第四十八話 揺れる心
シドウ「お前ら!!もっと体を追い込め」
ゼミの教室でシドウの声が響き渡っている このゼミの時間は普段の四コマまでの講義が終わった後の時間に行われるものでカンナが入ったシドウのゼミは魔法の内容とは程遠いものだった
カンナ「88 89……100 なんとか終わった」
シドウ「前から思っていたがカンナは身体能力が優れているな」
カンナ「魔法がイマイチですからね(女の子の体だからか分からないけどこの程度で疲れるなんて)」
その内容というのは腕立て、腹筋、スクワットなどといった筋トレをするというもので魔法とは全く関係ない
カンナ以外の生徒は魔法に関する勉強しかしておらず体を鍛えるという事はやった事はないのでまず最初にシドウが言った腕立て百回の筋トレで苦しそうにしていた
カリータ「うぅっ30回…………キツイです……」
リナ「カンナさん……早いです」
サブナック「……きつかったけど何とか終わった……」
パック「……(なんでこんな事を クソが)」
カンナに続いてサブナックがノルマを達成し他の三人は必死になっている
カンナ「ナックもやるじゃないか」
サブナック「まだまだ姉貴には及びませんよ」
カンナ「……その姉貴っていうの辞めて欲しいんだけど……」
サブナック「えぇっ……じゃあ何て呼べばいいんですか姉貴」
カンナ「普通にカンナって呼んでくれよ (何でこんな風になったんだよこいつは……最初は嫌な奴だったのに)」
他の三人がトレーニングをしてるのを他所に二人は仲良く話している
カリータ「ううっ……余裕そうにしてて羨ましいです」
リナ「私達も……早く終わらせたいですけど……キツイ」
パック「…………」
シドウ「カリータとリナは喋れる余裕があるなら早く終わらせるんだな、パックはもっと声を出して気合いを入れろ!!」
パック「……クソが」
三人とも死にかけの声で返事をしてトレーニングを続け最後にリナとパックがノルマを達成するとシドウから次の指示がはいる
シドウ「よし 次は外に出てランニング五キロ!!その後にグランドラビットジャンプでグランドを一周したら終わりだ」
カンナ「おーし」
サブナック「やるしかないか」
カンナとサブナックは真っ先に飛び出すが他は疲れており息があがっている
シドウ「ゆっくりしてからでいいが絶対に五キロは走ってもらうぞ」
リナとカリータは元気よく返事をしているがパックは黙っており不貞腐れている様子を見せている
シドウ「…………どうしても無理だったら言うんだぞ」
リナ「いいえ 全部やり遂げます」
カリータ「そうですね……行きますよ!!」
パック(何でそんなに頑張れるんだよ)
休憩した三人はカリータとサブナックの後に続いて走り出す ランニングは学園の周りを走るので既にゼミが終わった生徒から変な目で見られていたが三人共そんな事を気にする余裕などはなかったのだ
カンナ「……ふぃー 終わったか」
シドウ「そんな体でよくやる」
カンナ「どうも これくらいならまあまあ余裕ですよ」
シドウ「まさかここまで体力のあるやつがいるとは思ってなかったな……カンナは今日から俺が魔導体術を教えていく」
カンナ「分かりました よろしくお願いします!!」
カンナの予想以上の体力に驚いたシドウは次の段階に移る事を決めて魔導体術を教える事にする
シドウ「……まあ見た感じだと魔力操作はそこそこできてるみたいだからその精度と違った使い方を教えていく まずは全力でかかって来い」
カンナ「分かりました……たあっ!!」
シドウはこちらに手を向けて構えておりカンナも構えて踏み込んでシドウに近づいて拳に魔力を纏って組み手がはじまる
シドウ(思った通り魔力操作の精度は中の下といったところだがそれを身体能力でカバーしていると……)
カンナ(やっぱり先生強いな余裕で受け流されてる……後仕方ないかもしれないけどおっぱいに目線がいってるのが気になる)
カンナの攻撃を簡単に受け流しながら分析してしばらくの間二人は戦いつづけていると
シドウ「あの技は使わないのか?」
カンナ「あの技って?」
シドウ「最初の実技でローゼンに見せていた手から魔力による剣を作りだすやつだ」
カンナ「スピリットセイバーの事か……でもそれで攻撃したら」
この技を使えばシドウに怪我をさせてしまうと心配しているカンナだが「心配するな お前の攻撃には当たらない」とシドウが言うので魔力を手に集中させて剣を作りだす
シドウもそれに応えるようにしてカンナと同じようにして剣を作り出して構える
カンナ「先生もできるんですね」
シドウ「これくらい簡単だ……攻撃はしないから打ち込んで来い」
拳同士のぶつかり合いから手剣同士の斬り合いに形を変えてシドウとカンナの組み手が再スタートし手剣がぶつかる音が響いている
二人が組み手をしている間に五キロ走った生徒が次々とゴールしてその場に倒れこんでいる
シドウ「よーし全員集合したな」
カンナ「うわっ!?」
全員そろった事を確認したシドウはカンナに足払いをして倒れさせ組み手を中断する
サブナック「先生は俺らが来る間にカンナと戦ってたの?」
シドウ「そうだ お前達も俺と戦えるようになるのを目標にして頑張ってもらうぞ だがまずは体力をつけるのが優先だ」
サブナック「俺ももう少し頑張るか」
リナ「頑張ります」
カリータ「毎日これは体にくるけど……やるしかない」
パック「…………」
シドウ「そう言う事で今日は解散だ 後お前達にこれを渡しておくから飲んでおけ」
シドウが一人ずつにペットボトル程度の大きさの瓶を渡す、中には緑色の液体が入っており甘い香りもするのでメロンジュースのような感じだ
カリータ「これは何ですか?」
シドウ「これは俺が薬草と植物を上手く調合させて作った疲労回復薬だ、寝る前に飲むと深い睡眠効果で昨日の疲れが嘘みたいに明日元気になれるおまけに筋肉痛も一切感じない優れものだぞ……味は好みが別れるかもしれないけど甘く調製したから許してくれ」
リナ「凄い……でも甘くしたって言っても飲めるかな……」
サブナック「気合いで飲むしかないだろ」
カリータ「疲れが取れやすくなるんですからそれに変えられるものなんて無いですもんね」
シドウ「その通りだ タイミングは寝る十分前とかに飲んだ方がおススメだぞ それじゃ今日はここで終わりだ皆よく頑張ったな 明日も頑張るんだぞ」
シドウの言葉を最後に今日のゼミは終わり全員眩しい夕日を背にしながら帰り道を歩きシドウに貰った疲労回復薬を飲んでその日は眠りについた
そしてトレーニングの日々が一週間ほど続くのだが三日目にしてちょっとした問題が発生する
シドウ「今日はパックが来ていないようだな」
それまでは嫌々ながらもゼミに顔を出していたパックだったが三日目になると突然顔を出さなくなりその日が二日続いてしまったのだった
しかし学校の中では見かける為辞めた訳ではなくゼミの時間が気に入らないのかこの時間を避けているようである
リナ「パック君 最近来てないけどどうかしたの?」
昼ご飯の時間に一人で座って食べているパックを見つけたリナは隣の席にすわって話しかける
パック「…………なに?」
リナ「その……最近来てないから具合でも悪いのかなって思って……」
素っ気ない反応をするパックにリナは恐る恐る話しかけ続けるがそれを無視して一人で黙々と食べ続けている
リナ「パック君いつも一人で少し前の私を見てるみたいで心配なの」
パック「何だよ……お前Eクラスの癖に偉そうな事言うな!!」
無視を続けていたパックだったがリナの言葉が逆鱗に触れてしまい食事中だったがそのお盆をリナに投げつけて皿を割った挙句制服を汚してしまった
リナ「うぅっ……」
パック「はっ!?」
感情的になってしまい我に帰るパックだったが既に遅くその他の生徒から注目を浴びてしまっていた
サリー「何してんのよ 醜いわね」
パック「…………」
リナ「パック君……」
サリー「一人ぼっちなのに仲良くしてくる人の手を振り払うなんて本当に馬鹿ね 孤高のパック君」
サリーはパックを罵倒し続けるがパックはそれを黙って聞くことしか出来ずリナも泣きそうになっていたが
カンナ「おおおおおー!!」
サリー「うあっ!?痛いじゃない」
カンナ「ゴメンよ」
この騒ぎを見ていたカンナはエナとシアと食事中だったが飛び出して行きその途中でサリーを突き飛ばしてしまう
咄嗟に謝ったカンナはパックとリナを抱えて走り食堂から飛び出して行った
エナ「ごめんなさいねー 」
シア「私がお掃除します」
アスフェア「人使いの荒いよね本当に」
カンナの指示で割れた食器と床を掃除するよう言われたエナとシアは申し訳なさそうにして割れ物を片付けているとサブナックとカリータがエナに話しかけてくる
カリータ「カンナさんはどこに行かれたのですか?」
エナ「あなた達は……」
サブナック「同じゼミの仲間なんだ 何処に行ったか分かるか?」
エナ「そうなんですね カンナはゼミの教室に二人を連れていくと言ってました」
カリータ「そうですか……ありがとうございます、行くよサブナック」
そうして二人ともカンナの後を追ってゼミの教室の方向へと走り出した
エナ「海斗らしいな……」
アスフェア「何?最近話せてないからって嫉妬してるの?」
エナ「別に……そんな事ないよ」
アスフェア「…………」
シア「…………」
言葉では強がってはいるが海斗からプレゼントしてもらったネックレスを握りしめ悲しそうな表情でゼミ仲間の後ろ姿を見つめるエナに二人とも何も言えずにいたのだった




