第二十七話 失礼な勇者
エナの手料理を気に入ってしまったマール本来ならば明後日で従者としての契約は終わるはずだったのだが期限が伸びてしまうことになっていた
ルーゼ「だそうだ良かったじゃないか」
海斗「まだ完璧じゃなかったからな、それはありがたいな」
まだ魔力操作を上手く出来ていない海斗は納得していたのでその様子を見たエナとクシアももう少しだけ従者として働くことを決めたのだった
マール「そうなのね、とても嬉しいわそうと決まればエナさんには病み上がりのメイドに料理を教えてもらえないかしら?」
エナ「ええっ!?私がですか?」
マールは料理の指導をエナに提案している、エナは自信なさげに返答していたが少し考えて指導係をすることにしたようで
マール「クシアさんとそこのあなたも普段通りの業務をこなしてもらうわよ」
クシア「はい!」
海斗「……えっ」
マールにいつも通りだと言われるが海斗は言葉に引っ掛かる部分があった…そう名前を覚えられてないのである
マール「あらこの男はしつけがなっていなのね…ベル?どうなっているのかしら?」
名前を覚えられてないことに動揺しているところをマールに見られて、ベルに指摘がはいる
ベル「はい!大変申し…」
海斗「これまで通り働かせていただきます!!」
ベルの謝罪を遮って大きな声で返答する、ベルは少々驚いた様子だったがマールに軽く頭を下げる
マール「まぁいいわ、後何日か宜しくお願いしますね」
頭を下げられて満足したのかそう言い残しマールは食堂から出ていきお風呂場へと向かっていく
海斗「名前知らなかったのかよ、お陰で動揺しちまったぜ」
ルーゼ「まぁ一番関わることがないからな」
ベル「……そんなことよりも」
名前を覚えられてなかった海斗をフォローするルーゼだが、ベルは拳を握りしめている
海斗「…あのーベルさん?」
ベル「約束したでしょう?主人に失礼をしたらどうするのか?」
海斗「ギッ(関わりが無いからって忘れてた)何のことでしょうか?…」
ベル「あらあら、忘れたのですね…それなら思い出させてあげましょうか」
余計なことを言ったせいで逆鱗にふれてしまったようである忘れた約束を思い出させるように拳を構えながらこちらへと近づいてくる
海斗「まずい……逃げろっ」
身の危険を感じた海斗はベルから距離を取って逃げだす
ベル「逃げるのですか?面白いですね……」
逃げる海斗を追い越して目の前に立ちはだかり実力の違いを見せつけようとするが
海斗「拳骨なんて勘弁してくれよ」
痛い思いはしたくない海斗は即座に方向を切り替えてさらに逃げる
ベル「何を勘違いしたのでしょうね…あなたは私の拳骨からは逃げられない…そういう意味合いだったのですが?」
海斗「素早さは完全にあっちが上か…というか前から思ってたけどメイドだよな?」
ここにいるメイドは元の世界とは違って礼儀とさらに強さまで求められるようで大変だと感じながら必死に逃げる
海斗「うああーっ」
度々追いつかれそうになるが叫び声と共に足元から赤い雷がはしりベルとの距離が離れる、赤雷の発動である
ベル「思ったよりもやるみたいね」
ベルが初めて海斗のことを褒めた瞬間であると同時に久しぶりに遊ぶことができて楽しんでいるようにも見える
クシア「海斗さんいくら広いといっても物を壊したりしたらどうするんですか」
アスフェア「クシア…こんなに面白いの止めちゃ駄目よ ベルさーんボコボコにしちゃってくださーい」
屋敷の中なので飾ってある物などが壊れそうでクシアは心配して声をかけるが冷静さを忘れたベルのおかげで全く聞こえていない
エナ「アスフェアったら…というかルーゼさんあの二人を止めてくださいよ」
ルーゼ「あいつら……ん?でも待てよ海斗のやつさっき無意識に赤雷を?」
屋敷を心配するクシアにアスフェアは面白がって観戦しているこの妖精はボコされる瞬間が見たいだけである、しかし海斗のことを心配しているエナはルーゼに止めてもらうように頼みルーゼも呆れたように呟き止めようとするが何か思うところがあるようで様子を観察することにした
ベル「さぁ追い詰めたわよ、特訓で逃げ足だけは早くなったんじゃないかしら?」
海斗「かもね、でもあんたの拳骨なんて喰らいたくないんでね」
ベル「でも残念ねもう逃げ場はないわよ」
海斗を追い詰めたベルは拳に魔力を纏い渾身の拳骨を海斗に浴びせようと攻撃する
海斗「ガードだ」
追い詰められたせいなのか海斗はこの瞬間に両腕に魔力を纏うことに成功し拳骨をガードすることに成功した、その瞬間をルーゼは見逃さず
ルーゼ「やはりか…」
ベル「よく耐えたじゃない…これならどうかしら」
海斗「おおおっ!!」
なにやら意味深なことを言うルーゼだったがヒートアップしたベルは拳骨ではなく蹴りなども入って組み手が始まろうとしていたので見かねたルーゼが止めに入る
ルーゼ「全く何をやってるんだお前達は…」
ルーゼは二人の間に割って入り突き放し指摘をする、この言葉を聞いてベルは冷静になり海斗の態度の悪さの文句を言っている
ベル「ふー、つい熱くなってしまったみたいね、でも逃げ回るあなたが悪いのでは?ルーゼも何か言ってちょうだい」
ルーゼ「いいや、お前が熱くなってくれたおかげで新たな発見があったな礼を言うぞ」
ベル「あら…そうなの?何だか良かったみたいだからあなたの拳骨は無しにしてあげるわ」
海斗「良かった…のか?」
必死に抵抗をした結果ベルの機嫌が良くなり拳骨を免れることができたのだが……
ルーゼ「し、か、し暴れた後の後片付けはやってくんだな」
ベル「だそうよ、あなた無駄に抵抗するからこうなったのよ大人しく受けていればよかったのに」
ルーゼ「ベル…お前もやるんだよ」
ベル「はあっ?」
まさか自分がやるとは思っていなかったベルはかなり動揺しておりいつものような真面目な姿からはとても想像できないほど慌てている
ベル「ちょっと何で私もなのよ、大体あんたの弟子が抵抗するからこんなことに」
ルーゼ「でも我を忘れてヒートアップしたのはお前だろう?」
ベル「そういわれると…分かったわ片付けます」
ルーゼ「よろしい」
ルーゼに正論を言われたベルは大人しく従う事にする
海斗「えええー…(エナかクシアさん、手伝ってくれないかなー…)」
業務が終わったのに面倒事が増えてしまったのだが自分のせいであるにも関わらず手伝ってくれないか少し期待してエナとクシアを見つめるのだが
エナ「手伝ってほしそうにしてるね…」
クシア「一応掃除は私の担当ですから、手伝うべきでしょうか?」
アスフェア「何言ってるの無視よ自業自得じゃない」
ルーゼ「妖精ちゃんの言う通り手伝い不要だ、君たちは先にお風呂にでも入ってなさい、後はやらせておくから」
アスフェア「だそうよ、早く行きましょう」
エナ「……うん分かった」
クシア「頑張ってくださいねー…」
エナとクシアの二人は手伝おうかしていたがルーゼに強く引き止められたので素直に従いお風呂へと足を運ぶ
ベル「全くもう…早く取り掛かるわよ、あなたは向こうから綺麗にしなさい」
海斗「あーーい」
気持ちを切り替えて掃除にとりかかるベル、海斗のやる気のない返事が癪に触ったが今説教しても仕方ないのでスルーすることにした
ルーゼ「サボるなよ」
そう言い残しルーゼは部屋を出ていき部屋の中には騒動を起こした二人だけがのこ残り黙々と後片付けをしている
ベル「指定した場所は終わったのかしら?」
海斗「大体は終わってます」
埃が積もっていた場所は完璧とは言えないが及第点程度には綺麗になっており本来ならもう一回掃除させるところだがそんな気力も二人には残っていなかった
ベル「まあ大体終わったわね、まさか二倍も働くなんて思ってなかったわ」
海斗「(誰のせいだよ全く……)そういえばベルさんとルーゼ師匠はどんな関係なんですか?」
心の中で突っ込みながらも先程のベルとルーゼの会話を聞いていた海斗は関係が気になり質問をする
ベル「そうね…今はタメ語で話しているけど私はルーゼに拾われてこの屋敷で働くことになったのよ」
海斗「過去にそんなことが…でも拾われたってことはベルさんは一体何を?」
ベル「あまり良い過去じゃないから知らないほうがいいわ」
海斗「そうなんですか…色々あったんですね」
ベルの過去が気になった海斗だが声のトーンを聞く限り詮索してほしくない過去があると感じて言葉を濁す
海斗「でもベルさんって最初は真面目で堅い感じだったけど意外と子供っぽいところがあったりするんですね」
ベル「あんたみたいなガキに言われたくはないけど、ガキのあんたに一つ教えることがあるとすれば息抜きも必要だってことよ」
海斗「マール様との態度に違いがありすぎて面白いな」
ベル「でしょうね、でもオフの日の私はこんなものよ」
出会った時は真面目で堅い感じだったベルだが海斗と少しだけ遊んだことによって多少打ち解けたようで友達のような距離感になった
ベル「終わったわね」
海斗「そうですね」
ベル「後は風呂に入ってゆっくりしようかしら」
海斗「先にはいっても宜しいですよ?」
ベル「なら遠慮なく先に入るわ、ありがとう」
お礼をいうとベルは風呂へと向かっていった、先に譲った海斗は何もすることがないので久しぶりの自分の部屋へと向かうことにして掃除した部屋から出ていく
海斗「確か…ここだったかな?」
広い屋敷を迷いながらも何とかたどり着く、地下室は前に来た時よりも綺麗になっていた
海斗「誰かが掃除してくれたのかな?確か俺の部屋は……ここか」
一番奥にある派手な部屋が気になったがその手前の部屋へと海斗は入る、中に入ると綺麗になっていてここも誰かが掃除してくれていたようである
海斗「クシアさんかベルのどっちかが掃除してくれたのかな?て言ってもベットと机がポツンとあるだけなんだけどね…」
荷物の多くは影に収納できるため部屋に置ける荷物がなくなんだか寂しい無個性のような部屋になってしまっているがそんなことを気にしていても仕方ないのでベットへと飛び込み横になる
海斗「久しぶりの柔らかい床だな…急に眠くなってきたな……zzz」
久しぶりのまともな寝床に今日の疲れも相まって知らない間に眠ってしまう
???「……ウッ…サミシイナ」
海斗「zzz ん?」
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海斗「気のせいか…でも前もこんなことがあったような気が…zzz」
前と同じような現象があったが特に気にせずに寝ることにした海斗、後にこの音の正体を知ることになり海斗達の運命を大きく変えることとなる




