第七十一話 瘴気を放つ古龍
魔法陣の光が眩しく目を閉じているとそこに何者かが現れる
海斗「フェンリル!!……と後は」
「久しぶりじゃのう海斗!!こちらではカンナだったかのう?」
「本当にそうね、屋敷の頃から少しは成長できたのかしら?」
フェンリルの後から出てきた二人はまさかのベルと大妖精であり予想外な人物に海斗は驚く
海斗「大妖精様とベルさんが助っ人って事?というより大妖精様とあんたらは関わりがあったのか?」
大妖精「話すと長くなるからそれは後じゃ」
ベル「今はそんな状況ではないはずよ」
海斗「それもそうか、その感じだとマールさんからある程度聞いてる感じですか?」
ベル「……クシアが大変な事になってるとは聞いたわ」
二人は首を縦に振ったがクシアと戦わなければならない状況となっているので良い顔はしていない
そしてその様子を見ていたレージュとシドウもベルと大妖精に話しかけるが大妖精と話している時は何故か作り笑顔のぎこちない表情となっていたのは言うまでもない
海斗(競技祭であんな事やられたらそんな顔になるよな……)
大妖精「マールからはある程度聞いたが詳しい状況は知らぬぞ、街の方は?住民の避難は?そしてこの瘴気溢れる大地でどう戦うのじゃ」
海斗「先生、街の方は大丈夫だったよね?」
シドウ「お前が上にいる間にここに閉じ込められていた人達は街の方へ避難させたが……思ったよりも酷い状況になるかもしれんな」
レージュ「念には念をいれた方がいいかもしれないわ……それに古龍と戦うのに十分な戦力なのか、あなた達がどれだけ強いのかも分からない」
シドウ「だよな……大妖精さんとベルさんはどうなんだい?助っ人て言われるくらいだから強いんだろうな?」
大妖精「そうじゃなー、直感じゃが上の方から感じる魔力がとんでもないから向こうの方に戦力を集中させるべきと思うのだが、ベルはどう感じる?」
ベル「それでいいかと、相手は古龍ですが海斗とフェンリルがいるなら大丈夫だと思います」
レージュ「……それは本当かしら?」
シドウ「随分とこいつの実力をかってるんだな」
海斗「褒めるなんて珍し……」
ベル「それで死ぬようならその程度だったという事です」
海斗「相変わらずですねあんたは……珍しいと思ったのに」
ベル「あなたもしつけが必要なのは相変わらずのようね……でも頼むわよ」
海斗「分かりました、ベルさんはクシアを頼みます」
大妖精「決まったようじゃな」
シドウ「そうか……こいつとなら一緒に戦った事があるからこっちは任せろ、古龍だろうが何とかしてみせるさ」
レージュ「大妖精様、ベルさん、上空で戦っているエナもお願いします 私の大切な生徒ですから」
大妖精「何を言うておる、お主も一緒に来るのじゃ」
レージュ「えっ!? 私もですか?」
大妖精「そうじゃ うちが力を貸してやるからエナと一緒に戦うのじゃ、お主もエナと同じようじゃからな」
レージュ「大妖精様と私が……」
大妖精「そうじゃ、うちと同化してパワーアップするのじゃ」
レージュ「分かりました、あなたの力を貸して下さい!!」
大妖精が手を差し出したのでレージュはそれに触れると眩しい光に包まれる
レージュ「凄い、魔力が溢れてくる」
大妖精(当然じゃ 今の状態のお主なら空も速く自由に飛べるはずじゃ ベルを連れて一緒にあの城まで行くのじゃ)
大妖精と同化したレージュは青かった髪色が薄い緑色となり背中には透明で透き通っている羽が生えている
シドウ「すげぇ……」
シドウは同化したレージュに見惚れてしまい見つめているがレージュは恥ずかしいのか顔を赤くしている
ベル「早く行きましょう、エナとクシアが待ってます」
レージュ「そうですね、ベルさん私に捕まって下さい」
レージュは手を差し出しベルはその手を握る
レージュ「シドウ!!古龍と街の安全は頼んだわよ……それと……死なないでね……」
シドウ「分かっている、お前こそくたばるんじゃないぞ」
お互いに不安があるのだが覚悟を決めて信頼して任せる事にしてレージュはベルの手を握って遥か上空へと飛んで行き海斗とシドウ、フェンリルは地上に残されてしまった
シドウ「さーてと……地上の俺らは古龍退治といくか」
海斗「そうだな、後はマールって人が来るから耐えれば多分何とかしてくれるはず」
シドウ「競技祭に来てたやつだな、事態が急だからもうそいつに頼るしかないって事か……でも案外俺らだけでも倒せるかもしれないぞ」
海斗「どうなんだろうな?古龍ってやつがどれだけ強いのかが分からないから何とも」
シドウ「俺が知る限りは瘴気を纏って環境をメチャクチャにした古龍という事だけだが幸いにも俺達には効果が薄いようだからな、それにその武器はあの古龍を倒したガレオスの物なのだろう?ならば勝機はあるはずだ」
海斗「瘴気(勝機)だけにな」
シドウ「……お前は一体何を言っているんだ」
海斗のつまらないギャグを言ったちょうど良いタイミングで上の城の地下が全て崩れ落ちてしまい破片が落下してくる
シドウ「もしかしたら出てこないなんて思ってたりしたがとうとうお出ましのようだな」
シドウが上を見上げて指を刺すと崩壊した城の地下から龍と思わしき巨大な生物が翼を広げており圧倒的な存在感を放っている
海斗「……フェンリル、敵はあいつだよ 戦えるかい?」
フェンリルは少し間を置いて吠えるがその声に不安が混じっている事は海斗も感じ取ってしまう
シドウ「やっぱり前言撤回だ、簡単に倒せるなんて夢のまた夢だぜザンギャグロスさんよ」
海斗「そうだが……だがあれは本当に龍なのか?」
古龍と聞いた海斗はカッコいいのを想像していたのだがその龍の見た目を一言で言うなら不気味の一言に尽きる
長い間封印されていたからか瘴気の影響なのかは分からないが全体は赤黒く羽は所々欠けて骨も見えており目も白く生きているのかさえ怪しいと感じる程の禍々しい見た目をしているのだ
崩れるように着地した古龍またの名をザンギャグロスと言う龍は海斗とフェンリル、シドウに向かって吠えとてつもない圧力を放つ
シドウ「ザンギャグロス……歴史の教科書どおりとんでもない見た目と凄まじい圧力だ……だが見た感じだと動きが素早い訳ではなさそうだ」
海斗「みたいだな……お前を街の方に行かせるわけには行かないんだ ここで決着をつける」
シドウ「あくまでも足止めだと言うことを忘れるなよ、トドメを指す必要は無いからな」
海斗「分かっている」
海斗はザンギャグロスに向かって突っ込んでいき前足に攻撃する
海斗「流石古龍、なんて硬さだ……これなら全力で叩き潰しても問題無さそうだな」
衝撃が走る程の攻撃だがよろける事もなく効いていないようにも見えるがザンギャグロスは武器から何かを感じとったのか狙いを海斗に定めて攻撃をする
シドウ「あいつが引き付けているうちに頭を狙うしかない」
海斗が囮となったというよりも海斗しか狙われずフェンリルとシドウは見向きもされないので攻撃し放題なのだが硬く耐久力が凄まじく中々決定打を与える事ができずにいた
海斗(俺も頭に攻撃を叩き込みたいけど警戒してるようだな)
フェンリルやシドウも強烈な攻撃を浴びせてはいるが疲れてきたのか段々と攻撃の頻度が低下している
シドウ「まだ威力が足りないってのか」
フェンリル「グルル」
しばらくの間戦闘が続くがシドウとフェンリルが疲れたからか海斗は頭に攻撃を叩き込める隙もなく防戦一方になってしまう
海斗「こいつ、動きに慣れて来やがったな化け物め」
シドウ「本当に硬いやつだ……何食ったらこうなるんだ全く」
海斗「冗談言ってる場合か」
カリータ「そうですよ先生」
するとどこからか声が聞こえてくる、この声はシドウと海斗にとっては聞き馴染みのある声でありその方向を振り返るとシドウのゼミの生徒とEクラスのメンバーと他に何人もの生徒がいるのが見える
シドウ「お前達……こいつは俺とこの男が引き受ける!!お前達は後ろから安全な場所で援護するんだ」
咄嗟に状況を理解したシドウは指示をだしてその声に全員が頷きBクラスのリーダーが指揮をとっている、しかしカリータ、リナ、パック、サブナックの四人はシドウの元へ近付いていく
シドウ「お前達何をしている 俺は後ろに下がって援護をしろと」
カリータ「息切れした状態でそんな事を言われましても」
サブナック「前衛が足りないんだろ?」
パック「だから僕らも先生と一緒に戦います」
シドウ「馬鹿野郎……と言いたい所だが協力してくれるか?」
リナ「はい!!覚悟はできてます!!」
シドウ「分かった、ただザンギャグロスの狙いはあの男のようだからサブナックとパックは俺、リナとカリータはフェンリルと一緒になって動け くれぐれも前に出過ぎるなよ?そしてお前達は瘴気を防ぐ事も忘れるな」
海斗「頼んだぞみんな」
シドウの指示に全員頷き再び戦闘が始まった、生徒の援護が増えたことで隙も多くできシドウの生徒も攻撃に加わった事によりザンギャグロスは怯む回数が多くなってきた
カリータ「……本当に効いているのかな?」
リナ「大丈夫だよ、少しずつだけど効いてると思う」
サブナック「カンナがいたらもう少し楽に行けたかもしれねーけど……俺の拳も中々効いているみたいだな」
パック「それもそうだね、だけどカンナがいなくても僕らでやるしかないよ」
全員が上手く連携して攻撃したので少しの隙ができたのをシドウは見逃さなかった
シドウ「今がチャンスだ!!」
シドウは全員に合図を送ると一斉に左と右足に向かって一斉に攻撃を行った
両足同時に攻撃を受けたザンギャグロスは膝をついてしまい大きな隙が生まれる
シドウ「今だ!!ありったけの力で攻撃しろ!!」
海斗「分かっている」
シドウに言われるまでもなく海斗は助走をつけて飛び上がってザンギャグロスの頭めがけて渾身の一撃を叩き込む
重い一撃を受けたザンギャグロスは痛々しい鳴き声をあげているので海斗の攻撃が大きく効いている事が分かる
海斗「まだまだか……だけどもう一撃だ!!」
シドウ「だいぶ弱っている 次で決めろ!!」
海斗「確実に仕留めるために後ろの人達にバフをかけてくれるようにお願いしてくれないか?」
カリータ「分かりました」
カリータが海斗の指示を受けて後ろにいる生徒に指示をする
グライス「カリータさんの声聞こえた?」
マリア「うん、あの男にありったけのバフをかけてって事らしいわ」
フレイ「恐らくですがあの人があの時私達を救ってくれた人なのでしょうね」
グライス「終わったら色々聞いてお礼を言わないとな」
グライス達を含む全員が海斗に向けて杖を向けてバフの呪文を唱える
海斗「よし!!力が溢れてくる」
バフを受けた海斗はさっきのようにして飛び上がってメイスを両手で担ぎザンギャグロスに向けて振り下ろそうとする……が
海斗「……なんだ、体が……」
振り下ろそうした瞬間に海斗の体は白く輝いてしまう
カンナ「うあっ!?重い」
タイミングが悪く薬の効果が切れてしまったので海斗の状態からカンナになってしまった、そしてカンナになってしまったので筋力も大幅に低下してしまいとてつもない重さを持っているメイスをカンナは空中で抱える事ができずにそのまま落下してしまい地面に大穴が開いてしまう
シドウ「プレートを見せてもらっても疑っていたがまさか本当にカンナだったとはな……そんな事よりもさっさと奴を、俺があの武器でもう一回攻撃すれば良いだろ」
シドウは今だに信じられないといった様子だが気にする時間はないとザンギャグロスの方へと走っていく、そして事情を知らないリナやカリータなどその他のクラスメイトは突然カンナが現れた事に疑問を浮かべ思考が止まってしまったのであった




