第三十一話 過去の話と調査任務
昨日は些細なことからマールと戦うことになってしまったがアリスとルーゼのおかげで助かった、そして今日は昨日のことも踏まえてマールから色々話しがあるみたいで集合場所の食堂へ行かないといけない
今日の業務は休みで更に昨日は寝不足という事もあってか普段とは違い朝の九時頃まで寝ていた
海斗が目を覚まして起きると隣でアリスが抱きつきながら寝ておりエナは海斗が起きる数分前に起きたのか海斗に気付くと「おはよう」と声をかけてきたので挨拶を返す
海斗「おはよう、久しぶりにゆっくり眠れた感じがするよ」
エナ「そうだね……昨日は色々あり過ぎたから」
まだまだアリスが寝ており二人は無邪気な寝顔に癒されながらもアリスを優しく起こして地下室から出て食堂へと向かっていると途中でメイド長に出会う
ベル「アリス様おはようございます……それと貴方昨日は本当にやってくれましたね」
声をかけられたアリスは無邪気に挨拶する、海斗は昨日のことを指摘され返す言葉が見つからないまま俯いているとベルは続けて
ベル「…昨日の屋敷を直すのは大変だったというのに全く」
海斗「昨日はベルさんが全て直したの!?」
ベル「そーよ 本当に面倒なことをさせてくれたわね」
エナ(ベルさんってこんな人だったかな?)
昨日の修復は全てベルがやってくれたみたいで本当に大変だったことが伝わってきた、圧のある言い方に苦笑いしながら謝ることしかできなかったが以外とあっさり許してくれた、エナは普段のベルとは違うとギャップを感じながら食堂までの廊下を歩く
マール「これで全員揃ったわね」
昨日殺されかけた相手がいて若干気まずいが気にしないことにして席へ座る、メンバーはアスフェアを含む海斗達四人とルーゼとベルそしてアリスの八人が集まっている
マール「まず最初に……昨日はゴメンなさい……でも私も色々思ってあんな風になってしまったことを分かって欲しい」
まず始めにマールがアリスと海斗とエナに向かって謝罪をする、素直に謝られたら言い返す言葉もなくエナと海斗はマールを許しアリスも同じように頷いて
アリス「私のほうこそワガママ言ってゴメン……」
アリスの言葉にマールは泣きそうになりながら礼を言う、やっと姉妹で仲直りできたと思っているとマールが口を開く
マール「昨日聞いたと思うけど私とアリスは姉妹ではないわ」
ルーゼとベルは事情を知っているのか澄まし顔をしているが何よりも一番驚いていたのはアリス本人のほうで
アリス「そんな……ずっと前から姉ちゃんだって……」
マール「……ゴメンねアリス今から本当のことを伝えるから……悲しいことを言うけどあなたの本当の姉は恐らく死んでいるわ……私はその姉に変わってあなたを預かっているだけなのよ」
アリス「……そうだったの……」
マール「うん……そしてアリスはダイナ族の末裔なのよ」
エナ「やっぱりアリスちゃんはあのダイナ族なんだね……信じられないけど」
海斗「ダイナ族?ダイナ族って一体何ですクシアさ…… あっ……」
聞く相手を間違えたようだ……様子を見るにクシアとエナはダイナ族について知ってるみたいだしこれまでに何度もクシアの説教という名の授業を受けてきた
クシア「海斗様…これはまた歴史を教えないといけませんね」
案の定地雷を踏み抜いてしまったみたいでクシアの授業が始まってしまった……こうなると誰も止められなくなる
クシア「まずこの世界は遠い昔人間よりも遥かに強い種族である龍族、魔神族、ダイナ族の三つの種族が地上と空を支配してました、この三種族のうちのダイナ族は主に人間の住む地上を中心に活動していて……」
クシア「その頃の人間はとても弱くてひっそりと暮らす生活を日々送っていました……もちろん魔術も解明されていなかったので抵抗する術もなく……多くの人間がダイナ族によって捕食されて絶滅の危機を迎えていたのです」
海斗「………人間同士がそんなことを……」
クシア「いえ 今のアリスちゃんを見ると人間と同じ見た目ですが昔のダイナ族は体がとても大きくて強靭な肉体とパワーを持っている四足歩行の生き物だったのですよ」
海斗「それで昔に人を殺しまくったから差別を受けているってことですか?」
マール「まぁ大体はそんなところよ……かなり長くなってしまったけど分かりやすい解説ね」
予想外の授業に戸惑ってしまったが話が長すぎる事以外は好評だったようで褒められたクシアは嬉しそうにしている
海斗「でもアリスは関係ないだろ」
マール「そう……その通りよ、でも同胞の罪は消えないしその恨みが関係ない子にいくのは当然よ……」
この世界にきてそんなに時間は経ってないがどんな世界にも差別や争いがあり人間同士でもわかり合うことが難しいのに根本的に違うもの同士で理解し合うのは絶望的なのかもしれない
マール「それじゃあ今度はアリスの姉について話そうと思うけど覚悟はある?」
真剣な表情でアリスを見つめるとアリスはゆっくり頷いた
マール「それとあんたもよく聞いときなさいよこの話は魔族と人間が別れる原因ともなった出来事だから、異世界の勇者君」
海斗「なっ!?何で分かった!?」
驚く海斗を他所にマールは語り始める
マール「これは十年前の話…… 十年前に人間と魔族同士の差別を無くすためにやったことがあるの」
エナ「……あの事件のことですね」
元々この世界の住人は分かっていることのようでアリスはまだ小さかったからか記憶になさそうにしておりこれは閉じ込められていた年数と一致している
マール「それは人間の王子と魔族の姫の婚姻よ お互いの代表が結ばれることによってお互い差別せずに助けあいながら生きていくことを誓って大きな式が挙げられる はずだったの」
海斗「待ってくれよ お互いの国民はそれで納得してたのか?」
マール「……全ての民が納得はしている訳では無かったわ……それでも両種族の代表は諦めずに長い時間をかけて民を説得していったの……」
海斗「サンド国王が……」
マール「そーなの、国王自ら前に立って活動していったのよ…そしてリリィ王女も」
海斗「リリィも頑張っていたんだ……まさかそんなことが過去にあったなんて」
ベル「あなた……そこは私が教え……やはり何でも無い」
ベルの発言がかなり引っ掛かって色々と聞くが全てスルーされてしまう、教えたと言おうかしてたみたいだが屋敷に来てからしか会ってなかったはずだ
マール「いいかしら? それで大半の民を説得した結果平和を願う結婚式が決まったわけでなの……そしてその式が盛り上がる誓いのキスの直前で事件が起こるの 」
クシア「……ティラ王女とダグラス王子の殺害ですね」
マール「そう……結婚するはずの王女と王子が多分殺されたのよ そしてその時に殺された王女がアリスの本当の姉のティラ」
海斗「後リリィの兄であるダグラスか……でもアリスの姉ってことはダイナ族なんだろ?魔族側に居たってこと?」
マール「過去から時間をかけて魔族と人間の二つに別れてからダイナ族は魔族側の方に住みついているのよ」
海斗「成る程……そして誰かが裏切ったのか」
マール「そうなの、誰かは知らないけど長年かけて積み上げてきたものが一瞬で崩されたの そして人間と魔族の溝が深まっただけ」
アリス「……お姉ちゃんは死んじゃったんだね」
マール「アリス……それはまだ分からないの……」
アリス「何で?その時を見てたんじゃないの?」
マール「死体をみていないの……二人とも剣で体を貫かれた後は国民達がパニックになってメチャクチャになってしまって落ち着いた頃には二人の姿は無くてそこから行方不明なの……王様達は死んだと思ってるみたいだったけどね」
アリス「もしかしたら生きてるかもしれないってことなの?」
マール「そうだといいんだけどね……ティラ」
海斗「でも何故こんなところに魔族のあんたらがいるんだ?ここは人間の村のはずだろ?」
マール「アリスの身を隠すためよ、事件の後に両国で暴動が起きたの……人間の方は何とかおさまったみたいだけど魔族側の方がかなり酷くて中にはこの混乱に乗っかって国を落とそうとする奴らまで出てきたのだから」
エナ「それでアリスちゃんと一緒に安全な人間の所へ逃げたというわけなんですね」
マール「そうよ アリスの姉が狙われてたなら妹にも危険が及ぶのは当然よ、だから私達のことを受け入れてくれた優しい人達がいるこの村に逃げてきたってわけ」
海斗「そうなのか……過去にそんなことがあったなんてな、何であんたが俺を勇者だと思ったのかしらないけど王様達が俺らにこの世界を救って欲しくて召喚したのか……」
マール「この世界の争いを無くすために召喚された勇者のことは知ってるし貴方からはその勇者と似たような雰囲気を感じたからよ」
海斗「ちょっと待て 一体どういう事だあんたは俺の仲間と会っているのか?」
マール「はぁーー もう良い加減に教えてあげたらどうなの?天使リゼル」
深いため息をつきながらベルを指差すマール、知ってる名前に海斗とクシアは口を開けてベルに注目する
ベル「仕方ないですね……」
ベルの体が光った次の瞬間王宮で見た天使の姿へと変身する、まさかの展開に海斗とクシアは空いた口が塞がらず言葉を失う
リゼル「本当あなた達は世話が焼けるわね」
プライドの高そうな声を聞き間違い無く本物だと確信するがそれにしてもこの状況は本当に意味がわからない
クシア「リゼル…一体どういうこと?」
まず最初に同じ天使のクシアがリゼルに話しかける、色々思う事があるのか普段の穏やかな感じとは違い真剣な表情をしている
リゼル「色々あったのよ……まずあなた達に謝らないといけないわ……ゴメン」
王宮での態度とは違い本当に申し訳なさそうに謝ってきたので二人は反応に困る
リゼル「……あなた達の言い分を信じるべきだったわ」
クシア「王宮で何かあったのですか?」
リゼル「そう…あなた達のゲートを調べたのそしたら本当にフェンリルと戦っていたことに気付いたの」
クシア「そうだったでしょ?まぁ今は可愛くなって懐いていますが」
リゼル「手懐けた!?またそんな嘘……そんなこと今はどうでもいい それでゲートを調べたら誰かがいじった跡があったのよ」
クシア「海斗様やっぱり」
海斗「そうだな……やっぱりあのヘナチョコ王子辺りが怪しそうな感じだったんだよ」
リゼル「そうなの……一番可能性があるのが魔術都市ソルセリのマルク王子」
エナ「魔術都市ソルセリの王子が!?」
エナが驚いているのでソルセリというものについて聞く、その時クシアからの圧を感じたが気のせいだろう
エナ「簡単に言うと魔術が一番発展している国で私が小さい頃に住んでたの……記憶はあまり無いけど」
海斗「そもそもあいつのせいで追い出される羽目になったんだよ」
リゼル「そう 本当ならゲートでの試練の次の日に勇者達を歓迎する宴会をする予定だったのだけど」
クシア「予定より一日早く来てましたもんね……」
リゼル「一日はやいくらいはあり得るかもしれないけど何よりの証拠がこれ」
そういうと金属の破片を取り出して海斗達に見せるがさっぱり分からない
リゼル「これの解析を天矢にお願いしたのそしたらソルセリが作った魔術道具だったのが分かったのよ」
海斗「天矢のやつ……でもそれだけで分かるの?」
昔から機械いじりなどが得意だった天矢が解析したのを知ると自然と笑顔になる
リゼル「これがあなた達のゲートの中から出てきたの」
クシア「ということはフェンリルを呼んだのもマルク王子かその関係者の可能性が」
リゼル「恐らく側近の可能性が高いわ…宴会で皆が酒を飲んで楽しくしてたのにあいつだけ酒も飲まずにコソコソやってたから」
海斗「おいちょっと待て 酒ってあいつらも飲んだのか?」
皆が酒を飲んでたという言葉にクラスメイトがいるのか引っ掛かった海斗は質問をする、もちろん元の世界では20歳以下は飲んではいけないからであるのだがあくまでも元居た世界では、である
リゼル「えぇそうだけど……」
海斗「おーい それ駄目なやつじゃ……」
リゼル「何を言ってるのかしら?そういえばアキも同じ反応をしていたけどこの世界は15歳から酒が飲めるってクシアに習わなかったの?」
元の世界だとアウトなことだったがこの世界だと合法だったみたいで一緒にクシアの授業を寝ていたアキも同じ反応をしていたのが少し嬉しいがクシアと目が合い戦慄が走る
リゼル「茶番は置いといて、とにかくあなた達に魔術都市ソルセリの調査をお願いしたいの」
海斗「調査だって?」
リゼル「あなた達にはソルセリ魔術学園の生徒になってあの国を調査してもらう」
エナ「あのっ……それって私も入ってますか?」
恐る恐る話しかけるとリゼルは首を縦に振るどうやら海斗、クシア、エナの三人で国について調査をしてほしいとのことだった
エナ「でもあの学園に入るのは簡単では無いと思うんですけど」
マール「大丈夫よ、三年くらい前に私があそこで教師をやっていたの、優秀な私からの推薦なら簡単に入学できるから安心しなさい」
この話を聞いてエナはとても嬉しそうにしているのだが
海斗「何をどう調査するんだ?」
リゼル「学園長と人の調査をしてもらいたいの……もう時間が無いわ マール後はお願い」
そう言い残すとリゼルの体が光ってベルの姿に戻った、どんな原理か分からないがマールから話を聞くしかないようだ
マール「色々忙しいみたいね ここから私が代わりに リゼルが言うには学園の動きが怪しいらしくて何故か人を集めるのにこだわっているみたいなの」
何故人工を増やそうとすることが怪しいのかよく分かっておらずそこが怪しいと感じているようだ
マール「本当ならあの国に住むには高い魔術適正がないと入ることはできないの それが勇者達と宴会の次の日に誰でも入国できるようになったみたいで何か企んでるかもしれないからということと」
あまりパッとしない理由だがもう一の理由がありそうだ
マール「こっちの方が本命であの国は人を拉致して連れ去ってる可能性があるの」
エナ「そんな……嘘だよね?」
エナは自分の生まれ故郷がそんな事をしているなんて信じたくないのかひどく落ち込んでいる
マール「ギルドに行方不明者の捜索依頼を出した人から話を聞いていくと三人に一人は魔術によって連れ去られた可能性が高くてさらに現場にはソルセリ産の魔術道具の欠片が落ちていたの」
エナ「そんなことをしていたなんて信じたくない……」
マール「確定じゃないからこそ調査に行って欲しいもしこちらの勘違いだったらそれでいい……ってことをリゼルは伝えたかったみたいよ 」
エナ「そうなんですか……どっちかというと私は学園で学んでみたいかも……」
エナの夢は人を助ける魔導士になることでありエナにとっては逃したくないチャンスとなっている
マール「そんなに深刻に考えなくてもいいと思うわ とにかく学園の生徒にならないと入れない場所もあるし学生として生活して異変や怪しいのを感じ取ったら報告して欲しい ね?簡単でしょ?」
海斗「断る理由もないもんな……やるよ」
マール「そう言ってくれないとね」
エナ「やった! 憧れの場所に行けるなんて思ってなかったよ」
今まで見た中で一番嬉しそうにしている姿を見るとこっちも嬉しくなるが(魔術がまともに使えないが魔術専門の学校に入ってもいいのか?)と心で思う……しかしこんなこと考えていても仕方ない
マール「それじゃ決まりね、八日後後には向こうの生徒になってもらうから準備しておいて」
海斗「分かった……二人で決めちゃったけどクシアさんは良かったの?」
クシア「リゼルが考えたことですから……それに私は海斗様について行きますよ」
やっぱり追い出されたことを根に持っているのかクシアの顔が笑ってない
海斗(そういえば俺もあの国の王子のせいで追い出されたよなもし見かけたら反射でぶん殴ってしまいそうだなでも潜入して調査するんだから派手なことしたら全て台無しだな…………でもあいつ俺と会ったことあるから覚えてるんじゃね?そしたら本末転倒だぞ)
アリス「海斗兄ちゃんどうしたの? 色々考えてるみたいだけど」
海斗「なんか不安要素が思ったよりある気がしてな…… それより アリスに辛い過去があったなんて知らずに首を突っ込んでゴメンな……」
アリス「マールお姉ちゃんが私を思ってくれてたことはよく伝わったからいいの……きっと記憶がないのはマール姉ちゃんが悲しい部分を都合よく忘れさせてくれてたってことだと思うし後悔もしてないよ」
海斗「そうか……なら良かった 」
アリス「それに夜のお散歩も楽しかった またしてくれる?」
海斗「お安い御用だ」
マールはこのやりとりを背を向けながら聞いておりその目は涙で溢れそうになっている、そして次の日から海斗はアリスのお世話係に任命され学園入学までアリスのお世話をすると同時にルーゼの修行もこなすことになる
とはいっても魔術学園に入学するのでルーゼ、エナ、クシアによる三人体制で基礎魔法の強化をすることが主な内容となり
それと同時に墓場まで持って行かなければならない超絶黒歴史を生み出す事となってしまう……




