第九十六話 本来の力
海斗「魔力を使わない? そんな戦い方があるのか?」
レクスの発言を聞いた海斗は疑問を浮かべている
アリス「そんな事ができるの?」
レクス「なんじゃ気付いておらんかったのか?」
海斗「…………そういや戦いの途中であんたの体から赤い線が出てたよな? それであんたは大きく呼吸をしてた」
レクス「その通り 元々魔力が少ない獣人は特別な呼吸や技を身につける事でパワーアップできるのじゃ」
海斗「さらに身体能力をあげられるって事か」
レクス「まーほとんどの獣人はそれができておらんのだが今はそんな事はどうでも良い」
タチ(難しいんだよ)
海斗「呼吸やら何やら言ってるけど何を教えてくれるんだ?」
レクス「お主は何故か知らんが赤雷を無意識に使えておるようだから戦っておった時にわしがやっていたのを教えてやる」
海斗「あの赤い線が出ていたあれか(赤雷は何回も反復して無意識にできるようにはなったからな)」
アリス「私も?」
レクス「もちろんじゃがお嬢ちゃんは少しやってもらう事があるのう」
アリス「やってもらう事?」
レクス「少し待っておれ それとタチはいつも通りの事をやるのじゃ」
タチ「はい」
レクス「まずはお主……海斗じゃったかの?」
海斗「そうだよ おしえてくれ」
レクス「そうか ワシがさっきやっておったやつの原理はわかるかの?」
海斗「うーん……赤い線……血管みたいだったし……血液?」
レクス「やるのう、その通りじゃ 血液の流れを加速させる事で魔力を使わずに力を引き伸ばす事が可能になるのじゃ」
海斗「赤い線は血管が浮き上がってた訳か、仕組みは分かったけどどうやって加速させるんだ?」
レクス「そいつは簡単じゃ、手でもどこでも良いから一箇所に力を入れ続けるだけじゃ」
海斗「そんだけ?」
レクス「後は深く呼吸をしてたくさんの酸素を取り込む事じゃな やってみよ」
海斗「分かった(血液を加速させるならこうすれば)」
右手に力を入れた海斗は手首を左手で強く押さえて集中すると同時に深く深呼吸をする
レクス「(ほーうやるのう)しばらくそのままにしておれ後で見にいく」
集中している海斗を横目にしてレクスはアリスの元へと歩いていく
レクス「お嬢ちゃんは確かに強いがまだ力を引き出せておらん」
アリス「力をまだ出せてないってどういう事?」
レクス「それはお嬢ちゃんのおでこを見れば分かる」
アリス「おでこ?」
アリスは自身の額を触るが理由が分からないようなのでレクスが説明をする
レクス「ダイナ族の者は戦いで力を使う時は額に紋章が浮かび上がるのじゃよ」
レクスは額をアリスに見せつける、その額には台形の形をした線の跡がついていた
アリス「コップを逆さまにしたみたい」
レクス「ワシはハーフだからか形が少し違っておってな、本来のダイナ族ならば三角形の紋章が浮かび上がるのじゃよ」
アリス「そうなんだ、どうしたらそれができるの?」
レクス「そこが難しいところじゃな 方法としては怒りの感情が頂点に達するか自分自身が死にかけるなどがあるのう」
アリス「怒り……」
レクス「簡単な話だとお嬢ちゃんの一番大切な人が死んでしまった、ような事を強く想像してみると良いかもしれのう(無理やりその手の幻を見せる方法もあるがその場合だと力をコントロールできないかもしれんからのう)」
アリス「うーん……」
アリスは初めてマールと戦った時の事を思い出し海斗とエナが傷ついていた時のイメージをする
レクス「おっ」
アリスが集中していると刹那の瞬間に額に紋章が浮かび上がったのをレクスは見逃さなかった
アリス「うぅ……そんなの出来ないよー」
レクス「ふとした瞬間がきっかけになったりするからのう そんなに焦る必要はない(一瞬だけなったがまだまだじゃな)」
アリス「分かった」
レクス「それじゃあ海斗とやらのところに行くかの お嬢ちゃんもついてくるのじゃ(とは言ってもあと少しのきっかけがあるだけで覚醒するかもしれんのう)」
アリスは返事をしてレクスの後ろをついていくと少し顔を赤くした海斗が呼吸を荒くしている様子が目に入る
レクス「良い調子じゃ 最初はきついじゃろうが何回もやって慣れていくのじゃ」
海斗「クハアッ!?……ハァッ!?」
しかし次の瞬間に海斗は苦しそうに胸を抑えて膝をついてしまう
レクス「初めてにしては上出来じゃな(やはりこやつは人間にしては体が頑丈じゃな)」
アリス「海斗お兄ちゃん!?大丈夫なの?」
レクス「まだまだ呼吸が浅いようじゃな」
海斗「……そう……か それに……頭も疲れる」
レクス「これを毎日何度もやる事じゃなそうすればお主らの実力はかなり上がるはずじゃ」
アリス「もっと強くなれるんだね」
レクス「そうじゃお嬢ちゃんは恐らく海斗よりも早く身につける事が可能はなずじゃ」
アリス「どうして?」
海斗「だろうな、やっていて思ったけどこれは並の人間なら大変な事になる技だな」
レクス「当然じゃ その身体機能強化をダイナのや獣人以外の人間がやろうとすれば内側から破壊される可能性がある」
海斗「こんな方法があるなら教えて欲しかったけど人間から教われる技ではない事は確かだな……その代わりの魔力なんだろうけど」
レクス「人間も体を鍛え続けていればできん事もないがな、じゃがお主はワシの想像以上に頑丈のようじゃ」
海斗「鍛え続けてはいるつもりだからな」
レクス「お主本当は何者なのじゃ? 今まで会ってきた人間とは全く違うのう」
海斗「……あんたは知ってるか知らないけど俺は異世界から召喚された人間だよ」
海斗はレクスに自分の正体を明かす事に決めるがレクスは対して驚いておらず予想が確信に変わったように納得している様子を見せている
レクス「やはりか 噂には聞いておったがこれほどまでとはな」
海斗「……色んな人のおかげで強くなれたんだ、そしてあんたに会えて良かったよ」
レクス「そうか……」
海斗「おう……それとついでなんだけど俺の事とアリスの事は黙っててもらえるか?」
レクス「分かっておる その代わりお主らもここでワシに会った事と地下の事は内緒にしておくのじゃぞ」
海斗「分かっている」
レクス「頼むぞ、そして来れるのなら明日もここへと来るといい」
海斗「明日は……何とかしてくるよ」
レクス「分かった、そろそろ日が暮れる時間じゃぞ早くエナのもとへと戻ってやれ」
海斗「そうだな……というか何であんたはエナの事を知ってるんだ?」
レクス「最初に出会った時に彼女の名前を言っておったじゃろ?それか工藤と呼ばれとる方がお主の恋人なのか?」
海斗「なっ!? それは違うぞ工藤は仲の良いクラスメイトで……」
海斗は小声で何か言っているがレクスは面倒くさそうな表情を浮かべる
レクス「分かったからさっさと行かんか 日が暮れるぞ」
海斗「そ、そうだな アリス!!行くよ」
アリス「うん!!またねーレクスおじさんとタチ君」
海斗は慌ててアリスの手を引っ張っていきレクスは笑顔で二人を見送る
タチ「アリスちゃんと俺の年は同じくらいかな」
レクス「恐らくそうじゃろうな 惚れたのか?」
タチ「うっ、うるさいクソジジイ何でそうなるんだよ」
レクス「すまんかった(こやつらが笑顔でいる世界の為にももう一度立ち上がってみるかのう)」
レクスは過去に色々とあり挫折して今現在に至り惰性で子供の世話をしていたのだが海斗やアリス、エナを見て再び立ち上がる決意をしたのであった




