第二十八話 謎の部屋
マールの屋敷で働きはじめて二週間が経ちいつも通りルーゼとの特訓もしながら生活し特にこれといったこともなくご飯を食べ風呂にも入り一日が終わろうとしていた、変わったことと言えば野宿をしなくて良くなって疲れが取れやすくなったことともう一つは
海斗「何で二人がここに?」
本来なら上の階で部屋を借りているはずのエナとクシアが海斗のいる地下室へとやってきていたので驚いている
エナ「ほら、体調不良のメイドさんが戻ってきたから」
クシア「ここに長くいない私達が使ってても邪魔になるだけなので使われてない地下室に来たんですよ」
海斗「そういうことなのね……部屋空いてるし好きなとこ使えばいいんじゃない?」
空いてる部屋を案内する海斗、しかし二人ともさっきから奥の派手な部屋が気になっているようである
エナ「あの可愛い扉の部屋は何なの?」
クシア「そうですね…気になります」
海斗「あーーあれか…あの部屋は確か…そう入ったら駄目って言われてた」
ベルから注意を受けたのはニ週間まえなので曖昧なことしか覚えてなかったがとにかく入ったらいけないと念を押されたことだけは覚えており
エナ「そうなんだ…分かった」
クシア「気になりますが仕方ないですね…かしこまりました!!」
言葉足らずだったが二人とも納得してくれたようで自分の部屋を決めてその部屋へと入っていった
アスフェア「ねぇあの部屋気にならないの?」
残ったアスフェアが不思議そうに訪ねてくる、彼女も部屋の中身が気になっているようだ
海斗「あれは絶対入ったら駄目なやつだぞ……てか絶対に入るなよ?」
アスフェア「分かってるって」
海斗「マジで頼むからな、ベルさんに何て言われるか……」
昨日の件もあってか海斗は怯えているようだ
アスフェア「成る程ねなんだか納得したわ……後ついてきてくれない?」
恐る恐る話すとアスフェアも理解してくれた、しかし着いてきて欲しいと言われ外に出るとすぐそばに大きく成長したフェンリルが座っている
海斗「おおっ!!見ない間にこんなに大きくなったのか」
最初に会った時から比べるとかなり大きくなっており王宮で戦ったほどの大きさではないが人がたくさん乗っても大丈夫そうなほどに成長しており海斗を見つけるとフェンリルは頭を擦り付けて甘えてくる
海斗「よしよし…でもごめんな完全に忘れてたよ…」
アスフェア「だと思ったよ、特訓で手一杯だったから仕方ないんだろうけど」
海斗「……そうだな、その間はアスフェアが面倒見てくれてたのか?」
アスフェア「そーよ、餌をあげたりと色々したわ」
最初はフェンリルも一緒に屋敷に住めると思い海斗はルーゼに事情を話しフェンリルとの出会いや経緯について詳しく話していた
その話を聞いたルーゼは信じられないと言わんばかりの顔をしていたが経験豊富なルーゼは姿を見ただけでフェンリルだと理解し「そいつは屋敷に住まわせるよりもいい場所があるぞ」と言い近場の森林の中で生活させることとなっていたのだ
その間のフェンリルの面倒はアスフェアに任せる事にしていた、アスフェアが言うには木の実や食べられる植物を与えフェンリル自身はその辺の魔物や動物を腹が減ったら食べるという生活を続けており、食事のバランスが良かったせいなのか知らないがこのニ週間近くでどんどん大きくなってしまい今に至るというわけらしい
海斗「ありがとうな…でももう少しだけ待っててくれないか?」
アスフェア「聞いてるわよだからとっとと強くなってよね」
普段のように生意気な口調は変わらなかったがどこか期待しているような雰囲気でフェンリルとアスフェアはその場から離れて森へと向かっていく
海斗「……寝るか」
フェンリルの成長に驚いたがそれ以外はいつも通りで時間も遅くなってきていたためベットの中へ入る
?「ダシテヨ……オネエチャン」
いつものように幽霊?か何かの声が聞こえていたが気にせずに眠っていると
コンコンと部屋をノックする音が聞こえるのだが面倒なので無視して眠ろうとしていると海斗の部屋の扉が開く
エナ「ねぇ海斗…この地下室って何かいるの?」
エナが突然海斗の部屋へと入ってきた、幽霊系のものは苦手なのかかなりか細い声で話しかけてくる
海斗「zzz何……だい俺は眠くてよー」
完全に寝ぼけておりまともに会話ができそうにない
エナ「よく寝れるよね……私何だか怖くて……一緒に寝てもいいかな……良いよね? だって明日起きれなくなったら怒られるし、そうだよ明日の業務のために仕方ないことだよこれは うんそうだよ」
本音を隠して明日の業務の言い訳を独りで呟いて海斗が寝ているベットへと潜り込む
エナ「暖かい……これなら落ち着いて眠れるかな」
潜り込んだエナは仰向けに寝ている海斗のお腹あたりに手を回して抱きつき横向きになる
エナ「(ヤバい……逆に眠れないかも……でも一人だと不安だし)」
エナがドキドキして添い寝している事にも気付かずに海斗は眠り続けそのまま夜が明けて朝になっていた
海斗「ふぁーっ…よく寝たな……んっ!?」
目が覚めると何か柔らかいものを掴んでいる感触がある、隣でエナが寝ているという状況は意味が分からなかったが寝ぼけていたとは言え胸を鷲掴みしているのは流石にまずいと思い慌てて手を離す
エナ「うーーん 少し眠いなでも海斗よりも早く起きないと…………」
海斗がドタバタしたせいなのかエナも一緒に目が覚める
エナ「……あっ……オハヨウ」
海斗よりも早く起きるつもりだったみたいだがドキドキしすぎて逆に眠れなかったようで同じ時間に起きてしまう
海斗「…オハヨウ………」
エナ「ウン…………」
気持ちいい朝の時間のはずが何故か気まずい空気が流れはじめている
海斗「どうして俺の部屋に?」
しばらくの沈黙からやっと質問をする海斗
エナ「だって昨日の夜に声が聞こえてきて…それが怖くて気が付いたらこの部屋に来てた」
海斗「怖かったのならクシアさんの部屋にでも行けば良かったのに……でも声なんて聞こえるのか?変な雑音なら聞こえてたような気がしたんだけど」
自分の部屋に来てくれて嬉しい気持ちもある海斗だが表にはださずクシアの部屋を提案する、その様子の海斗にエナは納得がいかない様子だ
エナ「別に海斗でも……いいじゃん……でもその様子だと本当に雑音にしか聞こえてないのね」
謎の声を雑音と認識している海斗だがエナには声がはっきりと聞こえていたようで
海斗「うーん……つまり結論をいうとその幽霊?が怖くて俺の部屋に来たってことか」
エナ「悪い?でも怖かったのは仕方ないじゃん……」
普段とは違い子供のようになっているエナ、この様子を見て嘘を言っているとはとても思えない
海斗「そうか……なら今日の夜に調べてみるか」
きっと何かしらの原因があって声が聞こえると予測した海斗は業務が全て終わった後の夜中に調べることを提案する
エナは首を縦に振り納得したようでまた夜に集合することにしていつも通りの業務を行いにそれぞれの仕事場へと向かって業務と修行をこなす
しかし多少遅刻してしまったので二人ともお仕置きを受けることになってしまうのだが……
そしていつも通りの業務が終わって夜中になりエナは昼に事情を話したクシアと共に海斗の部屋へと向かう
クシア「やっぱり昨日は空耳なんかではなかったのですね」
どうやらクシアにも声が聞こえていたようで雑音と捉えていたのは海斗だけだったようである
海斗「クシアさんも聞こえてたのかい…まあ聞こえたら言ってくれないか?」
エナ「うん分かった、その時に言うからしっかりと耳を澄ましてよ?」
聞き取ることが難しいと思った海斗はエナに任せることにしてその時がきたら教えてくれるみたいである
しばらくすると……
???「ウッ サミシイヨ」
耳を澄ませば小さくか細い声が聞こえてくるのだが
エナ「うん やっぱり聞き間違いなんかじゃなかったわ ほら聞こえるでしょ」
幻聴などではなくはっきりと聞こえることを海斗に伝えると
海斗「うーーん?やっぱり雑音か何かじゃないのか?」
エナとクシアにははっきりと聞こえているようだが海斗にはただの雑音にしか聞こえていないようである
エナ「全く……でも一体どこから聞こえてくるのかしら?」
勘の鈍さに呆れるエナだったが耳を澄ませてどこから聞こえてくるのかを聞き分ける
エナ「向こうの方からかな?」
クシア「そうですね」
二人とも音がする方へ行くため部屋から出る、それに続いて海斗も後を追うようにして二人に着いていく
エナ「やっぱりあそこの部屋から聞こえてくるみたいね」
着いていくとベルから入ってはいけないと念を押された部屋をエナは指さしている
海斗「へぇーあの部屋からか……」
気が付かなかった海斗はよく耳を澄ませて音を聞くと……
???「うわーーん」
幽霊ではなく少女の泣いている声が扉の奥から聞こえてくる
海斗「なっ!?嘘だろ誰かいるのか?」
クシア「そうみたいですね……でも一体何のために?」
雑音ではないことに気付いてしまい驚く海斗、クシアの言う通りどんな目的であの部屋があり何故入ってはいけないのか謎が深まるばかりである
エナ「……ねぇ 行ってみない」
海斗「…………」
エナからまさかの提案があるがその先は散々入るなと言われた禁断の部屋なのだが……
海斗「……行くか(もうどうにでもなれ)」
しばらく考えた後に行くと決意する、寂しい想いをしている誰かを放って置けない性格の二人は扉の前まで足をはこぶ
クシア「こんなことをしてしまうと追い出されてしまうのでは……」
クシアは不安げな声になっているがなんだかんだ言って扉の前まで来ている
海斗「本当ならもう少しでここから居なくなる予定だから今更って感じじゃないかな?」
クシア「そう言われればそうでしたね!!」
海斗の適当な理屈に何故か納得しているクシアだがそれが扉を開けていい理由ではないことに気が付いていない、奥にいるのは誰なのかを知りたいという好奇心がメイド長のベルの恐怖を上回った三人は見た目は可愛い扉の部屋の前へと立つ
海斗「よし 開けるぞ」
他の二人が頷いた後にゆっくりと扉を開ける、そこで見たものとは一体……




