェンリルの上で気持ち良さそう眠ってしまったのだ
アスフェア「またあんたが仲間はずれにされたわね」
海斗「いや……まじで今回は理不尽だろ」
この光景にギルドで冒険者登録をしに行った時を思い出すアスフェアだったが今回はエナもいる
エナ「その武器が駄目って言ってたよね……と言うよりそれはどこで拾ったの?」
海斗「えっ!?これはソルセリの天空城の真下にあった古びたメイスだよ わからなかったの?」
エナ「そうなの!? でもあれはもっと古そうな感じだったしそれに血とか錆もあったと思うんだけど……」
海斗「俺が手に取った時はすでに新しくなってたから何とも言えないかな」
アスフェア「確かそれって瘴気を宿してたって言ってたわよね? 今はほとんど無いにしても獣人達が微量な瘴気を感じとったとか?」
海斗「それもあるか……それにしても本末転倒には変わりないのか」
アスフェア「ガレオスが使ってた武器か……何百年以上も前だから私も全然分かんないよ」
エナ「記録によるとそれを使ってザンギャグロスもとい聖龍ホーリアーを封印したとしか知られてないからね」
海斗「今は斉藤さん達を待つしかないか……それとついでに斉藤さんから聞いた話を詳しく聞かせてもらえない?」
エナ「分かった、このビスト王国でやる事は本当に単純でこの国で起こってる問題を私達が解決する事だよ」
海斗「それは本当に単純だね」
エナ「理由はジュエリーナと仲が悪いのは知ってると思うけどそれ以前にこの国は内部の問題が色々あるみたいなの」
アスフェア「だからまずはその国の問題を解決してから和平の道を歩もうって訳よ」
海斗「成る程な……」
エナ「カネリア王女もそれに向けて頑張ってくれるみたいだから私達も頑張らないとね」
アスフェア「そうね……私達も頑張りましょう」
しかし次の瞬間に笑い声が聞こえてくる、その正体は先程捉えた獣人達のものであった
海斗「何だい突然笑いだして」
獣人1「さっきから聞いていたら和平だと?笑わせないでくれ」
突然起きた獣人に海斗達は驚くが縄で拘束しており動けないため冷静になって口を開く
アスフェア「何よあんた達は、私達だって悪者がいなかったらこんな事しなく済むのにあんたらみたいな奴らがいるから大変な事になってるのが分からないの?」
エナ「アスフェア……」
獣人1「俺達が悪者だって? そんな事あるか!悪いのはこの国なんだよ」
海斗「……それは一体」
獣人2「お前らにはわかるはずもない差別されても手を出さず受け入れないといけないこの気持ちが」
海斗「差別か……でもお前達に歩み寄ろうとする人だって」
獣人1「そんな事は知っている!!だけど……そんな最低な奴らがまだたくさんいるから俺達はサルビア母さんのために戦っているんだ!!」
エナ「……いくらお母さんの為だからと言って子供を誘拐して攫うのはおかしいよ」
獣人2「うるさい!!皆がサルビア母さんの元へといけば幸せになれるんだよ」
海斗「二人揃って同じ母親の名前を出すとは それがお前らを仕切ってるボスか?(洗脳されてる訳でもなさそうだな)」
獣人1「違う!!僕らのお母さんで僕らの家族なんだ」
エナ「けど……その人の命令で子供を攫ったらその子の本当の母さんが悲しむだけじゃない……」
獣人2「お前達は本当に分かってない そうでもしないと俺達獣人はやっていけないんだよ」
アスフェア「でも……」
獣人1「うるさい お前達が馬鹿だというのは分かったよ」
獣人2「そうだな!!お前らなんか俺たちの家族がやっつけてくれるはずだ」
海斗(仲間ってところか?)
そして次の瞬間に海斗とエナは何かの気配を感じ取り外へと飛び出した
海斗「……囲まれてる」
エナ「そうだね……」
外に出て辺りを見回すと囲まれており全員が仮面をつけているのだが外見を見るに獣人だという事が分かり捉えている獣人の仲間だという事がすぐに理解できた
フェンリルは飛び起きて警戒しているがアリスは少し眠たそうにしている
アリス「ふぇぇ 何かあったのー?」
海斗「アリス、コイツらの仲間が来たみたいだよ」
アスフェア「コイツら全員やっつけちゃおうよ」
獣人1「そう簡単にはいく訳がないだろう俺たち兄貴のタイガに敵うもんか」
獣人2「そうだよ 大人しく降参しろよ」
囲まれている中で殺気を感じ取り動けずにいると男の子の大きい声が響いてくる
タイガ「フォクス!ナグマ!カピ!無事なのか?」
フォクス「兄貴!!元気だよー」
ナグマ「コイツら倒しちゃえー」
タイガ「よーし元気そうで良かった その様子だとカピは眠ってるみたいだな」
海斗「へーあいつがお前達の兄貴か?」
フォクス「そうだよ」
ナグマ「俺達を助けに来てくれたんだ」
タイガ「お前達に警告する 大人しくそいつらを渡せば命は取らない」
アスフェア「何言ってるのかしら?あんたらだって返り討ちに……」
海斗「いやアスフェア、ここは大人しく引き渡そう」
アスフェア「何でよ!?コイツらは子供を攫う誘拐犯なのよ?」
海斗「分かってる……だけどコイツらからは何か思うところがあるから……それでいいよねエナ?」
エナ「……うん それに門の近くで揉め事を起こすわけにもいかないから」
海斗「だな、おい!!フォクス、ナグマで寝てる方はカピと言ったか?」
ナグマ「何だよ」
海斗「今から縄を解いてやるからこちらに危害を加えるな」
フォクスとナグマはあっさりと解放してくれた海斗に拍子抜けしており困惑した様子を見せる
フォクス(こいつ……人間の癖に差別みたいな事しないし変な奴)
解放された二人はまだ寝ているカピを抱えて歩いていく
タイガ「全員無事のようだな おまけに丁寧な手当てまでしているとは しかし次会った時はお前達を倒す 覚えておけ それじゃあ撤収だ」
エナ(それはクシアがやってくれたのだね)
タイガは最後に言い残すと囲まれていた気配は完全に消えさり全員が無傷で済んだのであった




