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第六十八話 遥か上空で


 エナ「そんな……嘘だ……嘘だと言ってよ……」


 エナは両手と膝を地面につけて下を見つめており顔からは涙を溢れさせながらジックによって張られた結界を拳で叩いている


 ジックはエナに向かって攻撃をしたのだがカンナが庇って攻撃を受けたのでカンナは大きく吹っ飛ばされてしまったので城から落ちてしまったのだ


 工藤「カンナさん……ジック学長、やはりあなたは……」



 その場にいたエナ以外の全員がジックに向けて杖を構えているがジックは焦っている様子はない



 ジック「無駄な事はよしなさいな 今のあなた達はまともに戦う事なんてできませんよ」


 溝上「ライトニング!!……何で 魔力が使えない」


 全員がそれぞれの魔法の呪文を唱えるが特別な結界が張られているため魔法による攻撃は何もできないのである


 ジック「この結界がある限り魔力を扱う君達は無力 脅威となる者は誰一人いない」


 寺山「あんたも魔導士だろ?なら俺ら全員でかかれば……」


 数で勝ってると判断した寺山がジックに向かって走り出そうとするとジックは呪文を唱え全員を牽制する


 山下「何で……私達は何もできないのに何故学長は魔法を」


 ジック「私は長年魔力を線密に操ってきましたからね まだこの世界に来て魔力というのを覚えたての君達には出来ない芸当ですよ……まあ勇者である君達はそれができると思って慎重になりすぎましたがね」


 斉藤「だから魔力が無くても戦えるカンナさんを先に始末したという事ですか……許せません(それに絵美ちゃんか誰か居てくれたらこんな事には……)」


 ジック「カンナ……あなた方は気が付かなかったようですね」


 斉藤「どういう意味です?」


 シア「……まさか」


 ジック「シアは察したようだな……いーや天使クシアと言ったか?」


 そう言うとジックはクシアに向かって手を向けるとの周りから鎖が現れてクシアを拘束し柱を宙に浮かせて磔にする


 クシア「くうぅっ……そんな、一体いつから」


 クシアは体を動かして拘束を解こうともがくが鎖はぴくりとも動かずにジックの満足した笑い声が響いている


 工藤「クシアって……まさかあのクシアさんなの!?」


 山下「そんな訳が……雰囲気や顔は似てるとは思ってましたが髪の色が全然……それにクシアさんは福田君と一緒にいるって委員長が」


 クシア「はい……私は皆さんの知っているクシアです それでカンナという子が あうっ!!」


 クシアは二人の質問に答えようとするが拘束されている鎖から電流が流れたので悲鳴をあげ あまりの痛みにじっとしてられずに手足をバタつかせる


 この様子を見ていた工藤と山下は居ても立っても居られずにクシアを助けようと手を伸ばすがジックに阻まれてしまいクシアはそのまま気絶してしまった


 山下「そんな……色々と聞きたい事が」


 工藤「福田君の事もそうだし何でこんな場所なんかに……」


 ジック「この天使には我が魔法の依代となってもらうから抵抗されないように気絶させた それにそんな事ならあの小娘に聞けばよかろう」


 拘束し気絶させたクシアを自分の隣に運んだジックはエナの方へと杖を向けて火球を放つ


 放たれた火球はエナに直撃はしなかったものの真横の結界に当たって爆発を起こしそれに巻き込まれたエナは吹っ飛ばされて床を転がる


 寺山「エナさん!!大丈夫ですか!!」


 エナ「うぅ……ごめん……ごめんなさい 私のせいで海斗とクシアが……」


 寺山はエナの元へと駆け寄り声をかける、そしてそのエナから聞き覚えのある名前を聞いたので動揺してしまう


 寺山「海斗って まさかあの海斗なのか?」


 高田「確かに海斗って言ってたけど たまたまの可能性だって……」


 溝上「いーや クシアさんも居たって事は多分本当にあいつだったんだと思うよ……何でか分からないけど多分性別を変える魔術を受けてたのかもね」


 高田「という事は福田君も何か目的があったって事なのかな?」


 溝上「もしかしたら俺達と同じでジックを調べる事だったのかもしれないぜ……」


 寺山「それなら何故リゼルは教えてくれなかったんだよ!! 協力できてたら結果は変わったかもしれないってのに……エナさん!!貴方はカンナと仲が良かったよな 実際のところはどうなんですか?」


 海斗の名前を聞いた三人は色々と思う所がありすぐに海斗の事だと確信しエナに真相を聞く


 しかしエナはひたすら泣き続けるだけで寺山の質問に答える事なく謝り続けていた


 ジック「ハッハッハッハ 相変わらずお前は泣いてばかりで役に立たないな、エナよ」


 エナ「……相変わらずってどういう事……です」


 ジック「知らないとは本当に馬鹿な娘だな全く」


 ジックはエナを見下してあざ笑いながら呪文を唱えると黒く禍々しいオーラを放つ大きな魔獣が現れる


 エナ「その魔獣は……まさか何で……私のお父さんとお母さんを襲ってきた……」


 ジック「いくら間抜けでもそれだけは覚えてるようだな」


 その魔獣にエナは怯えており全身が震えている


 寺山「エナさん……こんなに震えて……一体何があったんだよ」


 ジック「貴様らが死ぬ前に教えてやろう それにその馬鹿娘のせいでここにいる全員が死ぬことになるのだからな」


 寺山「……全て話せ」


 ジック「まずはエナだ お前の両親は既に死んでいる……いーや母親の方はもしかすると生きているかもしれんがな」


 エナ「…………そう……だったんだ」


 ジック「生きていると勘違いして家の周りの奴らに色々と聞いたりしてる様子は実に滑稽だったぞ」


 エナ「お父さん……お母さん……私は……」


 溝上「おい!!なんて事いいやがるんだ」


 寺山「溝上君……」


 ジック「あの時は妖精と同化できるお前の特別な肉体に興味があったのだが貴様の親に勘付かれてしまったからな」


 工藤「そんな……酷い」


 ジック「当時のお前の親にあそこまで抵抗されるとは思ってなくてな すぐに死ぬと思ってたがしぶとい奴らだった それに謎の獣人の邪魔さえなければ確実に捕まえられたってのに……まあそれも今となってはどうでもいいが」


 エナ「そんな……学長が全て悪かったなんて 私がこの国を信じたから海斗、クシアの皆が……」


 ジック「全くその通りだな わしが勇者を警戒して気を取られているうちに貴様ら三人に調査させる算段だったのだろうがその内の一人が使えない奴じゃ上手く行くはずもなかろう」


 寺山「そういう事だったのか……クソ」


 ジック「たった一人の計画とは違う行動で全てが狂うのだからな あの組織も使えない奴が何人もおる」

 

 斉藤「あの組織……デストリンガーの事ですね やはり貴方はあの時私達を殺すつもりだったという事ですか」


 ジック「その通りだ テロ行為で貴様ら勇者を一網打尽にするか人質にするつもりだったがあの非常勤講師と勇者の二人に全て壊されたからのう あの時は本当に頭を悩ませたわい」


 斉藤「やはりあの結界は学長の魔法だったと……そしてシドウ先生と福田君が私達を救ってくれたんだ……」


 ジック「そいつはこの女のせいで死んだが安心しろ すぐにクシア以外は全員殺してあいつの元へと送ってやる」


 寺山「全員? あんたはエナさんの妖精と同化できる体に興味があるんだろ? 殺すのか?」


 ジック「今はレージュという実験体がいるからな」


 エナ「そんな……先生も私と同じだから」


 ジック「多少の抵抗はされたが生徒を人質にすれば大人しく捕まってくれたからのう それに色々と未熟なお前は必要ないのだよ」


 エナ「色んな人に助けられて……今を生きてるだけでも奇跡だったのに……私がそれ以上の幸福を求めちゃったから……本当に馬鹿だ」


 山下「エナさん……」


 ジック「わざわざこんな場所に死ににくるとは親と似て本当に馬鹿な娘だ まあ もう時期お前も勇者と共に同じ場所に行くだろう 冥界で仲良くするんだな」


 溝上「そうかい だったら俺らを殺した後は何をするのか教えてくれよ どうせ死ぬんだからそれくらい教えてくれてもいいだろ?」


 寺山「俺もそれは気になるな まあ気に入らない奴を殺すだとか大体の予想はつくんだけど」


 ジック「せめてもの情けだ……貴様らを殺したらその天使を依代にして魔術を行う」


 工藤「クシアさんに何をさせるつもりですか……」


 ジック「貴様らも知っての通り この国の住人は魔力を提供している その魔力ととある条件を満たすと発生する黒魔力を天使であるクシアに注ぐ」


 山下「人が放つ負の感情で黒くなる魔力は存在を否定されてたはずです」


 ジック「当然だろう、これは特定の人間にしか感知できないものだからな」


 寺山「で その魔力をクシアさんに注いで世界を滅ぼすと」


 ジック「そういう事だ 長年ため続けた魔力と黒魔力で四つある古代兵器の魔獣すらにも匹敵する化け物になる」


工藤「そんな……クシアさんに人殺しをさせるなんて」


 山下「辞めてよ……優しい人をこれ以上傷つけないでよ」


 工藤「クシアさんは魔法は人を助ける為に使うものだと教えてくれたのに……酷い」


 ジック「レージュも似たような事をほざいておったな、魔法を扱う人の心だとか言ってたか? 実にくだらん 魔法など所詮は人殺しの道具にすぎないのだよ」


 上野「こんな奴に僕らは殺されるのか……後は異変に気づいた他のクラスメイトや先生に倒してもらうしかないのか」


 ジック「無駄な事よ 協力者も数人おるに加えて古龍を街に放つからな」


 寺山「古龍だと!? そんなのはどこにもいないだろ」

 

 斉藤「過去にガレオスという人が倒したとされている古龍が……」


 ジック「勘がいいな、昔に古龍が辺り一面を瘴気まみれにしてくれたおかげで人が簡単に近づく事ができない場所ができたから隠し事をするにら良い場所になったのだよ」


 エナ「瘴気を放つ古龍なんて……そんなの街に放ったりしたらもう街は……私の故郷が……」


 ジック「ガレオスに倒され長い間封印されていたが多大な魔力を注ぐ事により封印の解除に成功したのだよ」


 工藤「どうしてそんな事をするのですか 街の人たちに罪などないはずです」


 ジック「何人死のうが知らんな わしは平和な世界などつまらん だから全てを破壊したいのだよ」


 両手を広げて高々と笑うジックは全員を見下している、そして遠くで何かの音が小さく聞こえたと思うとすぐに城が大きく揺れる


 ジック「この城の地下に眠っていた古龍の封印が解けたようじゃな 」


 全員なす術もなく半ば諦めるが工藤と山下は諦めていない様子を見せる


 工藤「どんな状況でも諦めない……だって福田君ならそうするから」


 山下「そうです……例え魔法が使えなくたって」


 ジック「無駄な事を」


 工藤と山下は杖を掲げてジックへと向かっていく、しかしジックが放った火球を回避する事ができずに二人は傷ついてしまう


 山下「やっぱり前に出て戦うって難しいね……」


 工藤「そうですね……橋本さんや福田君が大変だったのは分かります」


 エナ「勇者の皆さん……もう辞めて下さい 今の私達じゃこの人には勝てません」


 膝をついたエナはか細い声で勇者全員に声を掛けて訴えており何もかもを諦めている


 山下「エナさん 私は最後まで諦めるつもりはありません」


 工藤「そうです……諦めたりしたらこの世界に召喚させられた意味がありません それに大切なクラスメイトを失ったあの日から私はこの世界を平和にしてみんなで帰るって決めたのですから!!」


 エナ「皆さんも海斗のような事を……」


 ジック「こやつのせいで死ぬというのに異世界人は優しい奴らだ、最後くらいそこで泣いてる最低な女に暴言を吐いたりすると思ってたが貴様らは反吐が出る程のお人好しのようだったな」


 山下「……誰のせいか分かりませんけどね」


 工藤「そうですね……」


 エナ「もういいんです!! 本当は海斗を殺した私を恨んでるでしょ!! 思いっきり殴ったりすればいいじゃないですか!!」


 エナは大声で泣き叫んで工藤と山下の二人に訴えるが二人はエナに優しく声をかける


 山下「理由はよく分からないけど海斗君と一緒に居たんでしょ? だったら分かるはず あの人はそんな事しないって」


 工藤「馬鹿な事をやって時にはずる賢くそして優しい福田君の事が私は好……いえ憧れててずっと力になりたいって思ってたんです だから私は福田君……ではなくて海斗の分まで戦いぬきたいんです!!」

 

 

 エナ「何で……何でそんなに優しくするんですか……私は……貴方達を殺したら最低な女なのに!!」


 絶望的な状況で人の優しさに触れたエナはさらに大声で泣き叫びその声が城全体に響き渡っている


 ?「本当にその通りだよ」


 しかし次の瞬間城が大きく揺れたと思うと同時に聞き覚えのある声が響き地面を突き破って誰かが現れたのであった


 

 

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