第三十七話 やる気の無い先生
朝の調査も済ませたカンナはエナとシアに別れを告げて自分の教室へと入る いよいよ今日から学園生活が始まるのだ
?「カンナさんだっけ?」
教室に入ると仲の良さそうな男女グループの人が声をかけてくる
カンナ「……はい……私がカンナですよ(あんまり目立ちたく無いんだけど……でも名前覚えてくれたんだ 嬉しい)」
呼ばれ慣れていないのか暗い雰囲気で返事をしてしまうが内心は全く反対のようである
グライス「いきなりゴメンね 俺の名前はグライスって言うんだ!!これからよろしくね」
グライスと名乗った男の後から他のグループの人がどんどんと自己紹介をしてくるが一斉に沢山の名前を覚えられるはずもなく混乱してしまう
リナ「あっ……あの カンナさん困ってます」
混乱している所にリナが入ってきて助けてくれたが昨日のようにオドオドしており自信がなさそうだ
グライス「リナさん!?……ごめんね(なんだか珍しいな)」
リナが話す事は珍しいのかグループ全員が驚いているようだ
カンナ「大丈夫だよ 俺……じゃなくて私も少し混乱してただけだから」
男っぽい言葉使いがでてしまいグライス達は不思議に思うがホームルームの時間となってしまったのでクラス全員が指定の席に着く
カンナ(つい変な言葉遣いをしてしまうな……早く直さないと)
リナ(カンナさん何か難しそうな事を考えてるのかな?)
男として生きてきた分が長いためたった数週間で女性らしくするというのは演技が得意でもない海斗がやるのは無理がある
カンナ(はぁー……エナが言ってたけど普通に授業とかもあるんだったよな……頑張らないと)
魔法は殆ど素人であるカンナは気合いを入れる、編入生が初日から居眠りするようではクラスから変な目で見られる事は間違いない上に変に目立ってしまえばソルセリの調査所ではないからだ
とはいっても授業は八時半から始まり一時間の授業と十分の休憩を三回行い一旦十二時までで授業は終わりそこから一時間半程の昼休憩を挟んでもう一時間の授業をやるので実際は二時半には学校が終わり調査をする時間は充分にある
カンナ(眠りたい気持ちもあるけど……でもこんなんじゃ駄目だ……俺がクシアさんの授業をしっかりと聞いていれば説教される事も世間知らずな行動をする事も無かったからな、だから授業は眠くてもしっかりと聞くんだ)
今までの説教と馬鹿な行動を振り返してしまい反省した海斗は真面目になろうとしており人として少しだけ成長したようである
異世界で色々と思い知らされた結果海斗は少しだけ成長できたので、ある意味異世界転移をする事は良かったのかもしれない……しかし
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ホームルームの時間が流れて授業開始の八時半を過ぎて十分が経とうとしていたのだがまだ先生が来ていない
カンナ「先生来ないな」
リナ「いつもこんな感じなんですよ……そろそろ来ると思います」
リナがそう言うと教室の扉が開いて負のオーラを全開にしたシドウが入ってくる
シドウ「あーい……遅れてすみませんねー それでは今から魔術応用の講義を……」
カリータ「先生 遅れた分をみんなにきちんと謝ってください編入生もきているのですよ?」
謝ってはいるが全く誠意の感じられない言い方にカリータが文句を言う、リーダーとしてクラスをまとめていく立場のためか編入生にだらしない雰囲気を見せたくなかったのだろう
シドウ「はいはい そういうのいいから 謝る時間が無駄なんだって」
カリータ「何故あなたのような人が先生なんてやっているんですか」
シドウ「こちらも非常勤講師でやりたくてやっている訳では無いので」
このやり取りにクラスの全員が「またか……」と言いたそうに呆れているのが伝わってきたのでカンナはリナに詳しい話を聞いた
リナが言うにはここ一週間はずっとこのような感じでやる気の無いシドウと真面目でプライドの高いカリータが噛み合わずに(噛み合う訳がない)この二人がよく言い争いをするらしい
カンナ「これは先生が悪いような感じがするけど……リナとか他の生徒は何も言わないの?(というよりか解雇にならないのかこの先生、日本だったら即クビになっちまうぞ)」
こんなにもやる気の無い先生は初めて見て逆にシドウの心配をしてしまう
リナ「でもほら……私達Eクラスだから……」
カンナ「Eクラス……か」
リナが昨日言ったようにこのクラスには成績の悪くパッとしない生徒が多いのは入ったばかりのカンナも感じていた……何故なら元の世界の自分から似たような雰囲気をカリータや一部を除いた人達から感じるからである
カンナ(ある意味俺と同じ人がたくさん集まってるって事か……ん?ちょっとまてよ魔法適正皆無の俺が入学できた理由ってもしかして……)
面接での手応えを全く感じていなかった海斗はまさかの可能性を思いつくが真相は定かではない
その裏で言い争いを続けていたカリータが折れてシドウは渋々と授業を始めていた
カンナ(あんなだけど授業はしっかりやるのか……)
授業の内容は魔術の応用についての授業なのだが……
カンナ(えぇ全然分かんない……そもそも基礎が出来ていないし何よりも黒板に書く字が汚ねえ)
カンナは分からないなりにしっかりしようと真面目にノートを取ろうとしてはいたがシドウのやる気のなく雑な板書は読み取りづらく何とも言えない気持ちとなり一時間目の授業が終わってしまった
カンナ(もーーどうしたらいいんだー)
リナ「カンナさん……良かったら私のノートを見ますか?」
困っているのを感じ取ったリナがノートを見せてくれた、ノートには板書された部分がしっかりと書かれておりシドウの板書よりも分かりやすくまとめられていた
しかし基礎がなってないカンナは理屈で説明された魔法の説明を見ても理解する事は難しかった
カンナ「ありがとうリナ、でも時間が無いかも 確か次の授業が」
リナ「そうですね……次は合同で実技の授業ですから後でゆっくり写してください」
カンナ(頭よりも体で覚える方が得意だからな……合同でやるって事はどこのクラスになるんだろ)
リナ「更衣室に行きましょうか……」
そんな事を思いながらも実技の授業は専用の体操服に着替えなければならないためリナと同じクラスの女子の後に着いて行くが皆の顔が暗い
カンナ(なるべく見ないようにして早く着替える……早く着替える)
斉藤「ねえカンナさん 何か変な感じが……って何か考えてる(何でだろ?皆の顔が暗いような感じがする)」
抵抗のあるカンナは別の事に気を取られてそんな事には気付かず何も知らない斉藤だけが妙な雰囲気を感じ取っていた
その疑問は更衣室に入った瞬間にすぐに解消されることとなる
女子生徒「うわっ……Eクラスの奴らだ」
更衣室へ入ると先に来ていたクラスの生徒が冷たい視線を送ってくる、Eクラスの生徒は嫌味を言われながら制服を脱いで体操着へと着替えている
体操着は白い上着と黒い膝下まであるズボンで元の世界の体操服とほとんど同じような感じだ
カンナ(見てない……見てない……見てない)
カンナはなるべく周りを見ないようにしてロッカーで顔を隠しながら着替えておりクラスの皆が悪口を言われているのを気にする余裕などなかった
カリータ「貴方たち!!いい加減にしなさい 編入生がいるのですよ」
耐えられなくなったのかカリータは悪口を言う生徒に注意をする
女子生徒「これはクラスリーダー様ですね 失礼失礼」
馬鹿にしたような捨て台詞を吐いてBクラスの生徒は更衣室から出ていった その中に工藤も居て何か言いたそうな感じだったが同調圧力に流されてBクラスの女子に着いて行った
斉藤「カリータさん……いつもこんな感じなのですか?」
カリータ「はい……薄々感じていたとは思いますけど私達Eクラスはあんな感じで劣等生として見下されているのです……でも斉藤さんは例外だとおもいます」
カリータの言葉を聞いた斉藤は悲しそうな顔を浮かべている、どうやら実力や成績がこの学園では全てであり最下層のEクラスは何も言い返す権利も無く 編入生で異世界からの勇者である斉藤は実力がある事は目に見えているため軽蔑の対象にはなっていないとの事だった
斉藤「そうなんですか……(先生も含めてこのクラスは他の生徒から見下されるように作られているのかな?)」
授業前に嫌な気分になるが時間が迫っているのでクラス全員急いで着替えて更衣室からでてグランドへと向かっていく
体を動かす授業なので少し楽しみにしているのはカンナだけでありクラスメイトの殆どが嫌そうな感じにしていた
指定のグランドへと向かうとEクラスとBクラスの生徒が並んでおりシドウの他に新しい先生が一人いる
?「えーっとEクラスの編入生の人は初めまして私はBクラス担任のローゼンといいますよろしくお願いします」
赤髪の先生で優しそうな目が特徴的で顔から分かるように誠実そうな雰囲気が漂っており先ほど見た生徒の担任とは思えない
ローゼン「こちらの先生がEクラス担任のシドウ先生です今日の実技は私達二人で見ていきますので座学で学んだ応用を活かせるように頑張っていきましょう」
シドウ「よろー」
それに対してシドウの適当さが目立つが気にしていても仕方がない
ローゼン「まず最初に編入生の実力を見てみたいのでテストをしたいと思います」
ローゼンが発言すると全員がカンナを含めた編入生に注目する、工藤、溝上、斉藤の三人は自信があるのか堂々としているが反対にカンナは冷や汗をかいており今にも逃げ出したい気分になってしまったのだった




