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第零話 吸血姫の独白

 いつだろうか、私が人ならざる者だと知ったのは。


 いつだろうか、私が根本的に他人と大きく乖離してると知ったのは。


 多分それは、何ら特別なことがあった訳でなくて、他の人にとっては何ら変わりない日常で、私にとっても平凡な日常の最中だった筈だ。


 今までの常識が一瞬にしてひっくり返った。

だから余計に絶望した。

勝手に自覚して、勝手に絶望して、他人との関わりを絶った。


 友達だった人を遠ざけ、できるだけ平凡に生きようとしたのだ。でなければ壊してしまうから。


 だから、そのことを知ってからというもの、私の世界は色褪せていて、輝きなど無くて、無気力で、救いなど無かったのだ。


 だからこそ、彼に出会った時、救われた時、私はどうしようもなく憧れて、どうしようもなく救われて、どうしようもなく彼が()()()と思ったのだ。


 あぁ、だから私は、彼を、朝陽を……


────


 ちらりと、ベットの上で安らかに眠っている彼を見る。

ほんと、さっきまで死にかけていた人とは思えない。

と言っても、もう人ではないんだけれど。


 ……こうして彼を吸血鬼へと、人ならざる者へと変えたのに対して躊躇いが無かったのかと言われればそうではない。


 私だってこんなこと機会が無ければする気は無かった。

……ただ機会があればしたのだけれど。


 運が悪かった(良かった)のだ。

彼が死にかけるなんて状況じゃなければこんなことにはならなかった。仮に、彼以外だとしたら見向きもしなかった。

あの日、あの瞬間、刺されたのが彼だったから私は動いた。


………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………いや……白状しよう。


 ……私は彼が、朝陽が、あの時、あの瞬間刺されるを知っていた。知っていながら止めることをしなかった。だって、そうすれば私のものにできたから、朝陽を吸血鬼へと変える大義名分ができるから、だから彼が傷つくことさえ厭わなかった。


 それほどまでに私は朝陽に依存していた。彼が居なければ生きる希望ですら抱けないのだから。太陽()が居なければ()は輝くことは出来ない。だから私はなんだってしましょう。

例え非難されようとも、例え彼を傷つけても、朝陽を、彼を、手にする為なら手段は選ばない。それほどまでに私は朝陽を愛しているのだから。



 嗚呼、だから、彼を手に入れた今、私は誓いましょう。


 私の全てを以て、彼を幸せにすると誓いましょう。


 彼の障害となるものは私が全部滅ぼしましょう。


 仮に、彼に愛されなかったとしても、私は彼を愛するのです。


 彼が生きることを諦めた時は責任を持って私が安らかに殺しましょう。


 それが私がすべきこと、私がしたいことなのだから。


閑話休題(色々話し過ぎたわ)


 もう面会時間は終わりを迎えてしまう。もうちょっと一緒に居たかったのだけれど、まぁ、いいわ。この後少しばかり予定もあるのだから。


「じゃあまたね。朝陽。また明日も来るわ」


 私がそう言おうと彼の反応はない。

あたり前だ、まだ彼はあれから起きていないのだから。多分、明日には起きるだろうけれど。だから心配はない。


 何はともあれ、病室から出る。

そして、病院からも出て家へと踵を返した。


────


「……」


 2階のベランダに出て、私は月を見上げる。

今日は満月だった。雲一つない夜空。綺麗で、大きくて、美しく輝いている。


 ……どうやら頼み事が終わったみたいね。


 私の隣の空間が歪む。

歪み、捻れ、闇となる。

現れるは一人の女性。長い金色の髪を揺らし、彼女は現れた。彼女の名前は蒼崎咲夜(あおざきさくや)。おおよそ大半の人が絶世の美女と言うであろう容姿をしている。

そして私のお世話係、といえばいいのかしら?まぁ、彼女も私と同じく吸血鬼である。


 咲夜さんがここに来たのは私が彼女にある事を頼んでいたから、その報告にきたのでしょうね。

 

「姫様」


 彼女は私のことをそう呼んだ。

その呼び方はあまり好きじゃないんだけれどね。


「……咲夜さん。頼み事は終わった?」


「はい。現状で出来うることは全て。後ほど、彼と一緒に本部の方へ出向いてもらう事にはなりますが」


「あそこに?……あぁ、そうゆうことね。そう、分かったわ、時間が出来たら行くわね」


「……姫様?

それは行けたら行くの間違いでは?

というか来る気、ありませんよね?」


 ……バレてた。


「はぁ……行く。行くわよ。行けば良いんでしょ……」


「本当ですね?本当に来てくださいよ?前みたいになりますからね?」


「本当!!本当だから!!」


「なら良いです。……ではわたしはこれで。また何かありましたらご連絡を」


「助かったわ。……ありがと」


 私の言葉を聞くと彼女は微笑ましいそうな顔を浮かべて姿を消した。


 まぁ、咲夜さんも元気そうで良かったわね。相変わらずだったし。


「はぁ……あそこに行かなきゃならないなんてね。それも、朝陽を連れて……」


 ……憂鬱だ。なんも無いと良いんだけど……まあ、その場合見切りをつければ良いだけのこと。


 ……はぁ、面倒くさい。

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